第十二章 補給線を断て
魔王軍が到達する前日。
創太たちは、最終的な作戦会議を開いていた。
「敵の弱点は、補給線だ」
カイルが地図を指しながら説明した。
「五千の兵士を維持するには、膨大な食料と物資が必要だ。それを運ぶ補給部隊が、本隊の後方に控えている」
「つまり——」
リーナが理解した。
「補給部隊を叩けば、本隊が動けなくなる」
「そういうことだ」
カイルは頷いた。
「俺たちの目標は、本隊を正面から倒すことじゃない。補給線を断ち、敵を足止めすることだ」
「具体的には?」
「三つの作戦を同時に展開する」
カイルは地図に三つの印をつけた。
「一つ目、『森の罠』。森の中に罠を仕掛け、先遣隊を足止めする」
「二つ目、『補給襲撃』。リーナ率いる奇襲部隊が、補給部隊を直接攻撃する」
「三つ目、『情報撹乱』。偽の情報を流し、敵の判断を混乱させる」
「偽の情報?」
「この地域には、俺たちの『集落』以外にも、いくつかの人口拠点があると魔王軍は考えているはずだ」
カイルの目が光った。
「その認識を利用する。存在しない集落の痕跡を作り、敵の注意を分散させる」
「なるほど……」
創太は感心した。
「それで、俺たちへの攻撃を遅らせるのか」
「そうだ。敵が『どこを攻めればいいのか』わからなくなれば、進軍は停滞する。その間に——」
「周辺の集落の避難が完了する」
「正解だ」
カイルは満足げに頷いた。
「さすが、飲み込みが早いな」
「……」
創太は、地図を見つめた。
複雑な作戦だ。成功するかどうかは、全員の連携にかかっている。
「よし」
創太は決断した。
「この作戦でいく。各部隊、準備を進めてくれ」
「了解」
全員が動き出した。
創太は一人、地図の前に残った。
「……頼むぞ、みんな」
そして、自分も準備に向かった。
作戦開始は、翌朝だった。
森の罠は、前夜のうちに設置が完了していた。落とし穴、投石トラップ、ロープを使った足止め——原始的だが、効果的な罠の数々。
「店長、魔王軍の先遣隊が森に入った」
カイルからの通信が入った。
「予定通りだ。罠の発動を待て」
数分後、森の中から悲鳴と怒号が聞こえてきた。
罠が作動したのだ。
「第一段階、成功」
カイルの声が響いた。
「敵の先遣隊、三割が負傷。進軍が停止した」
「よし。第二段階に移行する」
創太は、リーナに通信を送った。
「リーナ、聞こえるか」
『……聞こえてる』
「補給部隊の位置は?」
『本隊の後方、約二キロ。護衛は少ない。今なら、いける』
「任せた。成功したら、すぐに撤退しろ」
『わかってる。心配すんな』
通信が切れた。
創太は祈るような気持ちで、待った。
三十分後——
『店長、成功だ!』
リーナの興奮した声が響いた。
『補給馬車を五台、炎上させた! 敵の護衛は全滅!』
「よくやった! 今すぐ撤退しろ!」
『言われなくても!』
通信が切れる。
創太は安堵の息を吐いた。
「第二段階も成功、か」
「店長」
カイルが近づいてきた。
「敵軍の動きが変わった」
「どう変わった?」
「本隊が、進軍を停止した。補給部隊の襲撃で、混乱しているようだ」
「……計画通りだな」
創太は頷いた。
「第三段階は?」
「情報撹乱も進んでいる。偽の集落の痕跡を、三ヶ所に設置した。敵の偵察隊が、そっちに向かっている」
「つまり——」
「敵は今、どこを攻めればいいのかわからなくなっている」
カイルは満足げに笑った。
「俺たちの勝ちだ。少なくとも、今日のところは」
「……ああ」
創太も笑った。
しかし、まだ油断はできない。
魔王軍は五千。俺たちは、せいぜい数十人。
一日二日は足止めできても、長期戦になれば勝ち目はない。
「次の手を考えないとな」
「ああ」
二人は、並んで地平線を見つめた。
敵軍の姿は、まだ見えない。
しかし、確実に近づいている。
戦いは、まだ始まったばかりだった。
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