お兄ちゃんはタイヘン!
我が家に至宝が生まれて十余年。
遂に……! 遂に恐れていた事態が俺の前に現れていた。
そう!
「えへへ。お兄ちゃん。紹介するね。
「お、おい。
「え~。良いじゃん良いじゃん」
「あ、あぁ。杉崎君の言う通りだ。あまり迷惑になる様な事をしてはいけないよ」
俺は震える声で鈴奈にそう言ったが、鈴奈は「えー」と不満いっぱいという顔で嫌がっている。
くそっ!
「あ、えっと。すみません! 挨拶も出来てなくて! 俺、杉崎太陽って言うんですけど! お兄さんの事はずっと前から知ってて! それで! お兄さんのプレーに憧れて、サッカーも始めて!」
「そうかそうか。それは嬉しいねぇ」
提案 壱!
物理的に排除する。
いや、駄目だ……! そんな事をしたら妹に嫌われてしまう!
提案 弐!
鈴奈から目撃されない場所で静かに排除する!
いや、駄目だ。同じ学校の同級生だと言っていたし。ウチに来た次の日に行方不明となったら鈴奈もおかしいと思うだろう。
ぐぅー! くぅー!!
どうすれば良いんだ!!
何もいい案が浮かばない!
何の為に今日までサッカーをやって来たんだ! 俺は! こんな時の為じゃないのか!?
鈴奈に近づく害虫を! シュー! する為にサッカーをしていた……ワケではないが、それも出来るのだ。今の俺は!
だというのに~!! 俺は~!!
「じゃあ、お兄ちゃん。私達鈴奈のお部屋でお話するから」
「え」
「えぇー? もうちょっと、話させてくれよー」
「ダーメ。お兄ちゃんだって忙しいんだから」
そんなことないよ! と言おうとしたが、鈴奈はさっさと
あぁぁああああ!!?
このままではぁぁあああ!?
鈴奈がぁぁあああ!
何とかしなくては!!
「そうか。家に来たんだからな。お茶と菓子を用意するべきだろう。うん」
俺はひとまず冷静になり、鈴奈の部屋に侵入する術を見つけ出した。
そして、サッと台所へ向かい、お茶と菓子を用意してマッハで二階へと上がる。
二階へ上がった俺は気配を殺して鈴奈の部屋にぴとっと耳を付けながら中の様子を伺っていた。
今の所、それらしい音はしていない。
まだ様子見をするべきか?
『なぁー。良いだろー? 見せてくれよ』
『えぇー、恥ずかしいよぉ』
『別に減るもんじゃねぇじゃん』
カッ!
お兄ちゃん! エッチなのはいけないと思います!!
そんなんじゃ、お隣のエッチな小説ばかり書いてるお姉さんみたいになっちゃうぞ!!
「やぁやぁ。お待たせ。お茶とお菓子を持ってきたよ」
俺は一秒間に十六回程ノックをして、部屋の中に入るとテーブルの上で何やらアルバムを広げている二人を見やった。
どうやらそれは家族アルバムの様で……ちょうど見ているページはU-17の日本代表として世界大会に行った時の物だった。
つまりは幼い鈴奈の写真を見ていたという事である。
許せん……!
「アルバムを見てたのかい? 恥ずかしいなぁ」
なんて、別に俺を見ていた訳じゃないだろうが、とりあえず言っておく。
こうする事で、仮に鈴奈を見ていたとしても、俺を見ていたと言わざるを得ないからだ。
この状況で俺じゃなくて鈴奈を見ていた、なんて言ってしまえば、鈴奈からの評価はガタ落ちだろう。
えー。キモーいと言うだろう。
そして、俺を見ていたと言えば、恥ずかしいからと合法的にアルバムを封じる事が出来る。
まさに最強無比の一手……!
「いやいや! 恥ずかしいなんて事はありませんよ! この時の試合! 俺、テレビで見てたんですけど! ホントに感動して! 録画して何度も何度も見直して!」
「そうなのか。それは嬉しいなぁ」
ふっ、演技の上手い奴め。
そうやって鈴奈への下心を隠したつもりか!
分かっているんだよ! 俺には全て!
「そんなに喜んでもらえるなんてなぁ。あ、良かったら君にあげたい物があるんだけど」
「え? そんな、悪いですよ」
「まぁまぁ遠慮せずに」
俺は、自分の部屋にサッと向かうと、無駄に積みあがっていたボールを一つ箱ごと持ってきて
「最近サインを頼まれる事が多くてさ。予備で持ってた奴なんだけど。君にあげるよ」
「えぇぇええええ!? 良いんですか!? こんな、こんな貴重なモノ! えぇぇええ!?」
「そんなに喜んでくれるとは嬉しいなぁ」
なんてな。
演技の上手さが命取りだ!
鈴奈に近づく害虫め。
サッカーファンでも無ければ俺のサイン入りボールなどゴミ同然!
しかーし! お前は俺のサッカーファンであると自分を偽ってしまったため! こうして無駄にかさばる物を持たざるを得ない状況になってしまったのだ!
ワッハッハ!
愚かなり!
「オレ……俺、なんて、言えば良いか」
「気にしないでくれ。君がこれからもサッカーを好きでいてくれるなら。それが一番だ」
まぁ、そんな瞬間は一瞬たりとも無かっただろうが……ハッ!
良い事を思いついた!!
「ところで君は今、どの程度練習しているんだ?」
「えっと、毎日学校終わってから、チャイムが鳴るまでですかね」
「なるほど、頑張っているな。しかし、今日はどうだ? 今日も君のライバルは必死に練習している事だろう」
「あ……お、俺! そうですよね! 俺、練習に行きます!」
「うむ。それが良いだろう」
本当に本当に! それが一番だよ。
「あ、太陽君帰っちゃうの?」
「あぁ。悪い。天原。俺、帰るわ。やっぱ練習しないと」
「そう……それは残念だなぁ」
それから、俺は玄関まで
~🌤~
今日は最高の日だった。
天原に相談して良かったぜ……。まさか本物に会えるなんて。感動で涙が出そうだ。
「じゃ、また明日学校でな」
「うん。そうだねー」
そして、ついでだからと天原に別の相談もしてみる。
天原はスゲー良い奴だから、きっと応援してくれると思うんだよな。
「そういえばさ。正之さんって、恋人とか、居るのかな……」
ちょっと照れ臭くなって、頬を掻きながら天原に問うたのだが、天原はいつものニコニコとした笑顔のまま……。
「いるよー」
「え」
とても、重い言葉を投げて来るのだった。
「ちょっと前にねー。なんか綺麗なお姉さんと部屋で一緒に喋ってた。すごーい仲良さそうだったし。多分恋人だと思うな!」
「そ、そうなんだ……ま、そりゃそうだよな」
「うん」
俺は何だか苦しい気持ちを感じながら、それでも貰ったボールをギュッと抱きしめて、笑う。
泣いている所は見られたくないから。
家の前だし。
もしかしたら会っちゃうかもしれないから……。
「そ、そっか。サンキューな! じゃ、じゃあ俺、もう帰るから」
「うん。ばいばーい」
手を振る天原に背を向けて、俺は走った。
練習をしよう。
いっぱい、いっぱい練習しよう。
そう考えて、ひたすらに走った。
~🔔~
あーあ。
ようやく帰ったよ。
ホント、メンドクサ。
どいつもこいつも。私のお兄ちゃんに近づいてきて、ホント何様のつもりなのかな。
お兄ちゃんは鈴奈のお兄ちゃんなのにね。
ホント、ムカつく。
でもまぁアレも、もうこれで諦めるだろうし。
お兄ちゃんには鈴奈の恋人って言っておいたから、告白とかされても大丈夫だろうし。
良かった良かった。
めでたしめでたしって奴だね。
と思っていたら、スマホが通知を私に知らせてくれる。
「……ふっ」
どうやら、また勘違いしているメスが一匹お兄ちゃんに近づこうとしてるみたい。
私は次のゴミ掃除の為に準備を始める事にした。
お兄ちゃんと私の、平和で楽しい生活を護るために。
~完~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます