第1話 不思議なポケット

第1章 不思議なポケット

 それは、私が小学三年生のときの話である。

 舞台は、私の住む町の隣にあるデパートの屋上。そこにある小さなゲームコーナーだった。当時のゲームは、ほとんどが十円で遊べた。といっても、今のような画面にキャラクターが動くテレビゲームではない。スマートボールのように玉を弾いて穴に入れるものや、クレーンでお菓子をつかむ遊びが主流だった。体を使って引っ張ったり、立ち上がったりする遊びで、目が疲れるようなものではなかった。今思えば、あの頃のゲームのほうが、子どもにはよかったのかもしれない。

 十円といっても、小学三年生にとっては決して安くない。私はポケットに百円玉を忍ばせて、ゲームをしに行っていた。百円あれば、一時間ほどは遊べる。

 その日は、確か百二十円持って出かけた。細かい金額の記憶に多少の違いがあったとしても、話の筋には影響しないので、ここでは百二十円としておく。

 電車で一駅先なのだが、当時の国鉄の最低運賃は三十円。小学生は半額で、端数は切り捨てだから十円になる。往復すると二十円。ゲーム二回分だ。それが惜しくて、私は二キロの道を歩いてデパートまで行った。


屋上に着くと、まず百円玉を十円玉十枚に両替する。それから夢中になって遊んだ。勝てば、もう一回できるゲームもあり、二回続けてできると、ひどく得した気分になった。三十分ほど経ったころだろうか。ポケットを探ると、残りは四枚しかなかった。四十円。あと四回だ。お金が減ってくると、楽しさも少しずつ薄れてくる。なくなれば、帰るしかないからだ。


 そのときだった。

 ポケットから取り出した硬貨を見て、私は首をかしげた。

「……あれ?」それは十円玉ではなかった。百円玉だった。得をしたというより、なぜポケットに百円玉が入っているのかが、まったくわからなかった。

 考えても、思い当たることはない。それでも百円あるのだから、まだ遊べる。私は深く考えず、また両替機に向かった。


百円玉を入れる。十円玉が十枚出てきた。ポケットの中は、十円玉が十三枚。百三十円。最初に持っていた百二十円より、十円多い。

 おかしい。どう考えても、おかしい。

 もしお金が減っていたのなら、落としたと考えれば説明がつく。だが、増えるはずがない。洗濯のとき、母がポケットを確認しないはずもない。学校に行くのに、お金を入れるわけもない。お小遣いが余れば、必ず覚えている。では、母が間違えて多く渡したのか? それも考えにくい。算数で考え直してみる。百二十円持っていて、八十円ほど使ったのに、百三十円残っている。

 ありえない。店の人が間違えた?いや、両替したのは機械だ。

 しばらく考え込んでいたとき、ふとひらめいた。・・・もしかして、この両替機。

 十円を入れても、十円玉が十枚出てくるんじゃないか?ありえない。

 でも、それしか考えられなかった。私は、十円玉を一枚、両替機に入れてみた。

 心臓がドキドキする。力を込めて押し込む。チャリ、チャリ、チャリ――。

 十円玉が、十枚、出てきた。

 信じられなかった。

 

だが、間違いなく本当だった。その日のうちに、私は仲間に話した。少年探偵団の四人だ。

「なあ……不思議な話があるんだ」

 双子のS兄弟と、N君。全員同じクラスで、冒険手帳を持ち、少年探偵団のつもりでいる。私はリーダーの小林少年になった気分で、得意げに話した。

「十円入れると、十円が十枚出てくる両替機がある。

「うそだろ」

「今度、調べに行こうぜ」

 誰も信じなかったが、面白そうだということで話はまとまった。

 日曜日、探偵手帳、水筒、弁当、タオル、それと小銭。少年探偵団の冒険が、始まった。



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