第六話 孤影
目を覚ますと、あたりは薄暗らかった。
かつて冷たく、静かで、
命を見守るだけだった自分が、
今は生身の体で、横たわっていた。
思わず両手を目前に出し眺める。
「本当に人になったのか‥。」
突然、ドアが開いた。
「おい、起きてるか?応援頼む」
同僚の声に振り返る
「あぁ‥わ、わかった。」
頭の中は、薄い霧に包まれていた。
通報があったらしい。
事故か、事件か。
詳しい情報は、まだ届いていない。
それでも、体は自然に動いた。
手のひらに力が入る。
かつて握っていた鎌の感触が、
一瞬だけ、よぎる。
廊下を駆け抜ける。
街の匂い、車の音、人々の声。
すべてが、直接、体に届く。
胸の奥で、鼓動が鳴る。
痛みも、疲労も、恐怖も、
すべてが自分のものだ。
現場に到着したとき、
事態はすでに収束に向かっていた。
ブルーシートで覆われた場所。
救急隊と、鑑識の姿。
死神だった頃なら、
ただ見守るだけだった命が、
今は、手の届く距離にある。
俺は立ち止まり、深く息を吸う。
生きること。
守ること。
そして、自分の意志で行動するということ。
ブルーシートの端へ、
一歩、近づく。
目に映るのは、
地面に横たわる現実だった。
かつてのように、
名を呼ぶことも、
影を閉じることもできない。
ただ、人としての視線で、
そこに立っている。
無線が切れる。
静けさだけが残る。
やることは、もう多くない。
それでも、離れられない。
胸に、
死神だった頃にはなかった、
不安と責任の重さが、
ゆっくりとのしかかってくる。
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