第5話
(これから、陛下の挨拶があるのに!あれだけ人前で話すなと、歯を見せるなと言われていたのに!なんて愚かなの私は!)
足がガクガクと震えて涙が込み上げてきた。
ジュエルの父親である国王陛下は舌打ちをした後尻目にジュエルを見て
「下がれ」
と一言放った。
王命に背けるわけもなくジュエルは背中を向けると走るように急いで会場を飛び出していった。
背中にはいくつもの笑い声が刃となって刺さってくるようだった。
(ああ、もう嫌われたわ。せっかく優しくしてもらったのに)
会場を出てすぐに慣れないヒールでバランスを崩したジュエルは大きく転倒してしまった。
(もう、なんて日なの……)
何もかもが上手くいかなかった。
もしかしたらシルベスターに友達になってもらえるかもしれないと淡い期待を寄せていたのに。
大失敗に終わったジュエルは、泣きながら馬車に乗って森の中へ帰っていった。
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一方、シルベスターは固まったまま動けなくなっていた。
「閣下?聞こえますか?陛下の挨拶が終わりましたよ。閣下?」
「あっ……ああ……悪い……」
隣にいた侍従兼友人が、肩を揺らして声をかけたところ、ようやくシルベスターは現実世界に戻ったようだった。
「アダム、みたか?ジュエル姫の歯を」
シルベスターは両手で口を覆いながら、侍従のアダムに聞いた。
「はい。」
「なんでそんな平然としていられるんだ!?」
「というか……閣下以外、知らない人はいませんから」
「どういうことだ!?」
「閣下は″死神大公″と言われるだけあって、戦場で人を殺めることにしか興味がないから知らないのでしょうが、ジュエル姫は前歯の特徴から、ネズミと揶揄われているんです。もう、ずっと前から」
「揶揄う?」
「ああ……えっと、閣下はネズミやリスなどの小動物を溺愛する傾向にあるので,わからないんでしょうが、前歯が2本大きく生えた特徴を人は嫌がるようですよ。ネズミみたいで醜いと」
「なんだと!?あんなに可愛いのに!どういうことだ!誰が姫を馬鹿にした?でてこい!」
憤ったシルベスターはパーティー中にも関わらず剣の鞘に手をかけたので慌ててアダムが取り押さえた。
「殺してやる!」
「いけません閣下。ここで騒ぎを起こしては、ジュエル姫に迷惑をかけます」
「はっ……」
ジュエル姫に嫌われたくないシルベスターは友人の言葉に、冷静さを取り戻すよう深呼吸を始めた。
息を吐くことで、どうにか怒りを鎮めようとした。
もう手遅れではあるので、周りに人は誰もいなかったが。
「はぁ……俺は、あんな可愛い歯を見たことがないぞ……」
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