第2話 真祖ラギドは混乱する
顕現する濃厚な魔力。
絶世の美男子――跪き恭順するように瞳を光らせる。
「…招集、この上なき喜び。このラギド、あなた様の望み全力を持って叶えましょう――魔王エリルギードさま」
「……ふむ。相変わらず大仰な奴め…まあよい。…まずは現状を報告しろ」
ぱちんと指を鳴らし、現れる書類の束。
我はそれを見やり、今目の前に跪く男に目を向ける。
「はっ。現在“黒峰のダンジョン”は第38階層までは攻略が完了しております」
「ふむ。順調だな。農場の状況は?」
「はっ。……ただ少しヒューマン族に怪我人が……」
「……怪我人だと?なにがあった」
「え、えっと…そのですね……」
言い淀むラギド。
先ほどの重厚な雰囲気がいきなり霧散する。
因みにこいつは吸血鬼の真祖。
この世界では上位の力を持っている。
とても美しい男だ。
まあ私はワンパンで殺せるが。
そんなことを思い、躊躇するラギドを見ていると魔王の間の空気が揺らぐ。
突然乱入してくる身の丈3メートルはある魔物の特徴を持つ種族、龍族のギルハット。
いきなり魔力をたぎらせ、我めがけ暴言を吐く。
「もう我慢できねえ。なんで俺様が農場の管理なんぞしなくちゃいけねえんだ?こうなりゃ魔王、てめえを殺して俺様が魔王になってやる!!覚悟しろっ!!」
魔力を集中させるギルハット。
謁見の間を覆いつくす魔素が、ギルハットの呪言により性質を変えていく。
ふむ。
(ほう?竜言魔法…しかもかなりの上位…)
――この城位なら吹き飛ぶだろう。
「なっ?!き、貴様?!狂ったか?!」
突然の凶行。
ラギドが慌てて私を守るように位置取りをし、結界陣を構築。
ふん。
どうやらコイツの忠誠心は本物らしい。
我はため息をつき。
瞬間ラギドの前に立ち、手をかざす。
「吸収」
あっけなく消え去るギルハットの紡いだ術式と竜言魔法。
どうやらギルハットは学習能力がないようだ。
「な、なにい?!……く、くそがっ!!このインチキ魔王め!!」
「ほお?インチキだと?」
「そ、そうだ。俺様の竜言魔法は最強だ。止められるものなど存在しねえ!!」
「ならどう説明するのだ。ん?」
冷や汗をかき後ずさる。
――マジでコイツ脳筋過ぎる。
「もう良い。殺すのもばかばかしい。貴様そんなに暴れたいのならダンジョンへ行け。良いな?」
「くっ、誰がてめえの言う事なんか…ひいいっ?!!」
「あ?」
一瞬で近づき首を掴む。
我のしなやかな指が食い込み、血がしたたり落ちる。
脆い――少し力を込めればねじ切れるだろう。
「何か言ったか?」
そして押さえていた魔力をほんの少しだけ噴き上げさせた。
超絶魔王のその威圧。
一瞬で悟ったギルハットは既に涙目だ。
うん?
ぽたぽたと水滴?!
はあ…なんて情けない。
「…おいこら、何とか言え」
「……りました」
「はあっ?!聞こえないっ!!」
「わ、分かりました…し、従います。…だ、だから、こ、殺さないで……」
完全なる調教。
私はギルハットを投げ捨てる。
「おいラギド」
「……っ!?は、はい」
「片付けろ。ああ、別にお前でなくともよい。掃除部隊がいたな」
「は、はい」
「ふむ。そいつらにでもやらせておけ。貴様には相談がある。知恵を貸せ」
「はっ、仰せのままに」
場所を変えよう。
いやな匂いが鼻腔に残る。
まったく。
※※※※※
「結婚?ですか?……ま、ま、魔王様の?」
「うむ」
魔王エリルギードの私室。
不釣り合いな可愛らしい装飾のある部屋で、ラギドは緊張を抑えられずに素っ頓狂な声をあげてしまった。
実は我。
メチャクチャ可愛い。
たぶん地球にいたらアイドルも逃げ出すレベルだ。
サラサラな銀髪。
クリックリなアーモンド形の大きな目。
サファイヤがごとく神聖な輝きを放つ美しくも気品あふれる青い瞳。
自分でいうのもあれだがまさに“絶世の美少女”だ。
17歳くらいの見た目か?
そんな我だ。
求婚なぞ飽きるほど経験している。
まあ実際に付き合ったことなどない。
もちろん日本でもな。
だが今回、無視するには少し厄介な状況になっていた。
紅茶を含み、ほっと息を吐き出す。
何故か挙動不審なラギドに、我は改めて近づき視線を向けた。
(大切な話だからね。ちゃんと伝えなくちゃ)
「相談、というのはな…」
「…ゴクリ」
魔王の私室。
誰も入ることの許されぬ、まさに花園。
そして――息がかかるほど近い距離。
既にラギド、正常な判断。
出来ないほどの幸福と緊張と――
そしてほのかに香るかぐわしい香りに。
囚われていた。
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