第3話 協力してもらいたいことがあるんですが

時は大成が結月から送られてきたメッセージを確認する少し前。


 10月10日、大成は今日の授業の振り返りをしていた。大成の部屋は風呂場の真上にあるため、現在風呂に入っている杏の上機嫌な歌声が床越しに聞こえてくる。つまり丸聞こえだ。

 

 今日は父親が帰ってこない日なため、夕ご飯は大成が作ることになっている。たまに杏が作るときもあるが、大成が作った方がマシな料理が出来る。どうやら専門外らしい。


「さて、何を作ってやろうかな」


 大成は充電が終わったスマートフォンを拾い上げた。


『協力してもらいたいことがあるんですがいいですか』

 

 大成はいつもと違うメッセージにすぐに気が付いた。

 協力してほしいこと、大成にしかできないこと、好きな人がいて手伝ってほしい、だが大成には主に喋る男友達が湊しかいないのだ。つまり大成の推測が正しければその時点で大成は失恋確定となるのだ。


 大成は先ほどまで座っていた椅子から崩れ落ち、近所迷惑になってしまうほどの声で発狂していた。


「なんじゃそらぁああ!!!」


 結月がこんな意味深なメッセージを送ったのにはちゃんと理由があった。


「んん~こんな感じでほんとに合ってるかな、、やっぱり違う気もするし一回、、」


 メッセージを取り消そうとする結月は緊張のあまり、誤って送信ボタンを押してしまった


「あっ間違えちゃっ送信取り消しを、、」


 このタイミングで大成がメッセージに既読をつける。このメッセージは本来なら大成に届くはずではなかったが結月の間違いと大成のスマホを開くタイミングが完全に噛み合ったのだ。


「あれっ既読ついちゃってことはもう見ちゃったよね、んわーどうしよう」


 結月がおどおどしてる間にそのメッセージはそのまま大成に届いてしまった。

 このメッセージを受け取った大成は現在、家で勝手に妄想して勝手に自爆して発狂しているため数十秒の間、沈黙が続く。


「もう既読ついて少し時間経つけど返信全然こないなぁ」


 ベットで寝転がっていた結月は少しもどかしい気持ちでスマホケースについているバレーボールのストラップを軽く左右に揺らす。

 猫の耳が付いた白色のスマホケースには結月と杏がカメラに向かって「がおー」とポーズをしているプリクラが挟まっていた。


「大成先輩、なにしてるんだろ」


 前に結月が大成先輩に連絡した時はすぐに連絡を返してくれた。だが今日は既読がついてからもう数分経っているけどなかなか返信がかえってこない。

 

「もしかしたら何かあったのかな」


 結月がスマートフォンとにらめっこをして数分後、結月のもとにメッセージが届く。


『すまん 少し急な用事がはいって返信するのが遅れた。それで協力してほしいことってなんだ?』


 大成は覚悟を決め、結月にメッセージを送信した。


『最近スパイクが自分が思ってる場所に中々落ちてくれなくて、よかったら自主練習に付き合ってほしいなと思って』


『恋愛相談じゃないのか?』


 本気で恋愛相談だと思っていた大成は内心すごくホッとしていた


『何考えてるんですかセンパイ』


『それに好きな人が出来ても先輩には相談しませんよ?』


『そうかぁ』


 大成のメッセージにグッドサインのメッセージスタンプが付く。

 結月が大成に恋愛相談をしないのは結月の好きな人が今連絡をとり合っている人物、浅見大成だからだ。

 好きな人に恋愛相談をする女子高生は普通ならまずいないだろう。


『それでスパイクのコントロールだよな?今調べたら明日近所の体育館に1時から空きがあるらしいから3時間ぐらいだったら手伝ってやれるが』


大成の明日の予定は、夕方からバイトがあるが、それ以前は空いていたので問題はなかった。

好きな女子のお願いはなんでも聞く主義の大成であった。


『あそこの体育館ですよね?近くに動物病院があるとこの』


『その体育館で合ってるよ。白井さんが良ければ体育館予約しておくけど、良いか?』


『お願いします!大成先輩は最近全然運動してないんですから怪我はしないように気を付けてくださいよ?』


『お手柔らかに頼む』


 結月から猫のかわいらしいスタンプが送られてくる


「ふぅ」

 

 結月とのやり取りを終えた大成は一息つくとともにベッドに突っ伏する

 ここで大成の部屋の扉が勢い良く開く。


「なにごとじゃーい!」


 大声とともに豪快に登場したのは、だぼだぼの白いTシャツに太ももが7割型見える黒のショートパンツ、タオルで金髪をわしゃわしゃしている大成の妹、浅見杏だった。


「なんで杏が入ってきてんだよ。ここはお兄ちゃんの部屋だぞ」


 杏の髪から水滴が数滴落ちる。後で自分が拭くんだよなと大成は悟った。


「なんでって、お兄ちゃんが私がお風呂入ってた時急に大声出すからじゃん」


「あ、すまん」

 

「お兄ちゃんが叫ぶくらいだからもしかしてなんかあった?」


「いや?特に問題ないけど」


 大成はまだ一応結月のことが好きとは言っていないため、感づかれないようにする必要があった

 

「それなら良かったけど、」


 これ以上深堀りさせないよう、大成は別の話題に話をそらした。


「そうだ。久しぶりにお兄ちゃんが髪を乾かしてやろうか?」


 昔と比べるとしてあげることは極端に減った。どちらかが嫌がったわけではなく、歳を重ねるごとに自然と機会が減っていったように。


 一瞬驚いた顔を見せた杏だったがすぐに先程までの軽い顔に戻った。


「久しぶりにやらせてあげますかぁ」


 杏はぼたぼた水滴を垂らしながらドライヤーと櫛を持ってきて大成の膝の上に座った。

 そして大成は昔の感覚を取り戻すように長い髪に風を送っていった。


「来月には文化祭だけど杏のクラスは出し物とか決まっているのか?」


「んーとねーうちのクラスは今のとこメイド喫茶をやろうとしてるかなぁ」


 結月のメイド姿を想像し、大成は思わず鼻の下を伸ばしてしまう。


「最高だな」


 大成はいつもあわよくばのことを考える妄想癖持ちなのであった。


「ちなみに食べ物はお好み焼き、焼きそば、たこ焼きを出す予定ー」


「凄くファンキーなメイド喫茶だな」


 文化祭の時には必ず訪れようと大成は決心した。


「でしょ」


 たわいもない話をすること数分後、大成は乾いた杏の髪に仕上げとして手櫛を通していた。


「よし。こんなもんかな」


「うん、及第点って感じですかねぇー」


「こら」


 大成は杏の尻をべちんと音を立てて叩いた。


「あいてっ、まぁでも自分で乾かすのも面倒だし、ありがとねお兄ちゃん」


「またのご来店をお待ちしております」


「ふふっ」


 大成は先ほどまで杏が髪を拭いていたタオルを受け取り、部屋に落ちた水滴を残さず拭き始めた。


「それと結月とバレーの練習しに行くならメロンパンでも買って行きなよ、あの子メロンパン好きだし」


「ちょっと待て、何で杏がそのこと知ってるんだ?」


 タオルを動かしていた腕を止め、大成は思わず顔を上げた。


 会話の中では一切結月の話を出していない。どこでそんなに正確な情報を得たんだ?


「だって私が部屋に入る前お兄ちゃんずっと独り言言ってたじゃん」


「マジ?」


「マジ」


 杏はそれだけ言い残してサラサラと自分の髪を撫でながら自分の部屋に戻っていった。


「独り言、改善しないとか?」


 今日は金曜日。明日からは大成にとっても誰にとっても大切な週末が始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る