24話 善戦 タケイワタツノミコト
一九四三年、七月二日、晴天。九州の地に到着して四日目。
初めに用意されていたやぐらも今は無く、通信機器を背負いながらの移動は辛いが、前線に立つ異能の学徒に比べたら言うことはない。
観測していて手に取るように分かるのが、三班編成の異能の学徒の連携だ。戦闘が進むにつれて磨かれている。
◆
「トノサキ、お前はここに来てから欠かさずに手帳になにやら書き込んでいるな。戦況でも残しているのか?まさかとは思うが、遺書じゃないだろうな」
手帳に筆を走らせていると、ハヤシは訝しげな表情で僕の手帳を覗こうとしたので、音を立てて閉じた。
「まさか、単なる日記さ。小さい頃からの習慣でね、日中に必ず付けているんだ」
「日中に?そういうのは夜に書くものじゃあないか?」
「夜は色々な考え事が頭を巡って気持ちが落ち込むからね。昼間の方が前向きな事が書けそうじゃないか」
「ふうん、そういう物か。俺はやらないから分からんが」
ハヤシは急に興味を無くしたように呟き、視線をやや遠方に向ける。その方角には、タケイワタツノミコトがゆっくりと、しかし確実に侵攻の歩を進めている。
最早耳を澄まさずとも、最前線の学徒の叫び声やタケイワタツノミコトの叫びが聞こえる程の距離である。
「……風が強くなってきたな」
ハヤシは独り言のように呟いた。
「台風が来るからね」
「ああ」
ハヤシの返答と同時に無線機から声がする。
───第三班、後退完了。第一班、前進開始。ハヤシ、トノサキの第一偵察異能班は随時本部に状況を報告されたし。
「了解。引き続き偵察を行います」
ざらついた無線機からの言葉を受けハヤシが返答を返すと、本部の無線はぷつと途切れる。
ハヤシは溜息に似た深呼吸をすると、再び遠い前方に居るタケイワタツノミコトをじっと見つめる。
前線では、第一班が本部方向から隊列を組みながら接敵、攻撃が開始された。
「第一班、三度目の接敵。攻撃に入りました」
───了解。続けて観測せよ。
「了解」
短く返答をし、無線を切る。
三度目の接敵。つまり、三回目の三十分の戦い始まった。この第一班には、僕の所属である舞阪前線基地のツジ、ハヤシの所属の横須賀前線基地のカキクラが参加している。正直、自分の手出しできない領域で仲間が生死をかけた戦いをしているのを見ているのは辛い。
不意な痛みに手を見ると、つい握りこぶしに力が入り、気が付けば掌に血がにじんでいた。じくりと痛む拳を、さらに握る。
だが、これが僕の戦いだ。任された任務は果たさねばならない。
ここで異能の学徒が倒れても、続けて次の班が戦闘を行うのだ。害物に生じた異変を細部まで把握し、共有するのが僕ら偵察班の役目である。隣のハヤシも拳を握り、タケイワタツノミコトを凝視している。
「第一班、ツジの大戦斧の攻撃によりタケイワタツノミコトの体勢が崩れました」
ハヤシが千里眼により見たままの報告を行う。続けて僕が龍眼により害物の反応を感知した。
子機に口を寄せ、状況を伝える。
「損傷は軽微。しかし第三班の攻撃により右前脚に損傷が確認されている。集中して攻撃せよ」
僕らの報告は、脳内へ声を届ける異能“
僕が右足を狙うように通信を入れた途端、第一班の班員の攻撃は、タケイワタツノミコトの右足に集中している。
カキクラの異能、“激蹄”が一蹴りで距離を詰め、タケイワタツノミコトの右足を容赦無く狙う。体勢を崩した所に、ツジの大戦斧の一撃が刺さった。
龍眼の異能を通すと害物の纏う“生命力”のようなものがもやのように見える。ツジ、カキクラを始めとした学徒の集中攻撃により、そのもやが右足を中心に薄くなってきている。
タケイワタツノミコトは時々、その長い舌で辺りを払ったり、硬い外皮で押し潰そうと試みる様子は見られたが、各前線基地の寄りすぐりはそれを躱し続けている。
異能の学徒が戦闘を開始してからタケイワタツノミコトからの目立った攻撃は無く、こちらの攻勢一方で戦闘が進んでいるのだ。やつは、ただ愚直にも真っ直ぐに、九州の中心部に向けて歩みを進めていた。
僕は無線機の子機を手に取る。
「こちら一班偵察部。タケイワタツノミコトの生命力は減少中。右足への攻撃が効いています」
──了解。これよりさらに攻勢を強めるよう指示を出す。
ぶつ、と機械的な音を立てて通信機が途絶える。
しばらくすると、戦闘中の第一班の異能の学徒の動きが先程より活発に攻撃を仕掛けるようになった。
傷を負わせた右足を中心に、今度はその反対の左足を狙っているようだ。本部は更に機動力を削ぐのを狙っているらしい。
弩級腕の異能持ちが地面を抉り取りながら土礫と共にタケイワタツノミコトの横腹に一撃を加えると、畳み掛けるように各員が仕掛ける。
横須賀のカキクラは激蹄で顔面を蹴り上げ、浮いた顎にツジの大戦斧が刺さる。タケイワタツノミコトはこの観測地点まで聞こえる悲鳴を上げると、体勢を崩して横倒れとなった。それに畳み掛けるように各員が攻撃を仕掛ける。
「おお、これは凄い連携攻撃だ!トノサキ、見えるか?!」
ハヤシがやや興奮気味に僕に話しかけて来た。
「ああ、生命力の靄がどんどん縮んでいくぞ!」
まさに怒涛の猛攻であった。“龍眼”で見るタケイワタツノミコトの生命力はどんどんと小さくなっていく。
ごくりと、喉が鳴る。
このまま倒せるのではないか。そんな考えが、よぎる。
そんな折、通信機のノイズが甲高く跳ねた。この前線観測をしている通信機への直通であった。
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