第12話

 魔王城にきて1週間が経った


 魔王城の中庭は、広い。

 広すぎて、何に使う場所なのか分からないくらいだ。


「ここ、ひろーい!」

 リリアは、ぱたぱたと小さな足で走っていた。


 昨日までより、声がよく出ている。


 骨たちは、その変化にすぐ気づいた。

「声、出るようになりましたね」

「安心してきましたね」

「よかったです……本当に」


 リリアは、そんな会話は気にせず。

 石畳の上を、くるっと回った。


「ねえねえ!」

 急に振り返る。


「ここで、なにしていいの?」

 骨たちは、顔を見合わせる。


「基本、何しても大丈夫です!」

「壊れても修復できます!」

「城は頑丈です!」

 最後の言葉に、少し力が入っていた。


 リリアは、にぱっと笑った。

「じゃあね」


 そう前置きしてから。

「お父様の、まねしていい?」


 骨たちが、一斉に固まる。

「……ま、魔王様の?」

「どの部分を……?」

「声? 立ち方?」

 魔王は、少し離れた場所でそれを聞いていた。


「……やめておけ」

 だが。


「えー、ちょっとだけ!」

 リリアは、もうやる気満々だった。


 魔王が普段、腕を組んで立つ姿。

 あの、威圧感のある佇まい。


 リリアは、小さな体で精一杯、真似をする。

 腕を組んだつもりで、胸を張り。


「…………」

 低い声を出そうとして。


 失敗した。

「…………むー」


 そのまま、気合いを入れる。

「えいっ!」

 ――次の瞬間。


 中庭の空気が、ぎゅっと圧縮された。

「……?」


 リリア自身は、何も感じていない。

 だが。


 周囲の骨たちは。

「うわああ!?」

「空気、重っ!」

「圧縮されてます!?」


 石畳に、細かなヒビが走る。


 風が、渦を巻く。

 魔王の目が、大きく見開かれた。


「……っ、制御を」

 魔王が一歩踏み出し、空気を押さえ込む。


 赤黒い魔力が、静かに広がり。


 数秒で、異変は収まった。

 中庭は――


 少し、削れていた。

「……?」

 リリアは、きょとんとしている。


「いまの、うまくできた?」

 骨たちは、一瞬の沈黙の後。


「すげーーー!!!」

「完璧です!!!」

「才能の塊です!!!」


 魔王「待て」


 骨たちは、止まらない。

「魔王様の威圧を五歳で!」

「無詠唱!」

「空気操作!? 物理!?」


 リリアは、よく分からないまま。


 でも、褒められていることだけは理解した。

「えへへ」


 照れたように、笑う。


 その笑顔を見て。

 魔王は、言葉を失った。


 ――危険だ。

 規格外だ。


 世界に知られれば、確実に狙われる。

 だが。


「……もう2度とやるな」

 そう言いながら。


 魔王の手は、

 リリアの頭に、そっと置かれていた。


「でも、すごい?」

 リリアが、上目遣いで聞く。


「……ああ」

 小さく、肯定する。


 リリアは、満足そうに頷いた。

「じゃあ、またあそぶ!」


 ぱっと走り出す。


 転びそうになりながら。

 骨たちは、カタカタと笑う。


「元気ですね」

「ようやく年相応です」

「……将来が怖いです」


 魔王は、中庭の傷を見つめ。

 静かに、決意する。


 ――この子は。

 誰にも、渡さない。


 リリアは、まだ知らない。


 自分が、どれほど特別なのかを。

 ただ。


 ここが、安心できる場所だということだけを。

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