第3話 赤砂犬とナッツと珍客。

 よろけ、硬い地面に後ろから倒れ込むことを防ぎつつ、顔面の赤い毛玉を掴んで引っ剥がす。そして、再びメインを有視界センサーに切り替えた。


 二つの黒い目玉が、こちらを見ながら「ポメー」と鳴く。長く赤い体毛がふわふわうねうねと動いて、腕に絡みついてきた。


 明らかにじゃれてくる毛玉に、サヤは苦笑する。


 目の前の赤毛玉はこの星特有の犬型生物、赤砂犬せきさけん。サヤのペットだ。

 本来は警戒心の塊で、おいそれと手を出すことなどできないらしいが、サヤの飼っている赤砂犬は見ての通り。


 これでもかと彼に懐いて、好奇心と愛想をたっぷり振り撒く。店の看板犬も務める賢いような、賢くないような、そんなやつだ。


 さすがに買い物通りに連れて行くと、人混みの中で迷子になる可能性が高いため、店番を任せていたのだが。


「おぉー……そうかそうか、そんなに寂しかったかポメ丸」


「ポメェ〜!」


 全身の毛を揺らしながら、体を擦り付けて主張してくる子犬にサヤはご褒美をやることにする。


 バルドの店で買った赤砂犬用の餌。見た目は一般的なドッグフードと大差がないそれは、赤砂犬の飼いにくさから需要が少なく、あまり流通していない。


 バルドの店でも最初は取り扱いがなかったところを、少し前にサヤが購入契約を結んで、特別に置いてもらうようになった。

 ……少し割高にはなるが。


「この餌に、ポメ丸の大好きなナッツを振りかけて……」


 ポメ丸専用の皿の上に、餌をザラザラと乗せて、手のひらで握りつぶしたナッツたちを振りかけてやる。


 すると、ポメ丸の目の色が変わった。

 尻尾はプロペラのごとく残像を持って回転し、揺れ動く毛は喜びや期待を表すように大きくうねる。


 そんな愛犬が可愛くて、サヤは笑いながらポメ丸へゴーサインを出してやった。


「よし、食っていいぞ」


「ポメェェ!!」


 ガツガツと、小さな牙をむき出しにして餌に飛びかかるポメ丸に野生を感じつつ、サヤは残った餌を持って、キッチンへ向かった。


 日常生活の必需品から、店で使う食材まで。全て決まった場所に収納していく。

 結構な買い物になったからか、少し時間がかかるのは、まあ面倒だが仕方がない。


 そうして、最後に床下に冷暗所での保管等を求められる物を入れていたとき。

 サヤのセンサーに反応があった。


「誰か来たな」


 床下を閉じて、顔を上げる。ポメ丸も餌皿から顔を上げて、怪訝そうな顔をしながら壁に三つ並んだ丸窓を見ていた。


 立ち上がると同時に、キッチンの向こう側の丸窓に見知った人影が顔を覗かせる。

 それを見た瞬間に、面倒事が質量を持ってやって来たことを悟った。


 見なかったフリをしたい気持ちが、むくむくと湧いてくる。

 それでもにっこり微笑んで、手をひらひらと振ってみせる人影に、サヤの刻まれた本能特ロボット三原法が諦めを告げた。

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