第7話


 神崎に連れられて、大通りから一本入った路地を進む。

両側に石造りの建物が並ぶ静かな通りだ。


しばらく歩くと、年季の入った三階建ての宿屋が見えてきた。


『冒険者の宿・グランツ亭』


木製の看板が、風に揺れてギィギィと音を立てている。


「ここが俺たちの拠点なんだ」


神崎が重い扉を押し開ける。

蝶番が軋む音と共に、酒と煙の匂いが漂ってきた。


中は酒場と宿が一体になった造りだった。

カウンターの奥には酒樽が並び、壁には依頼書や地図が貼られている。


奥のテーブルに三人の人影があった。


「みんな、お待たせ〜」


神崎が陽気に手を振る。


「おう、神崎! 遅かったじゃねぇか!」


テーブルから大柄な男が立ち上がった。

身長は俺より頭半分デカい。背中には巨大な斧。

赤茶色の髪を短く刈り上げ、無精髭が濃い。

いいガタイしてやがる。


「……ん? 隣の兄ちゃん、誰だ?」


男が値踏みするような目で俺を見た。


「紹介するよ」


神崎が俺の肩を軽く叩く。


「この人、鬼塚剛。さっき街でBランク冒険者三人を、魔法なしで倒したんだ」


「は? マジで?」


男の目が見開かれる。


「うん。それで、うちの盾役をやってもらうことにした!」


神崎がニコニコと笑っている。


俺は一歩前に出た。


「鬼塚剛だ」


拳を軽く握って見せる。


「気合いと根性だけは、誰にも負けねぇ。よろしくな」


「がははは! えれぇ気合いの入った兄ちゃんだな!」


大柄な男が豪快に笑った。


「俺は戦士のガルドってんだ。よろしくな!」


ガルドが分厚い手を差し出してくる。

俺はその手を握った。


「……よろしく」


次に、テーブルに座っていた女性が立ち上がった。


腰まで届く艶やかな黒髪。

切れ長の瞳は氷のように冷たく、黒いローブに身を包んでいる。

手には紫水晶のはめ込まれた杖。


「私は魔法使いのセリアです」


感情の読めない淡々とした口調だった。


「以後、お見知り置きを」


優雅に一礼する。


「……おう」


最後に、もう一人の女性。


セリアとは対照的に、柔らかな雰囲気を纏っている。

長い栗色の髪が柔らかく波打ち、揺れていた。

透明感のある優しい瞳が、どこか儚げな印象を与える。

白いローブがその清楚さをさらに際立たせていた。


「私は僧侶のルナです」


にっこりと微笑んで、小さく手を振る。


「回復とサポートはお任せください!」


「……頼む」


俺は内心で呟いた。


(威勢のいい戦士に、クールな魔法使いに、優しそうな僧侶……)


(マジでゲームかよってメンツだな)


神崎がパンパンと手を叩いた。


「じゃあ、これから一緒に頑張ろう!」


そして俺の方を向く。


「あ、そうだ。鬼塚、君は魔法を使えないんだったね」


神崎がルナを見た。


「ルナ、戦闘の時は彼に身体強化をかけてあげて」


「はい、もちろんです」


ルナが優しく頷く。


「それと、盾役といえば普通は盾を持つんだけど……」


神崎が部屋の隅を指差した。


壁に立てかけられた大きな盾。

木製の本体に鉄の補強。重そうだが、頑丈そうでもある。


「とりあえず、うちにあるやつ使ってよ」


「……いや」


俺は首を振った。


「盾はいらねぇ」


「え?」


神崎が目を丸くした。


「おいおい、マジかよ」


ガルドが呆れたような顔をする。


「俺が前に出て引き付けてりゃいいんだろ?」


俺は拳を掲げて見せた。


「こいつで充分だ」


一瞬の沈黙。


神崎が少し考えてから、明るく笑った。


「うん、まあいいか。さっきの戦いぶりを見る限り、大丈夫でしょ!」


セリアが腕を組んで俺を見据える。


「あなたが敵を引き付けている間に、私たちが処理するわ」


氷のような瞳が俺を値踏みしている。


「足を引っ張らないことを期待してるわよ」


「……任せとけ」


その時、ルナがぱっと顔を明るくした。


「あの、新しい仲間が加わったんですし、今日は歓迎会にしませんか?」


「お、いいねぇ!」


ガルドがテーブルをバンと叩いた。


「酒だ酒! 飲もうぜ!」


「賛成! パーッとやろう!」


神崎も嬉しそうに頷く。


セリアも珍しく口角を上げた。


「……たまには、いいかもしれないわね」


俺は仲間たちの顔を見渡した。


パーティか。

群れるのは嫌いだ。

一人で戦って、一人で勝つ。それが俺のやり方だった。


でも――

この賑やかな雰囲気も、悪くないかもしれない。


そう思い始めている自分がいた。

 

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