第8話 第三者はラブコメを検知する
放課後。
教室で帰り支度をしていると、背後から声をかけられた。
「ユウ」
振り返ると、三島――カズヤが立っていた。
「一緒に帰るか?」
「珍しいな」
「たまたま」
そう言いながら、カズヤは俺のとなりの席を見る。
天城は、いつも通りノートを開いていた。
――《ラブコメ発生条件・実地検証ログ》
もう説明はいらない。
「……何してんの?」
カズヤが、率直に聞いた。
「検証です」
俺より先に天城が答える。
「本日の検証項目は
『第三者の介入が日常会話に与える影響』です」
「俺、第三者扱い?」
「はい」
即答だった。
カズヤは一瞬黙り、それから俺を見る。
「なあユウ」
「なんだよ」
「お前、これ普通だと思ってる?」
「何が」
「全部」
全部ってなんだ。
◇
三人で教室を出る。
並び順は、自然と
俺――天城――カズヤ、になった。
……なった、というか、なっていた。
「距離、測ります」
天城が言って、カバンからメジャーを取り出す。
「待て待て待て」
カズヤが止めに入る。
「なんでメジャー?」
「距離検証のためです」
「日常で使う道具じゃないだろそれ」
「研究上、必要です」
「研究って何のだよ」
「ラブコメです」
「即答!?」
カズヤのツッコミが、やけに大きく聞こえた。
◇
昇降口を抜け、いつもの帰り道。
「では会話検証に移行します」
天城が淡々と言う。
「今日の英語の授業について話してください」
「え、俺?」
「はい。第三者の自然会話が重要です」
「……まあいいけど」
カズヤは少し考えてから、
「小テスト、難しくなかった?」
「普通」
俺が答える。
「天城は?」
「満点でした」
「だろうな!」
カズヤは頭を抱える。
「なあユウ」
「何だよ」
「これさ」
一拍。
「もう付き合ってるとかじゃないよな?」
「は?」
同時に、天城も口を開いた。
「「交際関係ではありません」」
ぴったり同時。
カズヤが固まる。
「……息合いすぎじゃない?」
「そうか?」
「そうですか?」
俺と天城が首をかしげる。
カズヤは深く息を吐いた。
◇
途中の自販機。
俺と天城が同じ飲み物を選ぶ。
「またかよ……」
カズヤがぼそっと言った。
「同一行動確認」
天城が言って、ノートに書き込む。
《同一飲料選択
第三者同席時:感情変化なし》
「いや、俺の感情は変化してるからな?」
「記録対象外です」
「なんで!?」
◇
歩きながら、カズヤは何度も俺たちを見る。
距離。
会話の切れ目。
視線。
全部、何も起きていない。
……はずだ。
「なあ」
カズヤが、ついに言った。
「お前らさ」
少し言いづらそうに、
「一緒にいるのが自然すぎるんだよ」
俺は笑った。
「お前といるときと特に変わってないつもりだけど?」
「うーん……なんていうかさあー」
カズヤは言葉を探す。
天城が立ち止まり、カズヤを見る。
「三島くん」
「なに」
「現在、あなたの認識には
ラブコメ的バイアスがかかっています」
「俺がおかしいみたいな言い方やめて?」
天城はノートを開く。
《第三者観測
ラブコメ発生の誤認:あり》
「ほら!」
カズヤが指をさす。
「そういうとこだって!」
◇
分かれ道。
カズヤは立ち止まった。
「俺、先こっちだから」
「ああ」
天城も軽く会釈する。
「本日はご協力ありがとうございました」
「協力した覚えないけどな……」
カズヤは最後に俺を見る。
「ユウ」
「ん?」
「自覚ないのが一番怖いからな」
「何の話だよ」
カズヤは答えず、手を振って去っていった。
◇
俺と天城だけになる。
「今日の検証、どうだった?」
俺が聞く。
「第三者による誤認が確認できました」
「それって」
「ラブコメは発生していません」
即答。
「だよな」
天城はノートを閉じる。
「検証は継続します」
「だろうな」
「では、また明日」
「ああ、またな」
天城はいつも通り、淡々と帰っていった。
◇
一人になった帰り道。
カズヤの言葉を思い出す。
――自覚ないのが一番怖い。
まあ、考えすぎだろ。
今日も、何も起きなかった。
少なくとも、
記録上は。
……カズヤの顔だけが、
やけに必死だったのが気になるけど。
天才少女の隣に座ったらラブコメ検証に巻き込まれました @iruma-lk
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