第8話 第三者はラブコメを検知する

放課後。

教室で帰り支度をしていると、背後から声をかけられた。


「ユウ」


振り返ると、三島――カズヤが立っていた。


「一緒に帰るか?」


「珍しいな」


「たまたま」


そう言いながら、カズヤは俺のとなりの席を見る。


天城は、いつも通りノートを開いていた。


――《ラブコメ発生条件・実地検証ログ》


もう説明はいらない。


「……何してんの?」


カズヤが、率直に聞いた。


「検証です」


俺より先に天城が答える。


「本日の検証項目は

 『第三者の介入が日常会話に与える影響』です」


「俺、第三者扱い?」


「はい」


即答だった。


カズヤは一瞬黙り、それから俺を見る。


「なあユウ」


「なんだよ」


「お前、これ普通だと思ってる?」


「何が」


「全部」


全部ってなんだ。



三人で教室を出る。


並び順は、自然と

俺――天城――カズヤ、になった。


……なった、というか、なっていた。


「距離、測ります」


天城が言って、カバンからメジャーを取り出す。


「待て待て待て」


カズヤが止めに入る。


「なんでメジャー?」


「距離検証のためです」


「日常で使う道具じゃないだろそれ」


「研究上、必要です」


「研究って何のだよ」


「ラブコメです」


「即答!?」


カズヤのツッコミが、やけに大きく聞こえた。



昇降口を抜け、いつもの帰り道。


「では会話検証に移行します」


天城が淡々と言う。


「今日の英語の授業について話してください」


「え、俺?」


「はい。第三者の自然会話が重要です」


「……まあいいけど」


カズヤは少し考えてから、


「小テスト、難しくなかった?」


「普通」


俺が答える。


「天城は?」


「満点でした」


「だろうな!」


カズヤは頭を抱える。


「なあユウ」


「何だよ」


「これさ」


一拍。


「もう付き合ってるとかじゃないよな?」


「は?」


同時に、天城も口を開いた。


「「交際関係ではありません」」


ぴったり同時。


カズヤが固まる。


「……息合いすぎじゃない?」


「そうか?」


「そうですか?」


俺と天城が首をかしげる。


カズヤは深く息を吐いた。



途中の自販機。


俺と天城が同じ飲み物を選ぶ。


「またかよ……」


カズヤがぼそっと言った。


「同一行動確認」


天城が言って、ノートに書き込む。


《同一飲料選択

 第三者同席時:感情変化なし》


「いや、俺の感情は変化してるからな?」


「記録対象外です」


「なんで!?」



歩きながら、カズヤは何度も俺たちを見る。


距離。

会話の切れ目。

視線。


全部、何も起きていない。


……はずだ。


「なあ」


カズヤが、ついに言った。


「お前らさ」


少し言いづらそうに、


「一緒にいるのが自然すぎるんだよ」


俺は笑った。


「お前といるときと特に変わってないつもりだけど?」


「うーん……なんていうかさあー」


カズヤは言葉を探す。


天城が立ち止まり、カズヤを見る。


「三島くん」


「なに」


「現在、あなたの認識には

 ラブコメ的バイアスがかかっています」


「俺がおかしいみたいな言い方やめて?」


天城はノートを開く。


《第三者観測

 ラブコメ発生の誤認:あり》


「ほら!」


カズヤが指をさす。


「そういうとこだって!」



分かれ道。


カズヤは立ち止まった。


「俺、先こっちだから」


「ああ」


天城も軽く会釈する。


「本日はご協力ありがとうございました」


「協力した覚えないけどな……」


カズヤは最後に俺を見る。


「ユウ」


「ん?」


「自覚ないのが一番怖いからな」


「何の話だよ」


カズヤは答えず、手を振って去っていった。



俺と天城だけになる。


「今日の検証、どうだった?」


俺が聞く。


「第三者による誤認が確認できました」


「それって」


「ラブコメは発生していません」


即答。


「だよな」


天城はノートを閉じる。


「検証は継続します」


「だろうな」


「では、また明日」


「ああ、またな」


天城はいつも通り、淡々と帰っていった。



一人になった帰り道。


カズヤの言葉を思い出す。


――自覚ないのが一番怖い。


まあ、考えすぎだろ。


今日も、何も起きなかった。


少なくとも、

記録上は。


……カズヤの顔だけが、

やけに必死だったのが気になるけど。


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天才少女の隣に座ったらラブコメ検証に巻き込まれました @iruma-lk

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