第二話“裕と皐”

四月後半の終わりかけ。藤の花がちらほら咲き始めた頃。


「すっかり常連になりましたね、篠﨑さん、高羅さん」

「はは。そうですね、今では週三で通ってますし。」

「お前、最初は嫌がってたくせに結局自分から誘ってくるようになったもんな。秦」

最近は、最初は嫌がっていた秦から、週三の頻度で誘ってくるようになった。この間、女性陣の方はいいのかと聞いたら、女の相手をして、きつい香水を一生嗅ぎ続けるより、Vielfaltでゆったり静かにコーヒー飲んでる方が、有益だと言うから、諦めることにした。

「うるせー。別にいいだろ。それに、そのおかげで色んな人と関われるようになったわけだし。」

そう。このVielfaltに通うようになってから、今までの人生じゃ絶対かかわらなかっただろう、現役高校生や、配信者などと話すようになったのだ。案外身近にも仲間がいるということを知り驚いたが、今では最近身の回りで起きた出来事や、配信者友達とした企画の話を聞いたり話たりするようになった。

[カラン コロン]

?誰か来たな。今まで見たこと無い常連か?

「皐。絶対俺達と同年代の人なんていないよ。帰ろうよ」

「大丈夫だって裕は心配性だな。いなかったらいなかったで、他の年代の人と仲良くなったらいいじゃん」

正反対な二人だな。でも、男の人の発言からして、常連ではなくて新しい人かな?

「仲良くなんかなれっこないって。はじめましての人と明るく話せるのなんか、皐だけなんだって。あ。いた!同年代の人いたよ!」

あ。見つかった。まあ、見つかっても何にもないんだけどさ。

「話しかけてよ。皐。お願い。」

男の人は、人見知りかな?で、女の人に頼むってことは、案外社交性のある女性なのかな?

「いらっしゃいませ。新客さんですかな?カウンターでも?」

「あ!はい!カウンターで!」

「あ、はい。カウンターでお願いします」

ここに通って初めての新客さんだ。やっぱり初めての人はカウンターに案内されるのか。にしてもびっくりしたよな。高校生の子は中学生時代から通ってるって言うし、配信者の人、今では案外知名度があるそうだけど、ここには無名の時代から通ってるって言うし。俺らの一個前の新客さんは、前年の八月だそうだ。それでも潰れてなかったのは、常連の人達が定期的に通ってるからだろうな。

「では、このカードに書き込んでください。書き入れたくない枠があったら書き込まなくてもいいですよ。」

「わかりましたー」

「わかりました」

【名前

 呼び方

 ジェンダー

 一人称

 その他                      】

「書けた!裕は?」

「僕も書けた」

「書けましたか。でしたら、このカードはそこにある棚の中にある本に挟んで誰でも閲覧できるようにするんですが、どうです?零さんと秦さん。見て差し上げては?」

!?急だな。

「っていうか俺等、最初誰にも見られませんでしたよ?」

「まあ、お客さんがいませんでしたしね。」

たしかにあの日他の客はいなかったけれども。

「どーする?秦」

「まあ、見たらどうだ?別に俺等急用なんて無いし」

「だな。んじゃあ、みていいですか?」

「了解致しました。では、零さんと秦さんはお先にご覧ください。お二人は少々お待ちください。」

えっと男の人のカードは、

【名前 天藤裕

 呼び方 裕・天藤・天裕

 ジェンダー パンセクシュアル・クエスチョニング

 一人称 僕・俺

 その他 特になし                 】

「お二人とも、持ってきましたよ。」

「ありがとーございます!」

「ありがとうございます」

・・・・・・知らない人に自分の自己紹介カードみたいなのがが見られると思うとちょっと恥ずかしいな。

【名前 鷹峰皐

 呼び方 皐・鷹峰・さっちゃん・峰鷹

 ジェンダー レズビアン

 一人称 私・僕

 その他 なし                   】

「秦、読んだか?俺は読んだぞ」

「俺も読んだ。あ、アイスコーヒーください。」

また、アイスコーヒー頼んでる。ここで、アイスコーヒーしか頼んでないぞこいつ。

「了解致しました。お二人は、読み終わりましたか?」

「はい!読み終わりました。あの、アイスミルクティーもらってもいいですか?」

「僕も読み終わりました。あの、僕もアイスミルクティーをください。」

「了解致しました。では、カードをお預かりいたしますね。」

……マスターって、新客さんには丁寧な話し方するけど、何回か通う特徴が砕けるっていうか、友達みたいに話しかけてくれるっていうか…みんなが常連になるのもわかる。

◇◇◇ ◇◇◇

「んじゃ。勘定で」

「割り勘な」

なんでやねん。絶対俺のほうが損するやん。

「嫌やわ。お前が飲みもん二杯。俺が一杯。俺が損するやろ」

「んじゃ、次回、お前が飲み物と軽食頼んだ時、割り勘していいから。」

…得か。今割り勘しといたほうが。

「いったな。ならええで。割り勘しよ」

「……仲いいですね。」

裕君か。

「まあ、約四年の付き合いですしね。いやでも中は良くなりますよ」

「あの!これからもここであったときは仲良くしてくれるとありがたいです!」

皐ちゃん、名前はクール美人って感じだけど、実際は、元気な女子中学生って感じだよな。

「いいですよ。よろしくお願いします」

「それでは、零さんと秦さんは、1050円。裕さんと皐さんは700円から初回限定で200円を引いて500円になります。」

「ありがとうございます。割り勘だから、525円やな」

「5円持ち合わせてない。すまんが今日は、零530円でお願い!」

こいつ、一杯多く飲むし、5円持ち合わせてないし、その5円を10円として払うんじゃなくて、俺に払わせるし。

「まあ、ええよ、530円払ったるわ」

「サンキュー」

「じゃあ、私たちは、350円づつ」

「わかった」

◇◇◇ ◇◇◇

「また来たときに話そうね!」

「皐!もううちょっと声抑えて。人によっては疲れてるんだから」

「ははは。わかった。また会おうね、皐ちゃん、祐君」

「またな。裕、高峰さん」

秦、なかよし度が見える呼び方してるな。皐ちゃんと全然話してなかたもんな。まあ、これからも会うだろうし、もっと仲良くなったらいいか。


4月後半の終わりかけ。藤の花がちらほら咲き始めた頃。長い付き合いになるであろう友人ができた。

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