第6話
翌朝。
目を覚ますと、全身がギシギシと軋んでやがる。
「……っ」
昨日の傷が疼く。
筋肉も悲鳴を上げてる。
ベッドから這い出て、部屋の隅にある小さな鏡を覗き込む。
顔には青紫の痣。
腕には爪痕が赤く残ってる。
情けねぇツラだ。
「……クソが」
でも、負けるつもりはねぇ。
金髪リーゼントを丁寧に撫でつける。
破れた服を着直す。穴から肌が見えてるが、今はこれしかねぇ。
「……よし、行くか」
受付嬢への借りを返すためにも、何か仕事を見つけねぇと。
宿を出て、朝の冷たい空気を吸い込む。
――
石畳の大通りを、ギルドへ向かって歩いていく。
その時――
「おい、そこのお前」
路地から野太い声が飛んできた。
振り向くと、チンピラが三人。
革の鎧に、腰には剣。冒険者の格好だ。
「お前、昨日ゴブリンにボコられた奴だろ?」
リーダー格の男がニヤニヤ笑ってやがる。
黄ばんだ歯が朝日に光った。
「……は?」
「ギルドで見たぜ。血まみれでフラフラ帰ってきてよぉ」
仲間の一人が茶化すように言う。
「ゴブリンごときに負けるとか、マジ笑えるわ」
三人目も下卑た笑い声を上げる。
「なぁ、お前さぁ。俺らのパシリやんねぇ? 餌やるからよ」
その瞬間――
カチン、ときた。
頭の中で何かが切れる音がした。
考えるより先に、体が動いてた。
「オラァ!!」
渾身の右ストレート。
リーダーの顔面に拳がめり込む。
ガキッ!
鼻が潰れる感触。
男の体が吹っ飛び、石畳に転がった。
「な……!?」
残り二人が慌てる。
「てめぇ……!」
一人が剣を抜こうとする。
そんな暇は与えねぇ。
踏み込んで腹に膝蹴り。
「ごふっ!」
うずくまったところで頭を掴み、顔面に膝をねじ込む。
ゴキッ。
また一人、倒れた。
「ひっ……!」
最後の一人が腰を抜かしてる。
「ぶ、ぶっ殺してやる!」
震える手で剣を抜こうとする奴に飛びかかり、マウントポジション。
顔面を何度も殴りつける。
「クソが! クソが! 舐めやがって!」
昨日の鬱憤、悔しさ、怒り。
全部をぶつけてやった。
気づけば、三人とも地面に転がってる。
ピクリとも動かねぇ。
「……はぁ、はぁ……」
荒い息を整える。
拳が血で濡れてる。俺のか、あいつらのか。
「クソが!」
倒れたチンピラの腹をもう一発蹴って、その場を後にした。
――
路地を出ると――
「すごいね、君」
爽やかな声が聞こえた。
振り向くと、これまたとんでもねぇ奴が立ってた。
整った顔立ち、爽やかな笑顔。
白と青を基調にした高そうな装備。
腰には宝石がはめ込まれた立派な剣。
どう見ても「勇者様」って風貌だ。
「……あ?」
「今の、全部見てたよ。一人で三人倒すなんて!」
青年の目がキラキラ輝いてる。
まるで子供がヒーローを見るみてぇな目だ。
「身体強化魔法、かなり鍛えてるんだね?」
「……魔法なんか使えねぇよ」
「え!?」
青年の目が真ん丸になった。
「魔法なしで……今の三人を倒した?」
「ああ」
「す、すごい……!」
青年が興奮したように身を乗り出してくる。
「ちなみに今の三人、Bランク冒険者なんだよ」
「……Bランク?」
そいつらが?
見た目はただのチンピラだったが。
「うん。君はFランクだよね? ギルドカードが少し見えたから」
よく見てんな。
「それでBランクを三人も……信じられない!」
青年がニコニコと笑う。
「ねぇ、提案があるんだけど」
「あ?」
「僕たちのパーティに入らない?」
「……パーティ?」
昨日、受付嬢にも同じこと言われたな。
「うん! ちょうど盾役――前衛で敵を引きつける役の仲間が抜けちゃってさ。君みたいに強い人、探してたんだ」
盾役。
つまり、最前線で殴られ役ってことか。
「どう? 一緒にやろうよ!」
青年が手を差し出してくる。
キラキラした笑顔は変わらねぇ。
群れるのは、嫌いだ。
群れるってのは弱ぇ奴がやることだ。
でも――
ここは異世界。
昨日のゴブリンとの戦いが頭をよぎる。
一人じゃ、殺すことすらできなかった。
それに受付嬢への借りもある。
稼がねぇと、返せない。
「……分かった」
俺は青年の手を握った。
「本当!? やった!」
青年が子供みてぇに喜んでる。
「よろしくね! あ、そうだ。名前を聞いてなかった」
「……鬼塚剛だ」
「鬼塚か。いい名前だね! 僕は神崎ハルト」
神崎は胸を張って言った。
「実は僕、勇者なんだ!」
勇者……か。
まあ、見た目通りだな。
つーか、すげぇパーティに誘われたもんだ。
「他のメンバーも紹介するよ。行こう!」
「……おう」
神崎の後ろを歩きながら、考える。
(盾役……要は前張りで壁になれってことか)
前に出て、敵を引きつける。
殴られて、耐える。
(……まあ、性に合ってるっちゃ合ってる)
俺は逃げたことがねぇ。
どんな相手でも、正面から殴り合ってきた。
(心が折れなきゃ、負けじゃねぇ)
拳を握りしめる。
昨日、ゴブリンに逃げられた。
殺せなかった。
クソみてぇな気分だった。
でも、まだ諦めちゃいねぇ。
まだ戦える。
(パーティか……)
群れるのは本意じゃねぇ。
でも、今は仕方ねぇ。
この世界のルールで戦うしかねぇんだ。
(いつか、一人でも戦えるようになってやる)
そう心に誓いながら、俺は神崎の後を追った。
朝日が、石畳を金色に染めている。
新しい一歩を踏み出した朝だった。
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