第3話

 さて、やはりあっさり拐われてしまったのだが、諸兄らにおかれましては「結局拐われるの? やっぱオーク姦に興味あったんか?」と思われたことだろう。あるわけ無いだろ。

 原作改変の末路が魔王登場だったから、その責任を取っただけだ。前述の通り誘拐事件はあっさり姫様が取っ捕まって終わるはずだった。

 それが散々抵抗したお蔭で兵士は怪我するわ、城は壊れるわだったのだ。私とて私の貞操は惜しかったから皆と戦うことでお茶を濁したが、魔王が出てきたらそうも言っていられない。付いていくことで侵攻が止まるならそれが最善だ。人命が失われたらそれこそ私じゃ責任がとれない。

 父たる王は国にとって必要な人だから真っ先に逃がした。彼はまだ若いし、究極私がいなくとも国にダメージはない。王族という役割に不満はない。

 だから問題はこの先だ。


「ここだ」


 打ちっぱなしの土壁に湿っぽいからだけではない饐えた臭い。荒い魔物の息遣いが響く。ロウソクの頼りない灯りでは牢屋の全貌が見えない。それほど暗い。

 檻のまま牢屋に入れられ、魔王の闇魔法が解かれた。途端に大きな巨体が私に掴みかからんと飛びかかってくる。オークだ。牢屋にいて、私を凌辱するためだけの魔物。さんざ予期していた私は冷静に持っていたスタッフでオークの横っ面を殴りつけた。


「しまった、武器を取り上げ忘れていたな」

「ご心配なく。私ではこの牢屋を破壊することは出来ませんから」


 言いつつバリアを展開する。怯んだオークが立ち上がった時には私は既に防衛幕に包まれていた。ほうと牢屋の外で魔王が感心したように腕を組んだ。


「素朴だが良い防壁だ。知性のないオーク相手ならそれで十分防げるだろうよ」


 だが、と零すもそれ以上言葉を重ねることすら億劫になったのか、魔王はそれきり黙ってこの一角から立ち去った。足音を耳だけで追い、私は正面を見据える。フゴフゴとオークが見えない壁を押し退けようと藻掻いているだけだった。ほっと息をつく。

 元の姫は魔術師ではなかったので、本当ならここで処女喪失イベントが始まっていた。だが私は魔術師なので遅延行為が出来た。

 そうだ、わかっている。これはただ犯されるまでの時間稼ぎでしかない。魔王が言いかけた通りだ。何故ならバリアは一度展開すれば終わりなのではなく、維持し続けなければいけないのだ。

 眠る事もできず、飲まず食わず。一体何日保つだろうか。

 オーク達を倒せる力はない。いくら知性がないとはいえ、その力だけで生き残ってきただけあって、肉体的には丈夫だ。かと言って魔王城直下にある牢屋も壊せない。あの魔王をはじめ多くの亜人達の魔力が練り込められている。私一人の力じゃ無理だ。

 だから武器の持ち込みを見逃されたのだろう。やろうと思えば魔王はあの場でバリアを壊して、私をオークに捧げることが出来た。


 だからもし、私の体力が尽きるより早くロロアが助けに来なかったら。

 私はもう一つ忍ばせていた武器を握る。小振りのナイフ。敵を斬りつけるための物ではない。自決用だ。いよいよとなったら私はこれで自分の喉を突き、精神の貞操は守るのだ。死体は屍姦されてしまうかもしれないが、それでもオークの子を孕むよりまし。ゲームのシオン姫の身に降り掛かったことが我が身にも起こったら、私にはきっと耐えられない。

 もちろん積極的に死にたいわけじゃない。第一はロロアがここに来て私を助けてくれることだ。ロロアがセックスの法悦に嵌まっていなければ、あるいは間に合うかもしれない。そうだ。ロロアに助けられるか、自決するか、二つに一つだ。どちらにしろ私が穢されることはない。バリア越しにオークを見つつ、息をついた。


 一日目は、どうにか。

 保ったがオークはまだ私を見ていた。


 二日目は、喉の渇きが酷い。

 起きているが、頭が痛い。空腹だ。何か水が欲しいと隈なく見回したが、水がありそうな場所がなかった。

 オークが食事をしに奥に引っ込む瞬間だけ休憩が出来た。ただ寝れはしない。寝たら私は犯される。


 三日目は、死を考える。

 私はただの人間だ。何日もそんな状況で生き延びれる筈がない。流石のオークも私に飽き、背を向けている時間の方が長い。ナイフを出して喉を一突きすることくらい簡単に出来る。

 私はナイフを取り出した。死への恐怖がどっと湧き出た。自分で死期を決めるのがこんなにも怖いことなのか。今更実感が湧いて手が震えた。

 相当迷って、腕に突き刺した。目が覚めると言えるほどではないが痛みでまだ耐えられそうな気がした。


 四日目の朝。

 限界だ。死ぬしかない。ナイフをぼんやりと見る。もともとロロアが処女プレイしていたとしても間に合うかどうかわからない話だった。本来ならとっくに散らされていたのだし。

 サブキャラクターの分際でオークに犯されることを嫌がって、死ぬのも躊躇った結果苦しんでいるだけだ。往生際が悪過ぎる。

 死のう。ここが私という人間の限界だ。ナイフをどうにか握ると、いつからそこにいたのか聞きたくもない声が降ってきた。


「……まったく、厄介な女だ」


 認識した瞬間あらゆる最後の力を振り絞り、自分の喉へとナイフを突き立てる! が皮を裂いただけでバリアごとナイフを弾かれてしまった。カランカランとどこかへ転がっていくナイフ。バリアが消えたことに気付き、駆け寄ってこようとするオーク。

 ああ、死にそこねた。こうなるのがイヤだったからナイフを持ってきたのに、躊躇ったせいで結局最悪を引き寄せた。

 これからあのオークに死んだほうがマシな目に遭わされるんだ。そう思うと身体から力が抜けて、私は倒れ込んでしまった。

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