第2話 記憶

 大和号暦百年ほど。これは、大和号が推進機を点火した年を大和号暦一年と定めた年から百年が経過したことを意味する。

 現在、大和号は太陽系の外側であるヘリオポーズを通過して、太陽圏の外側へと進出する。速度は秒速二十キロメートルに迫るほどだ。

 大和号の内部では順調に世代交代が発生し、通常の国家と同様の体制が形成されていた。

 それと同時に、ある問題が発生する。

『次世代の若者たちに、地球の存在をどのように伝えるべきか』

 何かしらの災害や戦争といった、人類における大きな転換に伝承は必要不可欠である。しかしながら、いつの時代も若者は昔のことに興味がない者も多い。かつての大震災や世界大戦と同様である。

 そのため行政府を含めた関係機関は、地球の歴史やブレイクスルー・イミグレーション計画の意義を知ってもらうための機会を設けることにした。

 ネット番組では地球の転換点となった出来事を一年に一度のペースで大々的に放送し、土地が空いている所には地球記念館を建設してミュージアムとしたりと、それは様々な手法で記憶を後世に伝えようとした。

 しかし、現在の人口のほとんどは大和号の中で生まれた第三世代である。当然、地球のことなど教育機関の授業で聞いたのみというのがほとんどだろう。そのような人々に対して、行政府は何が出来るだろう?

 考えに考えた結果、ある政策が採用された。

「脳内に地球のことを直接ダウンロードさせよう」

 なんとも狂気的な考えだ。しかし、それ以外に確実な方法がないことも事実だ。

 大和号の中では、ブレイン・マシン・インターフェースが普及している。これを使えば、大和号の乗客に地球の知識を与えることが出来るだろう。

 問題は、それを強行していいのかという点だ。曲がりなりにも、大和号の行政は民主主義を採用している。もし脳内ダウンロードを強制させれば、乗客から反対のデモ行進からの暴徒化になるのは必至だろう。

 しかし人々の記憶に残るためには、文書や映像などの媒体に頼るだけでは駄目なのだ。人間は強烈な体験があるからこそ、後世に伝承されるというものである。

 結局のところ、教育省大臣による行政府長への直談判によって、強制ダウンロードが決定した。

 その後のいざこざは省略する。記述できるほど綺麗なものではないのだから。

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