第9話
翌朝。
まだ薄暗い部屋に、ルナが入ってきた。
「みなさん、ギルドから依頼を取ってきましたよ」
にっこりと笑っている。手には羊皮紙が握られていた。
他のメンバーはまだ夢の中だ。
神崎は布団にくるまって、いびきをかいている。
ガルドも豪快に寝返りを打った。
セリアは自分の部屋で寝ているのだろう。
俺は寝ていなかった。
昨日から、ずっと考えていた。
ゴブリン戦の記憶を何度も反芻する。
あの時の動き、敵の攻撃パターン、自分の対応。
頭の中で何度もシミュレーションを繰り返していた。
(次は、負けねぇ)
拳を握りしめる。
「Aランク討伐依頼です」
ルナが依頼書を見せた。
「おーう、討伐対象は?」
ガルドが大欠伸をしながら起き上がる。
「オークです」
ルナの表情が少し曇った。
「街道近辺に出没していて、商人が襲われたりと被害が出ているようです。」
「ちょっと手強い相手かもしれませんが、すでに被害も出ているので受けてきちゃいました……大丈夫でしたか?」
申し訳なさそうに俺たちを見る。
「オークなんて雑魚キャラじゃん!」
神崎が布団から飛び起きた。
「余裕だって! 足引っ張る奴もいなくなったし、瞬殺だよ瞬殺!
ちゃちゃっと片付けちゃおう? その前にご飯だけど」
「そうだな、まずは腹ごしらえだ!」
ガルドが豪快に笑った。
俺は内心で思った。
(随分のんびりしてるな)
でも、一理あるか。
腹が減っては戦はできない。
「おい、ルナ」
俺はルナを呼んだ。
「はい?」
「オークってのは、どんな奴だ」
「Aランクモンスターです」
ルナが真剣な表情で説明を始める。
「身体強化が得意で、特に筋力と防御力の強化に特化した魔法を使います。
個体差はありますが、基本的に動きは鈍重です」
「タッパは? でけぇのか?」
「そうですね……」
ルナが少し考える。
「大体、人間の1.5倍くらいの体格だと思います」
「1.5倍か」
俺は自分の拳を見つめた。
(俺より背の高い奴とも散々やり合ってきた)
(だが、1.5倍は未知数だな)
(おまけにモンスターときた)
でも——
(今回はルナの身体強化がある)
拳を握りしめる。
(上等だ。壁になってやるよ)
――――
食事済ませた後。
「ふー、よし」
神崎が立ち上がった。
「それじゃ、ぼちぼち行こっか! みんな、準備オッケー?」
「おう」
全員が頷く。
街を出て、西の街道へ。
そこから森に入っていく。
オークの影響で危険区域に指定されているらしく、人の気配はない。
鳥の鳴き声すら聞こえない、不気味な静寂。
しばらく森を進むと——
「……いた」
セリアが前方を指差した。
木々の間から、巨大な影が見える。
緑がかった肌、豚のような顔。
筋骨隆々の体に、粗末な腰布。
手にはデカい棍棒。
オークだ。
だが、情報と違う点があった。
「あれ、三体いるじゃん!」
神崎が嬉しそうに声を上げる。
「ルナ、ナイス判断だよ! これで一気に評価上がっちゃうね!」
ルナが控えめに頷く。
「んじゃ、剛。作戦通りよろしく!」
「おう」
オークたちがこちらに気づいた。
「グオオオ……」
低い唸り声を上げて警戒している。
俺は真っ直ぐオークに向かって歩いていく。
三体のオークを睨みつけた。
「グルルル……」
威嚇の唸り声。
「身体強化、かけました!」
ルナの声と共に、淡い光が俺を包む。
(これが身体強化か)
特に体が軽くなったとか、力が湧いてくるような感覚はない。
まあ、そういうもんか。
「グオオオオ!!」
先頭のオークが雄叫びを上げて突進してきた。
棍棒を振り上げる。振り下ろす——
だが動きが鈍い。
横に跳んで避ける。
地面に大穴が空いた。
そのまま踏み込んで、がら空きの顔面にハイキック。
ガツン!
いい手応えだ。
「グオッ!?」
オークがよろける。
人間なら確実に昏倒している一撃だが、こいつは耐えやがった。
だが、効いていないわけじゃない。
明らかに怯んでいる。
残り二体も棍棒を振り回して襲いかかってくる。
「グオオ!」
「グルルル!」
三体相手に悠長な喧嘩やってらんねぇ。
狙うなら顔面だ。
隙を見て、横のオークに飛び膝蹴り。
「グオッ!」
後ろのオークには横蹴りで距離を取る。
「グルッ!?」
(久しぶりに頭使って喧嘩してるぜ)
その時——
思わぬ反撃を食らった。
最初のオークの復帰が早い。
「グオオオ!!」
横からラリアット。
「がっ……!」
吹き飛ばされて、背中から木に激突する。
「ぐっ……!」
全身に痛みが走る。
(くそ、身体強化も期待できたもんじゃねえか)
なんとか立ち上がる。
気づけば、三体のオークが俺に集中していた。
「グオオ!」
「グルルル!」
「グオオオ!」
完全に囲まれている。
(よし、これでいい)
俺が引きつけている間に——
「はぁぁぁ!!」
ガルドが巨大な斧を振り下ろす。
オークの背中に深々と斬り込んだ。
「グオオオ!!」
オークが悲鳴を上げる。
「ファイアボール!」
セリアの炎魔法が別のオークに直撃。
「グオオオ!!」
オークの体が炎に包まれる。
「はっ!」
神崎が華麗な剣技を披露する。
オークの首筋に剣が走った。
「グオッ……」
一体目が倒れる。
俺は残り二体を相手にしている。
「グオオ!」
棍棒が振り下ろされる。
横に避けてカウンター。
「おらぁ!」
拳が顔面にめり込む。
「グオッ!」
オークが怯んだ隙に、ガルドが背後から斬りつける。
「どりゃあ!」
二体目も倒れた。
残り一体。
「グルルル……」
最後のオークが俺を睨む。
「……来いよ」
オークが突進してくる。
「グオオオ!!」
俺も拳を構える。
その時——
「サンダーボルト!」
神崎の雷魔法がオークを貫いた。
「グオオオ……」
オークが痙攣しながら倒れる。
動かなくなった。
「……はぁ、はぁ……」
息が荒い。
全身傷だらけだ。
でも——役目は果たせた。
俺以外は無傷だ。
「あれ?」
神崎が首を傾げる。
「瞬殺って言ったけどさ、本当に瞬殺で終わっちゃった」
ニコニコと笑っている。
「僕、また強くなっちゃったかな〜」
「へへ、なんか柔らけぇオークだったな」
ガルドが豪快に笑った。
俺は何も言わなかった。
(柔らかい? 冗談だろ)
俺には十分硬かったが、まあいい。
「鬼塚さん、大丈夫ですか?」
ルナが駆け寄ってきた。
「……ああ」
「回復しますね」
ルナが杖を向ける。
淡い光が俺を包んだ。
傷が回復してるようには……感じない。
まあこんなもんか。
「……助かる」
その時——
「グオオオオ!!」
森の奥から、新たな咆哮。
振り向くと——オークが、五体。
「え!?」
ルナが驚きの声を上げる。
「増援!?」
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