少年探偵団の冒険

花瀬とおる

プロローグ

プロローグ

 私が小学三年生だったころ、江戸川乱歩の少年向け探偵小説に夢中になっていた。

 怪人二十面相と少年探偵団が登場するシリーズは、第1巻から第37巻まで続いており、私はそれを片っ端から読みあさっていた。

 図書館に行っては、棚に残っている本を手当たり次第に借りる。ところがこのシリーズは、図書館に各巻一冊ずつしか置いていない人気作品だった。いつ行ってもほとんどが貸し出し中で、三十七冊のうち棚に残っているのは二、三冊ほどしかない。読み始めたころは、その二、三冊すべてが未読だったので、迷わず借りることができた。しかし読み進めるうちに、残っている本の中に、すでに読んだ巻が混じるようになる。そうなると借りられるのは一冊だけだった。


 小学校にも図書館はあったが、残念ながらそこに怪人二十面相シリーズは置いていなかった。それでも二十冊目あたりまでは、読み終えては返し、次の本を借りるということを繰り返すことで、途切れることなく読み続けることができた。だが、巻数が進むにつれて、棚に残るのは既読本ばかりになり、なかなか先へ進めなくなる。そして最後の五冊ほどになると、まだ読んでいない一冊に出会えるのは、ほとんど奇跡に近かった。だからこそ、その貴重な未読本を見つけたときの感動は、今でもはっきり覚えている。

 今の時代なら、市内に図書館は何か所もあり、検索すればどこに本があるかすぐにわかる。予約制度もあるから、苦労せず全巻を読破できるだろう。実際、久しぶりに図書館を訪れ、少年探偵団の棚を見てみると、十冊以上が並んでいた。

 しかし、当時は違った。なかなか手に入らないからこそ、見つけたときの喜びは格別だったし、早く返さなければ次が借りられないという事情もあって、時間を惜しんで必死に読んだ。週に二、三回も図書館に通っているうちに、職員とも顔なじみになり、本を大切に扱うことも自然と身についた。そう考えると、便利で物があふれる今の時代よりも、あのころのほうが幸せだったのかもしれない。

 この少年探偵団シリーズは、第1巻が『怪人二十面相』、第2巻が『妖怪博士』、第3巻が『少年探偵団』。ここまでは今でも覚えている。その先のタイトルはほとんど忘れてしまったが、第36巻が『影男』、第37巻が『暗黒星』だったことははっきり記憶している。私が小学生だった当時、この『暗黒星』が最終巻だった。

 第36巻の『影男』をなぜ覚えているのかというと、どうしても図書館で見つけることができず、お年玉を使って本屋で買ったからだ。確か三百五十円ほどだったと思う。ところが、その翌日、図書館でその『影男』を見つけてしまった。お金を無駄にした悔しさは、今でも忘れられない。

 私は一巻から三十七巻までのタイトルをノートに書き出し、読んだ巻には丸をつけていた。友達と「どれがまだ読めていないか」を競い合ったりもした。その友達とは少年探偵団つながりで仲良くなり、やがて自分たちで「少年探偵団」と名乗るグループを作った。文房具屋で売っていた冒険手帳を皆で買い、それを仲間の証として持ち歩いていた。

 この物語は、小学三年生のときに結成した、その少年探偵団四人の冒険の記録である。実はこの出来事は、長いあいだ思い出したくない記憶として、心の奥に封印してきた。大した事件ではない。しかし、当時の私にとっては、かなり衝撃的な出来事だった。三十年以上の歳月が流れ、四十代後半になった今、封印したままにするよりも、もう一度思い起こし、確かめてみるべきではないか──そんな気持ちになった。そこで、記憶をたどりながら、この物語を書き残すことにした。


それでは、昭和四十年代の「少年探偵団の冒険」をお読みいただきたい。


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