読書感想文が嫌いだ

マリアンナイト

第1話 読書感想文が嫌いだ

 堅苦しい本を読まされるのは、嫌いだ。



 僕は今、目の前にある原稿用紙と睨み合っている。なぜなら、本がないから。読む本がないのに、どうやって感想文を書くか、格闘しているのだ。


 本屋には行った。


 でも、どの本を読んだらいいのか分からない。どれも難しそうで、何を選んだらいいのかも分からない。そもそも、本を読まない僕にとって、これは苦行でしかない。 

 本を手に取って、頁をめくる。でも、文字は頭に入ってこないし、なんだかトイレに行きたくなる。どうして、本屋に行ったらトイレに行きたくなるんだろう。


「緊張してるのかなあ……お腹が痛くなってきた」


 紙やインクの匂いが、僕の鼻を刺激する。


「もう我慢できない」


 だけど僕は――

 トイレから出てきた先の、あの魅惑的な本棚に釘付けになった。光り輝くような漫画の数々、手にすれば甘い本の香りが僕を惑わす。チョコレートのような香りは、漫画が僕を食べてよと、そそのかしてくるみたいだ。漫画ならいくらでも読みたい。漫画の感想文なら書ける気がするのに。


 先生は、漫画以外の本で感想を書くように、と言っていた。


 しばらく、宝の山のような本棚で、漫画を手に取ったり眺めたりして過ごした。店員さんがパタパタと追い払うように掃除を始める。夢のような時間は、こうして終わりを迎えたのだ。がっかりした僕は、何か忘れていることにも気づかず、本屋を出て家に帰った。


 そして今。

 僕は、真っ白な原稿用紙と向き合っている。その傍らには本などない。


「どうやって感想文を書こう」

 

 本の感想を書きなさい。そう書いてある。


「そうだ!」


 本の感想を書けばいいのだ。そして僕は思いついた本の感想を書いていく。本の匂いは好きです。甘い匂いが、チョコレートのようで好きです。バニラアイスやアーモンドのような匂いにも思えます。あと、インクの匂いで、習字教室で褒められた思い出を思い出しました。習字を習っている時のような、なんだか落ち着く匂いも好きです。いくらでも嗅いでいたいです。


 これならいける。


 ちゃんと本の感想で、間違ってない。まだ思い出すこともある。


 日向の香りが、本を読んで眠気に誘われ、そのまま眠ってしまった思い出。嫌な本を読んでいると、眠気が来て寝てしまっただけなのに、なんだか幸せな気分になる。日向の香りで思い出した。布団を干してすぐの日向の匂い。そしてその布団の中で、お母さんに絵本を読んでもらった思い出。楽しい思い出が浮かんでくる。


 ここまで書いて、不安がよぎる。


「これ、怒られるかも」


 思い浮かんだ考えを、僕は投げ捨てて感想文を続けた。


 不安が、僕の本の苦手な部分を思い出させる。かび臭い匂いは嫌いだ。あれを嗅ぐと頭が痛くなる。体育倉庫の掃除を、嫌々やらされたことを思い出すから。鼻をツンと刺激するようなすっぱい匂いもする。これが原因でトイレに行きたくなるのかも。


 本は僕を色んな思い出に連れて行ってくれます。

 書き終わった。


「これで良し」


 自信満々に、感想文を提出した。先生からの返答はこうだった。


<本の感想は大変よく書けていました。でも、これは読書感想文です。読んだ感想を聞かせてください。これだけの感想文が書けるなら、本を読んだ感想も、先生は読んでみたいです>


 そう書かれていた。


 怒られるわけでもなく。褒められているところもあった。それは、ちょっと嬉しくて僕にやる気を出させた。


 なんだ、素直に書けばいいんだ。


 僕は、みんなが読まないような、読みやすい本を手にした。出来ることからやろう。間違っていてもいいや。笑われたっていい。素直な感想を書こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

読書感想文が嫌いだ マリアンナイト @Maksymilian

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ