4 『人柱/閲覧スルベカラズ』
※映像を見た当時のメモを元に書いています。細部は異なるかもしれません。
撮影媒体:8ミリフィルム
上映時間:34分
映像:カラー
※ラベルに書かれたタイトル
『人柱/閲覧スルベカラズ』(鉛筆で書き殴りのように記されていた)
――再生後、無音ですぐに長文のテロップが登場する。
※黒地に白抜きテロップ
この映像は歴史資料として撮影するものであり、いかなる理由があっても複製、改変、上映会、貸与、放送をすることを固く禁じるものとする。また、この映像を不正に使用して起こったことに関して当社は一切責任をとらないものとする。
■■■興業はその創設から百年の長きにわたって、繁栄と栄華を遂げました。その裏には■■■鉱山を開発した■■■一族を中心とした神事が存在し、この度百周年記念ということで学術資料として幻の神事を映像に収めることになりました。この映像をみだりに上映することを固く禁じ、視聴する際は細心に注意を払い以下の行為を必ず行ってください。
一、映像を見る前に必ず身を清める。
一、濃い塩水で口を濯ぎ、真水をコップ一杯一気に飲む。
一、半紙に二重丸◎を描き、唇に貼り上映中は一切口を開かないこと。
――テロップの後、豪勢な日本家屋の客間と思われる場所で神事関係者と思われる初老の男性のインタビューが始まる。
男性『ええ、確かに私たちはオヤマにクジサマをくれてやってますよ。それがないと生きていけないんですよ。オヤマはクジサマをもらって、私たちは安全に仕事ができる。クジサマになることは大変名誉あることなんです』
※テロップ
■■■鉱山は古来よりオヤマと呼びならわされ、御神体のように崇められています。
男性『オヤマの一部となってオヤマに奉仕できるんだ。それの何が悪いことがあるってんだ。俺だってオヤマになれるってならなんぼでも埋められて構わんわ。えらいことだよ』
――続いて、カメラは外へ出る。屋敷の敷地内にあると思われる蔵が大きく映し出される。その後先ほどの男性の手招きにより、カメラが中に入る。すると、蔵の中に地下へ続く階段がある。
男性『中に入ったら、一言も声を出さないでください。あれは既に神のうちにおりますので、人間の声を聞いたらクジサマとして完成しねぇんですわ』
――階段を降りると、その先に大きく「◎」が書いてある古い扉がある。扉の中に入ると座敷牢があり、中に十四、五の少女が幽閉されている。髪は整えられることなく長いまま、服は幼い子供用の垢じみた着物を着ている。
少女『あっきゃえ、いぐばえだ、がつべじ!』
――少女が叫ぶ。男性が握り飯を牢に投げ込むと、少女は拾い上げて無心でかぶりついた。男性は水の入った皿を新しいものに替え、更に山盛りの砂糖が盛られた皿を牢に入れた。少女は握り飯に気を取られ、砂糖には気が付かない。男性の「出ろ」という合図でカメラマンは回れ右をして、男性と共に蔵の外へ出た。
男性『今日は機嫌が随分と良かった。あんた方を見て嬉しかったんだろう。俺の仕事は、クジサマはオヤマに捧げるものだから、死なねえようにするだけだ。ああやって砂糖をあげるとしばらく機嫌がいいで、今日もやってみた』
※テロップ
クジサマとは何ですか?
『クジサマはクジサマだ。オヤマに納めて、俺たちは分け前をもらう』
※テロップ
クジサマになる条件はありますか?
『あのガキのカカアは下働きの分際で■■■興業の跡継ぎが出来たなんて触れ回ったから、ここでこのガキを生んで、そのまま前回のクジサマになってもらった。そんでちょうどいいから、ここで次の祭りまであれを生かしておくことになった。もうすぐ世話しなくてよくなるから楽になる』
※テロップ
クジサマに対して罪悪感はありますか?
『何の話だ? クジサマになるのはとても光栄なこった。俺たちは山の仕事があるからそっちにはいけない。クジサマは神の酒を飲んで、神に近づいていくんだ。痛くはねえはずだ。神の酒は飲んだら最後、オヤマに入るしかなくなるんだから。本当にめでたいことだよ。クジサマになんねかったら、このガキは生まれても来なかったんだ。クジサマの儀式を行うことが、■■■興業節目の最大の祝いだ。しかしな、オヤマにはたくさんの人は連れてかんねえ。俺たちが代表して、オヤマに挨拶をするんだ』
――場面が暗転。インタビューの最後には「こんなもん撮ってどうする」という男性の微かな声が記録されていた。
※テロップ
晶和四十六年弐月廿日 神事之儀
――場所が変わって、古い採掘場になる。第一鉱という札のついた穴に注連縄が張り巡らされ、
※テロップ
第一鉱はオヤマの採掘の際に初代■■■氏が神を見た神聖な場所とされている。
――神主と神事の出席者たちが登場する。全員が頭の前に「◎」を大きく書いた紙を張り付けている。
神主『これより、クジザンライノギを執り行います』
――神主が祝詞を唱え始める。やがてクジサマと呼ばれた少女が出席者たちの手によって登場する。頭の上半分には大きく「◎」が書かれている白い布をまかれ、死に装束を纏い、上半身を縄で拘束されて狂ったように笑っている。クジサマは棺の前で供えられている酒を大量に与えられ、棺に安置された。クジサマのくぐもった笑い声が祭場に響く。
※神主の祝詞がテロップとして表示される
神主『
――神主の声を合図に、第一鉱の奥から数十匹の巨大な
クジサマ『ウーーっ! レ里! 恵ク天ヤヱハっ! 差たワ!』
――クジサマの笑い声が一層高くなり、棺がガタガタと揺れる。百足がクジサマの身体を食い破り始めたのだろう。神主たちの祝詞が一層高く響き、クジサマの悲鳴にも似た笑い声をかき消す。
クジサマ『嘘! ロキ於呂之! 江阿モ!』
――おぞましい光景が広がっているであろう棺の中で、クジサマはひたすら笑い続けていた。何らかの薬物の効果なのか、クジサマの声は百足の毒すら快楽物質としているように恍惚とした響きがあった。
クジサマ『あ、LAの、彌須! れ井クレ児と!』
――まるで激しい性交をしているような少女の喘ぐ声と祝詞が祭場にしばらく響き、やがてどちらも途切れた。カメラはそのまま、一度棺の中を覗き込む。驚くべきことに、クジサマはまだ生きていた。乱れた衣服や布の間から百足があちこち出たり入ったりを繰り返し、そのたびにクジサマの身体がビクビクと揺れた。頭を覆っていた布がはずれて、クジサマの目が露わになっていた。そこにまともな眼球はなく、そこに赤い百足が潜り込んでいった。代わりに鼻の穴と耳の穴から青い百足が出てくる。百足がぞりぞりと潜り込む度にクジサマは痙攣を繰り返すが、その顔にはうっすら笑みが浮かんでいた。
神主『これより、オンヤマノギを執り行います』
――神主の合図で神事の出席者たちが一斉に祭壇に上がり、棺に蓋をした。それから棺は出席者たちの手によって持ち上げられる。最後尾の出席者が照明を持ち、神主と出席者たちを照らす。
神主『
※神主の祝詞がテロップとして表示される
――棺はそのまま第一鉱の中へ運びこまれ、奥にある祭壇のような場所に安置された。そこで再度神主の祝詞が読み上げられ、その後出席者たちは第一鉱を後にする。全員が外へ出た後、第一鉱の入り口は鉄製の柵と鎖で厳重に閉ざされた。そしてその前に「立ち入り禁止」の看板がかけられる。
神主『ありがとうございました。今回の神事も無事に終わりました。今ひとたびの
神主の言葉があり、出席者たちは懐中電灯を手に祭壇を後にする。照明の強い灯りが消され、映像はそこで途切れている。
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