第10話
朝になった。
魔王城に、朝日が差し込むことはない。
けれど、時間の区切りというものは、ちゃんと存在している。
リリアは、目を覚ました。
最初に感じたのは、温かさ。
「……あ」
自分が、誰かの腕の中にいることに気づく。
視界の先。
黒い服。
広い胸。
そして――険しい顔。
「……お父様」
寝ぼけた声で、そう呼んだ。
魔王は、微動だにしなかった。
目の下に、わずかな影がある。
「……起きたか」
低い声。
少しだけ、かすれている。
「うん」
リリアは、素直に答えた。
そして、にこっと笑う。
その瞬間。
「可愛い」
「朝一でこれは反則です」
「心臓がありませんが痛いです」
骨たちが、一斉にざわめいた。
リリアは、きょとんとする。
「……?」
魔王は、咳払いを一つ。
「……離れるぞ」
そう言って、リリアを下ろす。
動きは、昨日よりも慣れていた。
リリアは、ベッドに座り直す。
足は、やっぱり床に届かない。
「……お父様、ねむい?」
無邪気に聞くと。
「……問題ない」
即答。
だが、骨たちは見逃さなかった。
「完全に寝不足ですね」
「一睡もしてませんね」
「親バカです」
魔王は、睨む。
骨たちは、気にしない。
朝の支度が始まる。
着替え、顔を拭く。
全部、骨たちが手際よくこなす。
「くすぐったい」
リリアが笑うと。
「笑顔は健康の証です!」
「もっと磨きましょう!」
「輝いてます!」
魔王は、腕を組んで見ていた。
口は出さない。
だが、視線は外さない。
「……行き過ぎるな」
一言だけ、告げる。
「了解です!」
「一歩手前で止めます!」
「過保護ラインですね!」
誰も、止まっていない気がした。
朝食の時間。
昨日と同じ、大きなテーブル。
料理の量は――やはり多い。
「……多くない?」
リリアが言うと。
「成長期ですから!」
「昨日より一口多めです!」
「誤差です!」
誤差の概念が、怪しい。
リリアは、パンをちぎりながら、魔王を見る。
「お父様は、きょうは?」
「……食べない」
昨日と同じ答え。
「そっか」
リリアは、それ以上聞かない。
その代わり。
「じゃあ、となりにいて」
ぽつりと、言った。
魔王は、一瞬、固まる。
骨たちが息を呑む。
「……」
数秒の沈黙。
そして。
「……分かった」
魔王は、椅子を引いた。
リリアの隣。
何も食べず。
ただ、そこに座る。
それだけで。
リリアは、安心したように食事を続けた。
骨たちは、互いに見つめ合い。
無言で、親指を立てた。
魔王城の朝は、騒がしい。
けれど、その騒がしさは――
少しずつ、「家族」の形を作っていた。
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