第4話 舞い込む依頼
クローズの看板をぶら下げていることなど関係ないとばかりに、扉を開けて入ってきたのは、後頭部で銀髪をゆるく結い上げた一人の女性だった。
にこやかな笑顔を向けて、こちらにひらひらと手を振る姿に、サヤはげんなりといった様子で肩を落とす。纏っている砂避けのローブの下からは、中央政府の人間という証である赤と黒の制服が覗いていた。
「何しにきたんだよ、アリシア」
若干のトゲを含めて用件を聞くと、銀髪の女性ことアリシアは「あらやだ、トゲトゲね」と笑ってみせる。
無邪気なようで、よくよく見ると含みを感じさせる笑みを向けられたサヤは、眉間にシワを寄せ、そんな主人と客人を見比べたポメ丸は唸り声を上げた。
「ヴゥゥゥッ……!」
「あら〜ポメ丸どうしたの〜?」
「ポメェェェェ!! ポメェ!! ポメェェ!!」
「いま、飯食ってるからさ」
「あぁ、なるほどねぇ」
皿の上に覆い被さり、盛られた餌を隠すようにしながら唸り、激しく吠えるポメ丸。
赤砂犬は食事中に、仲間以外の存在が現れると餌を取られまいと激しく威嚇する習性があるので。
ひとまず、ポメ丸を落ち着かせるために、横から手を突っ込んで皿を引き抜く。
しっかりと隠していた――と、彼自身は思っている――自分専用の皿がないことに気づいたポメ丸が、信じられないという表情でこちらを見上げてきたのに、少し心を痛めつつ。
「ポメ……? ポ、ポメ……ポメ……?」
「はい、こっちこーい」
「
悲痛な声で鳴きながら追いかけてくるポメ丸を引き連れて空いてる別室へと入り、皿を置く。
そのまま、スライディングしながら飛び込んできたポメ丸を横目に、外に出て扉を閉めた。
扉の向こうからは少しの沈黙の後、ポリポリという食事の音だけが聞こえてくる。
それを確認して戻れば、アリシアが腹を抱えて蹲っていた。
「なんだよ」
「いや、だって、もー……! ポメ丸が凄くかわいいんだもの……!」
「そりゃあ、うちの看板犬ですから」
愛犬の可愛さに鼻高々になりつつも、それで、と話題を変える。
「何しに来たんだよ、お前」
「えー? わかってるくせに〜」
向けられる剣呑な視線を、慣れきった様子で受け止めるアリシア。
サヤはカウンターに手をつきながら、めんどくさいとばかりにため息を吐いた。
「俺はこう見えて、それなりに旧式のロボットですので。思考を読み取ったりはできないの」
「旧式じゃなくて、初期に作られた試作型でしょ。当時の、今でも最新と言える機能が過剰搭載されてるタイプの。ていうか、思考をスキャンして読み取るロボットなんて、まだ作られてもいないわよ」
「どっちでもいいだろ。で、本当に何しに来たんだよお前。こっちはこれから店を開ける準備をしないといけないのに」
「看板商品のアイリーンコーヒーが、届いてない状況で?」
飛び出してきた言葉に、サヤは目を細める。
この物言いからして、用件はおそらく……。
搭載された優秀な演算機がサヤの意思に沿って、相手の目的の正体に関して、いくつかの候補を弾き出してくる。
それらを瞬時に閲覧したサヤは、機械仕掛けの人より
「……わかってんのね」
「まあね。この地域の担当からも一通り聞いてるわ。件の流通ルートを使うキャラバンが、迂回せざるを得なくなってて、結構な商品が品切れ状態になってるって」
「てことは、それ関係?」
「お察しの通り」
こうなってくると向こうが持ってきた話というのは、サヤやこの町にとって無関係なものではないのだろう。むしろ、ダイレクトに生活に直結してくる可能性が高い。
断る選択肢は、ないに等しい。
「…………ゴチューモンは?」
「ブレンドのローストなしで」
「オーケー、聞こうか」
にっこりと満足げな笑みに、サヤはカウンター席に勢いよく座り、降参とばかりに両手を上げた。
赤き星のデブリたち ちゃがま @CF_000
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