第3話
言葉は、自然と覚えた。
誰かに教えられたわけではない。
ただ、周囲の会話を聞いているうちに、意味が結びついていった。
「準備はどうなっている」
「問題ありません」
「魔力量測定は五歳でしたね」
自分に向けられていない言葉ばかり。
けれど、聞いていれば、少しずつ分かるようになる。
リリアは、話せた。
正確には、話そうと思えば話せた。
でも、話さなかった。
話しかけても、返ってこないことを知っていたからだ。
返ってくるとしても、必要最低限の言葉だけ。
それなら、黙っている方が楽だった。
乳母が変わることは何度かあった。
けれど、誰も長くは続かなかった。
「お嬢様は静かすぎて不気味だ」
そんな理由で、次々と替えられていく。
それを聞いても、リリアは何も思わなかった。
不気味でもいい。
そういう存在なのだと、もう受け入れていた。
父は相変わらず家にいない。
たまに屋敷で見かけても、視線が交わることはない。
「……あの子か」
それだけで終わりだ。
母は、時々リリアを呼びつけた。
正確には、呼ばれるというより、連れてこられる。
「じっとしてなさい」
そう言われ、魔力を探るような視線を向けられる。
けれど、母の眉はすぐに険しくなった。
「……やっぱり、何も感じない」
失望の溜息。
それはもう、聞き慣れたものだった。
リリアは、自分の内側を探してみる。
何かがある気はする。
でも、それが何なのかは分からない。
分からないものを、説明することはできない。
だから、何も言わない。
五歳まで。
母が口にしたその期限は、確実に近づいていた。
屋敷の中で、リリアはほとんど一人だった。
広い廊下。
使われていない庭。
誰もいない部屋。
歩いても、走っても、叱られることはない。
誰も見ていないからだ。
転んだとき、少しだけ泣いた。
でも、誰も来なかった。
だから、すぐに泣き止んだ。
――泣いても、意味がない。
それを理解するには、十分な時間があった。
五歳の誕生日が近づくにつれ、周囲の空気は変わっていく。
使用人たちの視線が、どこかよそよそしくなる。
母の表情は、さらに冷たくなった。
「結果次第、ね」
その言葉の意味は、まだはっきりとは分からない。
それでも、胸の奥で何かが軋む。
リリアは、その日を待っていた。
期待ではなく、諦めとして。
この場所に、自分の居場所がないことを。
もう、とっくに知っていたから。
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