第4話
五歳の誕生日は、静かにやってきた。
祝われることはない。
ケーキも、言葉も、贈り物もない。
ただ一つだけ、いつもと違うことがあった。
使用人たちが、やけに慌ただしかった。
「今日は測定の日だから」
誰かがそう言っていた。
測定。
その言葉を、リリアは何度も聞いてきた。
意味も、重要さも、もう分かっている。
――今日は、私の価値が決まる日。
そう思っても、心は不思議と落ち着いていた。
期待しないことに、慣れてしまっていたからだ。
測定は、屋敷の奥にある魔術室で行われた。
床には複雑な魔法陣。
中央には、水晶のような装置が置かれている。
「立ちなさい」
母の声は、いつもより硬い。
言われるまま、リリアは装置の前に立った。
小さな手を、水晶に触れさせられる。
父はいない。
最初から、来る予定もなかったのだろう。
魔術師が詠唱を始める。
空気が、わずかに震えた。
「……魔力量、測定開始」
水晶が、淡く光る。
その様子を、母は食い入るように見つめていた。
一秒。
二秒。
三秒。
光は、強くならない。
色も、変わらない。
魔術師が、首を傾げた。
「……おかしいな」
もう一度、詠唱が行われる。
水晶に触れる手に、力が込められる。
それでも。
結果は、同じだった。
光は、反応を示さない。
「魔力量……測定不能」
魔術師の声が、静かに響いた。
部屋の空気が、凍りつく。
母の表情が、見る見るうちに歪んでいく。
期待が、失望に変わる、その瞬間だった。
「……やっぱり、ね」
吐き捨てるような声。
「何も、なかった」
測定不能。
それは、才能がないという意味だ。
少なくとも、この国では、そう扱われる。
リリアは、水晶から手を離した。
自分の中を、もう一度探してみる。
――何かが、ある気はする。
でも、それが数値として現れないのなら。
ここでは「ない」のと同じだ。
母は、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと息を吐く。
「……分かりました」
それは、決定の声だった。
「準備をなさい」
何の準備なのか。
その言葉は、説明されなかった。
けれど、使用人たちの顔色が変わる。
視線が、リリアから逸らされる。
誰も、何も言わない。
その沈黙が。
言葉よりも、雄弁だった。
リリアは、静かに理解した。
――ああ。
――ここまで、だったんだ。
五年間。
「育てる」と言われた期限は、今日で終わった。
この王国における、
リリア・オルテンシアの価値は――
ここで、確定したのだった。
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