第6話 チャレンジ!
体育館に入ると緑色の仕切りネットで二つに分かれていたのが見えた。
大成が受付に行っている間、結月は先に体育館に行っていたため、大成が向かう頃には既に準備を始めていた。
大成が予約したのは倉庫に近い奥側だ。倉庫に近いと準備が早くできるため空いている場合はなるべくそちら側を予約している。
「大成せんぱーい!」
ウインドブレーカーを脱いで練習着になった結月が大成に大きく手を振った。
「先にポールを立ててくれるか?オレも準備が出来次第手伝う」
元気良くはーい、と結月が言ったのを聞いた大成は体育館の端に荷物を寄せて、サブバックからシューズケースを取り出し、準備を始めた。オレ達の後に予約していた人もバレーだったため、片付けの時間は考慮しなくていい。これは二人にとってありがたいことだった。
準備を終えた大成はバレーボールの入ったボールかごを持って結月の方へ向かった。
「ネットはオレが張るよ。白井さんは先に準備運動してて」
大成がネットを受け取ろうとすると、結月はネットを握る力を強くして、それを拒んだ。
「私はもう二年生で後輩もいるんです。先輩に甘えてる私はもういませんよ」
結月は大成が思っていたよりも
「、、そうだな、なら二人で準備しようか。」
「はい!」
これからの結月のことを少し心配していた大成だったが、これなら心配する必要はなさそうだ。
結月が成長するのはとても喜ばしいことなのだが、中には少しのもの寂しさも感じられた。
大成は一人の先輩としての白井結月を見据えていかなければいけないと感じた。
準備体操を終えた大成と結月は早速ボールに触り始めることにした。
限られた時間で簡単に問題を解決するのは正直、至難の業だ。
結局のところは大成が居てもいなくても最終的には結月本人の戦いになるだろう。
「よし、それじゃあスパイクを打ってみてくれ。トスはオレが上げる、オレは客観的に見て問題点を見つけてみる。」
「わかりました。お願いします!」
大成は結月の利き手側に高くトスを上げた。何度も見てきた、
本職には勝てないがそれなりになら大成にも可能だ。
結月は強くボールを体育館に叩きつけた。だがその球が落ちたのはコート外だった。
「まずは良かった点からだな。スパイクの速度が速くなっている。フォームも体がほぼ覚えたな。次、改善すべき点だ。強く打とうとし過ぎている。コントロールを改善したいならまずは少しゆっくりを意識して、狙ってみるといい。」
結月はボールを抱きかかえるように持っていた腕をもじもじさせた。
「先輩は、優しいんですよね」
「どうした?急に」
「私は先輩のスパイクに憧れていました。完璧で、かっこいいスパイクに」
大成は内心驚いた。そんな風に思ってもらえていたのか。と。
結月の目は、真剣だった。嘘は無い。
「だから私は、沢山見て、沢山練習しました。そしたらこの有様ですよ。ヤになっちゃいますよね」
「オレは、白井さんを見て、感じたよ。努力したんだなって」
大成の言葉にも嘘は無かった。単純な技術力だけでなく、先輩としての自覚、立ち振る舞い。
きっと、大成が知らないだけでもっと積み重ねてきたんだろう。
「で、でも、私ずっと失敗してて」
「努力はさ、失敗してても良いんだよ。最後に成功すれば、それでいい」
結月の目から少量の涙が溢れる。
「わたしにも、先輩みたいなスパイクが打てるようになりますか?」
結月の声は弱く、小さかった。
「打てるさ、いや、打てるようにして見せる」
「ほんと、ですか?」
「本当だ。大丈夫、白井さんなら出来るよ」
大成はタオルを結月に差し出した。結月はゆっくりとタオルを受け取り、大成の目を見て
「ご教示、ありがとうございます!」
「まだ何も教えてないんだが、まぁそっちの方が先輩らしいな。よし、早速練習に取り掛かろうか」
「はい!」
それから二人は残りの時間を余すことなく使いきり、結月の問題は無事、解消することができた。
「時間も迫って来たしそろそろ切り上げようか、」
「あと一本だけお願いします!」
感覚を掴んだ結月の顔には前髪が崩れるほどの汗が流れていた。
「わかった。これでラストにしよう」
結月に大成のトスが上げられた。
上げられたボールに結月の手が触れる。
放たれたスパイクは、今日一番のスパイクだった。
ボールが地面に着地した瞬間、体育館に大きな音が響き渡った。
「ふぅ」
大成の視界に入った結月はとても、綺麗に見えた。
それは、意識せずとも視線を寄せてしまう。羽の生えた天使のように。
「お疲れ様」
大成は結月に二つのうちの一つのスポーツドリンクを渡した。
「ありがとうございます。先輩も一回ぐらい打ちませんか?」
「いいんだ、オレは。歳だし」
そう言いながら大成は結月の横に座った。
「私と先輩って一つしか変わらないですよね?」
結月はどこかおかしそうにクスクス笑った。
大成はこのタイミングでサブバックから昼食を食べる前にコンビニで買っていたメロンパンを取り出した。
「上手くスパイク打てたで賞を白井さんに授けましょう」
「なんで私の好きなパン知ってるんですかー?」
結月は多分理由を知っているがなぜなのかと問いただしてくる。ニヤニヤしてるもん
「企業秘密かな」
大成がメロンパンを押し付けると、結月はメロンパンを二つにちぎってこちらに差し出してくる。
「じゃあ先輩にはトス上げてくれてありがとう賞を差し上げますね」
「気持ちは受け取っておくよ。それは白井さんが食べてくれ」
菓子パンは甘すぎて大成的にはそこまで得意じゃない。
「またあーんしてもらいたいんですか?して欲しいならちゃんと言ってくださいね」
「自分で食べます、はい。ありがとうございます」
食べたメロンパンは砂糖の味がした。
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