オブセッション

tona

どうしようもないほどに

 暗闇には、アタシとあなただけ。椅子に座ってこちらを見上げているあなたにアタシは静かに話しかけた。

「みぃんな、アタシのことを重い女だって言うの。今まで付き合ってきた五人の彼氏たちにも、トモダチという殻を被った女たちにも。だからアタシはそいつらに聞くの。『重いことの何がいけないの?』って。男たちはこう答えるの。『だってキモいじゃん』。女たちはこう答えるの。『逆に嫌われるの怖くないの?』。その言葉を聞くたびに、アタシはいつも不思議なの。ただアタシは本気で愛しているから、不安になるだけ。怪我してないか。ほかの女と一緒にいないか。そう思うことのないがいけないの?って。みぃんな不安にならずに恋愛できるってすごいよね。アタシなら無理だもん。

 アタシは、どんどんみんなに距離を置かれるのが意味わかんなくて、昔は悲しかったの。今では信じらんないかもだけど。アタシがおかしいの?アタシみたいな人間はキモいの?って。でもね、ある日ふっと思ったんだ。アタシはアタシらしく胸張って何がいけないんだって。『みんな違ってみんないい』って音楽でやったし。みんながアタシと距離置くんなら、逆にこっちから離れてやるわって遠い大学に行った。


そして、アタシはあなたに出会ったの。

もう、一目惚れだった。会った瞬間に何もかもが好きになって、頭がおかしくなって、そのままあなたに告白した。あなたは、困ったように眉尻を下げてこう言ったよね。『ごめん、俺彼女いるんだ』って。つまり、その彼女がいなかったらオッケーくれてたってことじゃん?だから、その女に別れろって書いてある手紙を何通も出したの。学校の机の中に、かばんの中に、家のポストの中に、バイト先の店に。でも、なかなかしぶとくて、全然別れてくれなかった。

だから、消そうと思ったの。

あなたのスマホをこっそり使ってあの女を大通りの前の店に呼び出した。あなたとお話がしたいので、来てくれませんかって。・・・あ、安心して。彼女のスマホはアタシが壊したから。呼び出したことなんて、警察は気付いてないよ。外食に行く予定だったのではって話で終わったらしいし。

・・・話を戻すね。無論家は把握してたから、どの方面から来るのかもわかる。彼女が横断歩道の赤信号で止まってた時に、どんって。背中を、思いきり押したの。んで、即死。事故死として扱われた。

それだけ。簡単な話でしょう?

これで付き合える。そう思って、もう一度あなたに告白した。一応引いといた予防線が良かったみたい。『彼女さん、お亡くなりになられて辛いですよね。アタシも大切な人を亡くしたことがあるんです』って。あなたはかなり憔悴していたから、すんなりオッケーした。

なんだか、彼女を亡くしたあなたを慰める、みたいな立場になっちゃったけど。

あなたと付き合うためにはなんだってするって決意してたし。そのままアタシのこと本当に好きになってくれればそれでいいやって思ったの。


それが、半年前のことだよね。あなたの話をたくさん聞いて、アタシのでっち上げの思い出話をあなたはたくさん聞いた。このままの関係だと、いつかアタシはでっち上げできなくなると思って、少しずつあなたが立ち直っていけるように努力したの。

それがだめだったのかなぁ。あなたは少しずつ強くなっていって、それと比例してアタシは少しずつ必要のない人間になっていった。あの頃は毎日会っていたのに。朝までずっと一緒に過ごしていたのに。今では、私の前から逃げるように消えたよね。

ねぇ、あなたはアタシのどう思っているの?ここずっと、それが分かんないの。あなたは、アタシに会ってくれなくなった。あなたは、アタシの連絡先をブロックした。ねぇ、なんで?どうして?ずぅっと、不思議に思ってたんだよ。

だから、他の女ができたんじゃないのかって、怖くなったの。いたら、浮気だよ?だって、別れようって言ってないし、言われてもない。・・・あれ、盲点だったみたいだね。まぁ、いいや。そんで、あなたの身の回りのこと、いっぱいいっぱい調べたの。

そしたら、女三人もいるじゃん?さすがにびっくりだよ。こいつ、四股してるわぁーって。まぁ、そんなところも好きだけど。一週間に二回はあの女達と夜一緒に過ごしてたんでしょう?ハードスケジュールだね。七日のうち、六日は三人のうちだれかと一緒に夜から朝まで一緒とか。

その中で、アタシが一番早く付き合っていたから、アタシは浮気していたことにはならない。だから、その三人に忠告しに行ったの。・・・え?知らなかったの?ふふ、やっぱりあなたは面白いね。一気に二人が離れて怪しまなかったんだ。

二人は、あいつ許せない、そんなこと言ってなかったじゃん、キモすぎ、とかまあいろいろ言ってたよ。結局別れるって言ってくれたし、あなたもかなり綿密にやってたしさ。ごめんなさいっていっぱい言われたから、知らなかったんだからしょうがないよ、って言ったの。アタシ、優しいよね。最初は消そうと思ってけどさ、なんか、やっぱやめよって思ったの。気まぐれかなぁ。

一人だけ、それでも私は心から彼を愛しているわって言い張ってる女がいた。彼も私のことを愛してるって言ってくれてるんですって。すっごく胸糞悪かったよ。そりゃぁ彼女に愛してるって言わない彼氏なんかいねぇだろって思った。自分がこの世界のヒロインですってな顔してさ。はぁ?お前は浮気してんだよっつう話。

あなた、あの三人の中であの女が一番好きだったんでしょ?体つきが好みだったのかなぁ。性格は、サイアクだったし。とにかく、目障りで仕方がなかったから、そいつも消すことにした。


でも、あの女はなかなか面倒だったわぁ。あんなキモいセリフ吐いておいて、四六時中男と一緒にいるんだもん。一か月ずっと様子うかがってたけど、一人になる隙なんてなかった。だから、周りにいた男を利用しようと思ったの。彼女たちにやったのと似た感じで、あいつの浮気している写真を五人の男に見せたの。勿論、見せた人以外の人とのツーショットだから、六股だね。あなたの二倍だよ?もう逆にすごいよね。・・・これも知らなかったんだ。ほんと、あなたって鈍感よねぇ。

んで、そいつらに言ったの。『アタシの彼氏が浮気していて、その相手があなたと一緒にいるのを見て、不穏に思ったんです。そうしたら、まだあと四人の男性と付き合っているようなんです。六股は、さすがにやばいなって思って・・・』って。ちょっとか弱い感じ出して。全員めっちゃ怒ってたの。マジウケる。みんなに、誰かをこんなに愛したことないんですって顔を赤らめながら言ってたらしいよ。その一言で、男子全員イチコロ。こわぁい。演技は女優としてデビューできそう。

まぁ、そんな感じで五人全員一気に別れ話を切り出したの。そしたらさ、あなたがやったんでしょうって大学に乗り込んできてさ。ちょうど、その日あなたはいなかったんだっけ。いやぁ、あれはマジビビったわ。何人もの人と浮気してたこと周りの人に言ってるようなもんじゃん?全部恥ずかしげもなくバンバン言ってくんだもん。ほんと、ぞっとしたわ。

そいつ、アタシらの大学の卒業生だもんね。結構人気あったみたいだから、価値がズドーンって落ちてた。何股もするやつなんだ、知らなかったわって、男子も女子も離れていったらしいよ。大学のうわさは、そいつの会社の中にも入っていったっぽいしねぇ。大学に乗り込まなかったら、まだヒロイン生活できたかもなのに。自業自得よ、ざまぁ。

それだけでかなりの屈辱だったんだろうね。その次の日、登校してたアタシの前に立ちはだかって来たの。しっかり包丁持ってて面白かったわ。え?そんなことで人殺そうとしてんの?って。しかも、大通りでそれをやるっていう馬鹿な真似しててさ。人がみんな端に寄っていったのはよかったけどね。

アタシは逃げ回るふりをして少しずつ追い込んでいったの。道路側の歩道の方に。アタシが立ち止まったところは、草木もガードレールもなくて、すぐ後ろは車が行き来しているような場所。・・・もう分かった?さすがだね。大好きだよ。

必死で交わしたふりをした。あの女は、アタシを思いっきり刺そうとしていたから、バランスを崩して、道路にぼーん。一応今も生きてるけど、全身麻痺で病院生活。

なかなか滑稽よね。

警察に事情聴取されて、素直に話した。誘導していたことは、聞かれなかったから言ってない。つまり、嘘はついてない。それに、目撃者もいっぱいいたから、アタシは正当防衛をしただけ、彼女は自業自得って話で終わった。その後、動かなくなったあいつに、あなたが別れ話を切り出したから、思ってた数倍穏便に話は終わった。

思ってもいない展開だったけど、あれはあれでよかったわ。勝手に自滅への道を歩んでただけだもん。あいつが悪い。

んで、あなたの周りにいる女はアタシだけになった。

またアタシのところに来てくれるようになるわってうきうきして待ってたんだよ。

なのに。どうしてブロック解除して連絡とってくれなかったの?

何事もなかったように連絡来ても、アタシは何も言わないって決めてたのに。

怒んないよ。だってアタシはあなたのことが大好きなんだもん。なのになんで?

あなたが登録している連絡先の中で女はアタシしかいないのに。

どうして?アタシのこと、忘れていたわけではないんでしょう?

あなたが昔、『重いことの何がいけないのか分かんないね』って怒りながらアタシに言ってくれたその瞬間から、アタシはあなた無しでは生きられなくなったのに。

アタシのことを肯定してくれる人なんていないとあきらめてた時に言われるって、どういうふうになるのか分かる?

もうこれ以上ないほどに、狂おしいほどに、好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでたまらなくなるんだよ。

その人に見捨てられた時って、どう思うと思う?



この世界を、残酷なまでに冷たい世界を、壊したくなるんだよ。



でも、それでも、アタシはあなたが大好きだ。世界で一番大好きだ。誰よりも誰かを愛してるって宣言できる。

だから、この世界を壊せない。あなたがいる世界を壊せない。

もう、アタシはあなたへの愛の呪縛からは逃れられなくなったの。

あなたはアタシには振り向いてくれない。

そんなこと、とっくの昔に。

分かってる。

分かってるよ。

分かってるけど。

それでも、どうしようもないほどにあなたが好きになっちゃったの。

ごめんね。


ねぇ、一緒にいこうよ。

二人だけの、きれいで、まぶしくて、あたたかくて、しあわせで、かがやくような、そんな世界に。

あなたがアタシだけを見てくれる世界に。

あなた無しでは生きられないって言い合える世界に。

世界で一番愛しているあなたと、二人だけの、世界に。

一緒にいこう」

 そう言って、アタシはもがいてる彼の胸に手を伸ばした。

 ルビーのように鮮やかな赤い粒がきらきらと舞う。

 椅子ごと倒れこんだ彼の横に、アタシも寝転がる。

 彼の胸からゆっくり取り出す。

 今度は、アタシの胸に。

 祝福するように、アタシとあなたにあたたかい雨が降る。

 アタシは、それをうっとりと眺めた。

 これは、愛の誓いだ。


 アタシとあなたは、永遠の愛を誓います。

 アタシとあなたは、何度生まれ変わっても、愛し合うことを誓います。

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