第2話 フィールドワークと初デートは、たぶん別物らしい
翌日の昼休み。
俺は自分の席で、嫌な予感をはっきりと自覚していた。
となりの席の天城ヒナが、いつになく真剣な表情でノートを見つめている。
そのノートは昨日から、明らかに「普通の勉強用」ではなくなっていた。
表紙には、太字でこう書かれている。
――《ラブコメ発生条件・実地検証ログ》
嫌な予感、確定。
「佐藤くん」
来た。
「本日は放課後に、フィールドワークを行います」
「……何の?」
「ラブコメの発生率が高いとされる環境の調査です」
さらっと言うな。
しかも俺を見るその目が、完全に“被験者を見る目”だ。
「具体的には?」
「男女二人で外出し、一定時間を共に過ごします」
「それ、ただの――」
「初デート、ですね」
自分で言っておいて、首をかしげる。
「……と、多くの文献では分類されていますが、今回は研究目的なので該当しないと考えます」
多くの文献も天城には勝てないらしい。
「却下って言う選択肢は?」
「ありません」
即答だった。
◇
放課後。
俺たちは駅前のショッピングモールに来ていた。
なぜこんな場所にいるのかというと、天城のノートにこう書いてあったからだ。
《人通りが多く、イベント発生率が高い》
ゲームのダンジョンか何かか。
休日でもない平日の夕方。
制服姿の高校生が二人並んで歩いていれば、どう見ても――
「周囲からの視線を感じます」
「そりゃそうだよ」
「ラブコメ的には、これは有利な状況でしょうか」
「知らないよ!」
天城は周囲を観察するように、きょろきょろと視線を動かしている。
その仕草がやけに落ち着かなくて、俺はなぜか目を逸らした。
「まずは甘味処に入ります」
「急だな」
「『デート=甘いもの』という相関関係が、多数確認されています」
確認しなくていい。
店内は思ったより静かで、二人席に案内される。
向かい合って座った瞬間、距離の近さを意識してしまった。
昨日の“偶然の接触”が、嫌でも脳裏をよぎる。
「佐藤くん」
「な、なに?」
「脈拍が上がっています」
「測るな!」
「興味深いです。環境要因による心理的変化でしょうか」
注文は当然“甘いもの”であるパフェを二人とも選択した。
ほどなくしてパフェが到着。
ちなみに二人とも選んだパフェの種類は一緒である。
本来なら違う種類のものを選んで『そっちのパフェも気になるなー』なんて会話があってお互いに食べさせ合うことで頬を赤らめ合いドギマギする、みたいなラブコメ展開があってもいいのだが、それを提案するのは憚られた。
天城がパフェを一口食べる。
次の瞬間。
「……っ」
ほんの一瞬。
驚いたように目を見開き、それから口元が緩む。
――あ。
昨日も見た、その表情。
俺の胸の奥が、少しだけざわついた。
「おいしい、です」
「そ、そっか」
それだけで、なんでこんなに安心するんだ。
◇
帰り道。
夕焼けの中を並んで歩く。
天城はノートに何かを書き込みながら、ぽつりと言った。
「今日のフィールドワークですが」
「うん」
「ラブコメ発生率は、想定より高いと判断します」
「……理由は?」
「被験者が、落ち着かない様子を頻繁に見せました」
俺のことか。
「それと」
天城は足を止め、こちらを見る。
「私自身も、少し……楽しかったです」
一瞬、言葉を失った。
「これは、想定外のデータです」
そう言って、天城は小さく微笑んだ。
偶然でも、天災でもない。
ただ一緒に歩いただけなのに、ラブコメの影がちらついた。
俺は確信してしまった。
――この研究、危険だ。
主に、俺の心臓に。
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