天才少女の隣に座ったらラブコメ検証に巻き込まれました

@iruma-lk

第1話 天才はラブコメ≒天災だと勘違いする

新学期初日。

今日から高校2年になった俺――佐藤ユウは、自分の高校生活が今日も平凡に始まるのだと思っていた。


その考えは、新学期の最初の授業中に粉々と砕けた。


となりの席に座ったのは、天城ヒナ。

学年成績一位、模試全国ランカー、教師陣からは「触れてはいけない天才」とまで言われる存在だ。


腰まで届く黒髪に、整いすぎて逆に近寄りがたいとさえ言われる顔立ち。

彼女は一度もこちらを見ず、淡々とノートを取っている。黒板の内容を写す速度が異常に速い。


俺のクラスの担任であり、数学教師の三浦先生が黒板に向かい雑な感じの説明をしながら板書をしていると、天城はふいににペンを止める。


「先生。そこ、符号が逆です」


教室がざわつく。

三浦先生は一瞬固まり、それから頭をかいた。


「……あ、ほんとだ。天城、助かる」


さらっと言ってのける。

やっぱり別世界の人間だ。俺とは住む世界、いや宇宙が違う。


――そう、思っていたのに。



休み時間。

初めて彼女が俺のほうを向いた。


「佐藤くん」


名前を呼ばれただけで、なぜか背筋が伸びる。


「 “ラブコメ”って、どうやったら発生しますか?」


……はい?


思考が追いつく前に、俺は思いきりむせた。


「げほっ! な、なんで俺に聞くんだよ!」


「佐藤くんは、平均的な高校生だと聞きました」


ひどくないかそれ。


「漫画研究部で“ラブコメ担当”を任されました。参考文献だけでは理解が不十分です」


真剣そのものの表情で、天城はメモ帳を構えている。


「いや、現実で発生させるもんじゃないから! あれは物語の都合だから!」


「なるほど……不可抗力によって生じる偶発的イベントということですね」


メモを取るな。


「つまりは天災や感染症の流行といったものに近いものが “ラブコメ”ということですね。難しいです」


メモを書き終えたのか、天城はペンを止め、困ったようにノートを見つめた。


メモにはラブコメ≒天災と書いてあった。

おいそれと発生しないようにしなくてはいけないな。



帰りのホームルーム終了後、今度は三浦先生に呼び止められた。


「佐藤。天城は天才ゆえに周りができることができない、なんてことがよくあるやつだ」


「は?」


「そうだな……たとえば自販機の使い方も怪しい。というわけで、席がとなりの佐藤、世話係よろしく」


軽いノリで押し付けるな大人。

そして自販機の使い方が怪しいってなんだ。



こうして俺は、天城ヒナと一緒に帰る羽目になった。


案の定、彼女は校門前の自販機で立ち尽くしていた。


「……お金を入れると、飲み物が出ますか?」


「当たり前だよ! なんだと思ってたんだ!」


「不確定要素が多くて」


天才の考えることは分からない。


帰り道はほとんどがラブコメについての話だった。

天城からのもはや尋問と呼ぶべき投げかけに、思春期真っ只中の俺は恥ずかしい気持ちをこらえつつラブコメについて自分の知る限りを答えた。



翌日。

天城は「偶然の接触」を検証すると言い出した。


なんだそれはと思いつつ、天城に指示された通り、俺は廊下に立ち止まる。


天城は少し離れたところから廊下に立つ俺をじっと見つめると意を決した表情でこちらに走り出す。


長い髪が揺れ天城の最高に整った輪郭がいつもよりはっきりと見える。

その瞬間、なぜか目を逸らせなかった。


こちらに向かって走る天城が手を伸ばしたら触れそうな距離まで近づくと、何かにつまづいたように不自然に転び俺の胸へと飛び込んできた。


柔らかい感触と、かすかなシャンプーの匂い。

距離、近すぎ。

心臓が仕事を放棄しそうだ。


「佐藤くん顔が赤いです。それは“ときめき”ですか?」


「実験対象にしないで!」


思春期の男子でこんな検証をしないでほしい。


そんなドタバタの中で、俺は気づいてしまった。


いつも凛としていて淡々と物事をこなし、できて当然、人に頼ることもない。

そんな完璧すぎて天才で、それでいて無表情な美少女という天城は、わずかにではあるが些細なことで表情が変わることに。


分からないことがあると、俺を見る。

うまくいった実験のあと、ほんの一瞬、口元が緩む。


……なんで俺、そんなの見て安心してるんだ?


そんなの普通の女子高生なら当たり前の話なのに。

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