25話 新型害物 海月

 ───こちら海岸線防衛班、現在の前線はそちらか?!数匹の小型害物を取り逃がした!タケイワタツノミコトに向かっている、直ちに撃ち落としてくれ!


 通信機から飛び出した声は、焦りに満ちていた。息が荒く、言葉がちぎれて飛ぶ。

 なぜだか嫌な汗が頬を伝う。僕は無意識に受話器を掴み、声を返していた。


「こちら特別編成第一班。現在の最前線はこちらだ。状況を繰り返せ、何が起こった?」


──小型害物が“島”から多数襲来!迎撃したが、打ち漏らした個体がいる!一部、未確認の動きをする個体あり!おそらくタケイワタツノミコトへ追従中、到達前に討ってくれ!


 途切れがちな無線からの報告。


 各前線から選抜されたはずの学徒がここまで取り乱すとは──胸の奥で、氷のような予感が蠢いた。


 僕は判断を待たず、もう一つの回線も開いて本部にも聞こえるようにした。


「海岸線防衛班、追従個体は何体か?」


──計十二体!動きが異常に速い!


「新型の特徴は?」


──形は丸形と同じだ。だが奴等は死に際に……爆発する!


 自爆。小型の害物にありがちな終末行動だ。しかし、それだけなら“新型”とは呼ばない。


「通常個体とどこが違う?」


──自爆時に放つのが衝撃ではなく、“水”だ!死ぬ間際に弾けるように大量の水を撒き散らす!……ああ、また島から……こちら防衛を……早く援護を──


 雑音が膨らみ、誰かの叫びを呑み込んで、通信はぷつりと切れる。


 血の気が引いた。


 タケイワタツノミコトには、これまで“水”を与えぬよう徹底してきた。だからこそ、この攻勢だったのだ。

 熱波に宮崎前線の惨劇が脳裏に過ぎる──奴は水を得た瞬間、外皮と結合し、熱波を放つ。


 水は、奴にとって“糧”だ。


 そこへ水を撒き散らす新型が向かっている。考えたくもない結末が、脳裏で勝手に形を取った。


「本部!応答を!」


──こちらも把握した。直ちに全編成班へ念波を飛ばす。貴様らは継続して観測されたし。


 短い返答。回線が切れると同時に、空気が重く沈んだ。

 背後から、ハヤシが半ば悲鳴に近い声で叫びながら、僕の肩を揺さぶる。


「おいトノサキ、不味いぞ!新型、もう前線に着く!」


 その声で我に返る。


 僕は“龍眼”を開き、意識を海岸線方向へと飛ばす。

 視界が霞のように伸び、時間の流れがゆっくりと歪んだ。


 ──見えた。


 タケイワタツノミコトに向かい疾走する十二の丸形。そのうちの全てが、異様な脈動を放っている。 

 その丸形が一斉に前線へ飛び込んだ。タケイワタツノミコトの舌が鞭のように伸び、一体を弾き落とした瞬間、水が“雨”のように降り注ぐ。


 はっとして無線機を握り、送話器を口元に寄せた。だが、報告する暇すらなかった。


 閃光が見えたかと思えば、熱波による土煙が丘を噛み砕きながら迫り、世界がひっくり返る様を早回しで見ているようだった。

 

 無線の向こうで悲鳴が上がった。それが“誰の声か”を考える前に、音も途切れた。


 そして僕は、粉々に砕かれる観測所と共に熱波に呑まれた。

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