第4話 狩られる側
夜は、
突然やってきた。
焚き火の火が落ち着き、
集落が眠りに沈む頃。
胸の奥で、
小さな警鐘が鳴った。
「……来る」
俺が呟いた瞬間、
空気が裂けた。
闇の中から、
黒い影が滑り出る。
音がない。
殺気も薄い。
だが、
確実に“狙っている”。
「伏せて!」
リゼアが叫び、
剣を抜いた。
次の瞬間、
焚き火の跡地に、
光の杭が突き刺さる。
地面が、
静かに焼け焦げた。
「魔術部隊……?」
ミュゼが歯を噛む。
影は、
四方から現れた。
黒装束。
統一された動き。
個ではない。
組織だ。
「アルト、
中心から離れて」
リゼアが前に出る。
だが――
影の一人が、
俺を真っ直ぐ見た。
視線が、
絡みつく。
「――確認完了」
冷たい声。
「対象、
調整士アルト」
その言葉で、
全身が強張った。
名を、
呼ばれた。
知られるはずのない役割を。
「捕縛を優先。
殺害は、
最終手段とする」
命令が下る。
同時に、
術式が展開された。
逃げ場を潰す構造。
「っ……!」
俺は、
反射的に流れを探す。
だが――
歪みが、
抑え込まれている。
「封じてる……?」
「違うわ」
ミュゼが叫ぶ。
「歪みを、
均一化してる」
「調整を、
無効化する構造よ!」
理解した瞬間、
背筋が冷えた。
俺専用の、
対策。
つまり――
過去にも、
同じ存在がいた。
リゼアが、
正面突破を選ぶ。
剣閃が走り、
一人を弾き飛ばす。
だが、
すぐに次が来る。
連携が、
洗練されすぎていた。
「アルト、
走れる?」
「はい……!」
ミュゼが、
術式を崩す。
一瞬だけ、
隙が生まれた。
その瞬間を、
逃さない。
森へ、
駆け込む。
背後で、
音が爆ぜる。
追撃。
枝が裂け、
地面が抉れる。
息が、
乱れる。
走りながら、
考える。
なぜ、
俺が狙われる。
答えは、
明白だった。
調整士は、
管理すべき存在。
自由にさせてはいけない。
世界にとって、
都合が悪い。
崖の手前で、
足を止める。
これ以上は、
逃げ場がない。
「……囲まれた」
リゼアが、
低く言う。
影たちは、
距離を保ったまま、
近づいてくる。
「抵抗は、
無意味です」
指揮官らしき男が言う。
「あなたは、
世界に必要な部品だ」
「だから、
回収する」
部品。
その言葉が、
胸に刺さる。
俺は、
一歩前に出た。
「俺は……
道具じゃない」
声は、
震えていなかった。
「支えることを、
選んだだけだ」
男は、
首を傾げる。
「選択?
調整士に、
そんなものはない」
「役割を果たせばいい」
その瞬間、
何かが、
はっきりと分かった。
この人たちは、
世界を守っている。
だが――
人を、
見ていない。
ミュゼが、
小さく囁く。
「……アルト」
「聞こえてるわよ」
「この組織、
名前がある」
「《世界均衡庁》」
均衡。
美しい言葉だ。
だが、
均すために、
削られるものもある。
俺は、
深く息を吸った。
もう、
後戻りはできない。
支えない選択を、
した瞬間から。
そして今、
はっきりと理解する。
俺たちは――
守る側ではない。
狩られる側に、
なったのだ。
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