第2話


 運命の日が近付いてくる。ロロアが旅に出て一週間。もちろんロロア以外の護衛騎士はいるが、やはり国一番の騎士の不在は大きい。そわそわと落ち着かない私に、城の者たちはロロアなら問題ない、無事に帰ってくると慰めてくれる。大丈夫、それはわかっている。これからの魔王襲撃を予期しているのは私だけなので仕方がない。


 そして襲撃。魔王軍が空からやってくる。

 城は騒然となり、人々が逃げ惑う中、私はスタッフを構えて立ち向かった。


「逃げてはなりません! 今まさに旅に出ているロロアは、これよりもずっと危険な思いをしている!

 戦うのです、戦って守るのです! 命を懸けて戦う勇者ロロアの帰る場所を、命を懸けて守るのです!」


 おっそれっぽいことが言えたんじゃないか? 私の言葉で奮起したらしい傍の騎士が盾で相手を押し返した。いいぞ!

 私も魔術を行使してハーピーを撃ち落とした。よしよし! 拐われて酷い目に遭うのなら、拐われなければいい。上手くやればここでイベントを壊せる。

 フラグだ。勝ちを予感すれば更なる脅威がやってくるというフラグを、私は折れなかった。


「ほう」


 感嘆の言葉と共に放たれる炎攻撃。私はギリギリ受け止められたが、精根を根こそぎ奪われるような強烈な攻撃だった。思わず膝をつく。駆け寄って来ようとする騎士を目で制して前を向いた。果たして目の前には亜人だが明らかに知性が宿った目をした男が立っていた。


「カリスマとはどこにいても厄介だな」


 どっちが。予期せぬ相手の登場に戸惑いを隠せない。この男のことを無論知っている。いわゆるゲームのラスボス。魔物達の王。討伐せねばならない相手、魔王だ。いつも魔界に座して動かないという設定のはず。こんなところにいていい男ではない。

 ちなみにこいつに負けると当然凌辱されるわけだが、魔王に負けるまでロロアが処女だと特別なルートに入る。いわゆる魔王?勇者が始まる。亜人とはいえ私達の価値観でも美しい顔してるもんな、魔王。綺麗な竿役も欲しいという需要も満たしているし、処女エンドのついでにルート回収できる。コスパの良い男である。まおゆうはスチルがキレイで私も好き。

 

 脱線したが大変まずいことになった。

 本来姫君誘拐イベントは抵抗できない姫があっさり捕まって終わる話なのだ。人間側はロクに抵抗出来ないし、魔王軍は拐えさえすれば長居はしない。抵抗したことが魔王を誘引したというのなら、この場の責任は元のゲームにはないことをした私にある。


「何者です。いえ何の用です。この城を潰そうとも勇者ロロアが歩みを止める理由にはならないというのに」


 時間稼ぎをしなくては。なんとか立ち上がって魔王を睨み据えた。

 指揮を採ってはいたが、私とて魔術師としては凡の域を出ない。魔族達と対等以上に渡り合えるロロアが特別なのだ。それなのに魔王と対面だなんて、勝てるわけがない。こいつが出てきた時点で人間界の全滅は確定だ。だから私はどうにかこいつの目的を探らなくてはならない。勝てない以上交渉しなくては。


 魔王は値踏みするかのように私を見て顎を擦った。


「そうか。その勇者の主がアンタと聞いていたのだが」

「まさか私を拐うつもりですか? そのために侵攻をしてきたと?」

「今のでわかるか。俺も腹芸を鍛えなくてはなぁ。それでどうする?」

「好きに連れていきなさい。私はこれより抵抗しません」


 傍らの騎士が「姫様!?」と驚き戸惑いの声をあげた。良く見ればフルフェイスアーマーの騎士団長である。なるほど道理で良く戦えていたわけだ。

 それをもう一度制して、魔王に向き直る。


「ただしこれ以上の手出しはしないと誓うのならば、ですが」

「いいぞ。元より勇者の士気を削ぐためにその主を拐うつもりだっただけだ。その他の有象無象に用はない」


 宣言と同時に私の足元から闇魔法が溢れ、檻状に囲む。まいった、閉じ込められた。隙をついて一撃も無理そうだ。

 騎士団長の悲痛な「姫様!」呼びかけに微笑んで返す。


「お父様達をお願いね」


 それくらいしか言葉を残せなかった。

 せっかち過ぎんか、魔王。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る