第7話 馬鹿にしてる

日曜日、大成はフードコートに時間通りに着いた。先にフードコートにいたみなとと合流した。


咲茉えまはどうした?」


「多分そろそろ来るんじゃないかな」


 湊の言った通り、大成が来た方とは逆の、ゲームセンター側から咲茉が入ってくるのが見えた。


「いやーポケットティッシュを受け取ったら今の家にウォーターサーバーありますかー?って聞かれてアンケートさせられたのよー」


 咲茉は小さいポーチからさっきもらったであろうポケットティッシュを出して二人に証明した。


「黙って横を通り過ぎればよかったんじゃないのか」


「相手のお兄さんがぐいぐい来て、私はどうすることも出来なかったんですけどー」


 そうだった。大成は今でもたまに忘れる時がある。咲茉は知らない相手にはとんでもなくあわあわするのだった。


「あーそれは、ドンマイ」


 ここで湊が話を戻すように一つ両手を合わせて音を立てた。


「今日の目的はなんだったけ、二人とも」


「私のお洋服!」


 咲茉が元気よく返事をした。今年の残暑は凄まじく、実際大成も半袖なのだが、咲茉のTシャツには、イラストチックなかにが描かれていて、その下に平仮名ひらがなで「かに」と書かれていた。


「今日はパジャマで来たのか?」


「私服ですがー?みなとぉ、最近大成の言葉がいつもよりチクチクするんですがぁ?」


 咲茉は湊に抱き着こうとしたが、湊はそれを軽くかわした。


「最近何かあった?大成」


 大成と結月、昨日の出来事でまた理解を深められた。大成はあの日、今までよりも結月をもっと好きになることが出来た。咲茉や杏と同じことをしていても感じられない、不思議な気持ち。


「咲末のお陰で白井さんがどんだけ凄いかわかったわ、大違いだな」


「それは、、私を褒めてるの?」


「いや、馬鹿にしてる」


 湊の言うとおりに歩いていくと、女性の服を多く取り扱っている店に着いた。


「咲茉には湊が居ればいいだろ、オレは店の外で待ってる」


「わかったよ。終わったらどこに行けばいい?」


「そこら辺のマッサージ機にでもいる」


「歳だね」「歳じゃん」


「さっさと買ってさっさと戻ってこい」


 大成は二人を服屋に押し込んだ。


「マッサージは機械にしてもらうより白井さんがいいな」


 数十分もすると、大きな紙袋を持った湊と咲茉が帰ってくる。


「ただもど」


 ただもどは三人独自の言葉で、ただいまもどりましたという意味らしい。


「で、ここからどうするか」


「大成はなにか行きたいお店ある?」


「あー特にはなんだが、卵?」


「それは今じゃないなー」


「はいはい!湊先生」


 咲茉は大成と湊の間に入り込んで手を挙げた。


「はい咲茉さん」


「ウォーターサーバーでも契約しに行くのか?」


「だからしないって。早めのお昼にしない?混んじゃうし」


「咲茉にしてはってところだな」


 大成はラーメン、湊はハンバーガー、咲茉はうどんを注文した。


「湊、ポテトはどうした」


 しれっとポテトをつまもうとした大成だったが、肝心のポテトが無かった。


「ポテトは頼まないよ、ナゲットは頼んだけどね」


 そう言いながら湊は15ピースのナゲットを三人から等間隔の位置に置いた。


「大成は恋の進展あったの?」


 咲茉は一度口をつけたナゲットを躊躇なく二度付けしながら言った。


「別に、、なんもないな」


 ありすぎたが言うのは流石に恥ずかしい。大成はまたいつかの機会で、と心の中で誓った。


「何かあった時の間じゃない?」


「いや、何もない、マジで」


「まぁそうゆうことにしておこうか」


 湊は何かを察してくれたのか、ここで踏み留まってくれた。


「この後はどーすんの?」


「だってよ、湊」


「クレーンゲームでもする?」


「ありだな。超」


 三人が食器を片付け終わると、ゲームセンターに入った。


 もぐもぐもぐもぐ


「最近流行りのカバの大きいぬいぐるみだってー」


「女子高生はカバのどこに需要を感じるんだろうね」


 もぐもぐもぐもぐ


「私もよくわかんない、大成はなんか良さそうなのあった?」


「お前らが余ったナゲットをオレの口に一気に詰め込めたせいで破裂しかけたんだが?」


「ごめんって」


 咲茉は笑いながら大成の背中を押した。


 その後、三人はクレーンゲームを楽しんだ。大成は金欠のため応援専門に回ったのであった。


「じゃあ二人とも今日は私の用事に付き合ってくれてありがとー」


「咲茉の予定は数十分で終わったけどな」


「本来の予定はそのつもりだったからね。僕としては大成の洋服も選んであげたかったんだけど」


「また今度な、じゃあ咲茉、湊。気を付けて帰れよ」


「はーい」「大成もね」


「はいはい」


 湊からのお言葉を大成はしっかりと受け止めた。


 12月中旬には期末テストが控えている。大成は大学進学を希望しているため、ある程度の勉強はしなくてはならない。


「勉強には何かご褒美が必要だと思うんだよな」


 もちろんご褒美として大成が想像したのは結月だった。そんなことが起きるはずもないのに。

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