第20話 スローライフvs冒険5

「皆〜、ヒロっち、来てくれるって!」


 拠点に戻ったマリアが、開口一番に皆に伝えた。


「おお、やったな!」

「やりましたね、お師匠様!」

「ええ、良かったです…… 姫様の言っていた予言が当たったようですね」


 本当に良かった……

 正直、『無限の深淵』で修行しても、七魔人に対抗できるほど強くなれるとは到底思えなかった。

 ヒロさんの能力スキル、まだ詳細はわからないけど、『真紅の秘水』に匹敵するか、もしかしたらそれ以上の力を秘めているかも知れない。

 地上とはいえ、私一人で『憤怒のライ』を倒せた程の強化……

 これはもう、勝ち確定よ!!


「僕も、うかうかしてられないな。ヒロは友達だけど、お師匠様は絶対に譲れない」

「……いや、ヒロにはお嬢さんがいるし、そこは心配しなくていいんじゃねーか?」

「甘いよ、ガイ。きっとヒロは、僕達に同行する理由を、表向きは立派な内容でセディアさんに説明したと思う。でも、本心は…… ですよね? お師匠様!」


 え、その話の流れを私に振るの?


「あ、ヒロっちがアタシ達のところに来たい理由、アタシのサービスが目的だって、ちゃんとセディアに伝えておいたよ」

「「「!!??」」」


 エリナ、ガイ、テディが、3人揃って絶句した。

 しばらくの沈黙の後、テディがおそるおそる質問する。


「——その話をした後に、それでも僕達に同行するって話になったの?」

「いや? 初め、セディアがやっぱりアタシたちに同行したいって言ってくれてさ〜。その後の話の流れで、ヒロっちに『胸かお尻、どっちにするか決めた?』みたいな話もしたりしてさ〜」

「そ、それ聞いて、お嬢さんはどんな反応だった……?」

「憤怒激昂してたわよ。すごい怒気と殺気で、アタシ、怖くて逃げちゃった」

「「「…………」」」


 エリナ、ガイ、テディが、3人揃って絶句した。

 しばらくの沈黙の後、ガイが発言した。


「……師匠、ちょっと様子を見に行った方がいいんじゃねーか? なんつーか、修羅場になってる気がするんだが……」

「本当に、マリアって余計なこと言うよね。余計なことしか言わないというか……」

「何よそれ!? アタシは事実を言っただけじゃないの! これから仲間になるのに、隠し事は良くないっしょ!!」

「いや、それを事実と思ってるのが、僕怖いよ……」


 エリナは、窓の外—— ヒロとセディアの家の方を見ていった。


「——ヒロさんとセディアさんは、これからのこと、2人でよく話し合ってるはずです。まずは2人に任せましょう。もし夕方までに来なかったら、こちらから伺いましょう」

「……ごめんなさい、アタシのせいで……」


 やっとマリアも事の重大さに気付いたかしら。

 もしヒロさんが同行できなくなったら、どれほどの影響があるのか——


「ホント、アタシの可愛さって罪よね…… 夕方に行ったらさ、もしかして、セディアがヒロっちを刺してて、果樹園に埋めてたりして〜? まあ、アタシの神聖魔法で、ギリ助かるかな? そしたらさ、埋められたヒロっち探すついでに果物もらってこよっか?」


 エリナ、ガイ、テディが、3人揃って思った。

 お前を埋めてやろうか、と。



 ——————そして、その日の夕方前。


 雨は午前中で止み、午後は眩しいほどに晴れてくれた。

 僕とセディアは、エリナ達の拠点に向かう。

 セディアの誤解を解いたり、お土産の果物を果樹園から収穫したり、訪問の準備で思ったより時間かかっちゃったな。


「ヒロ君、ごめんね。私、ヒロ君のことになるとおかしくなっちゃって……」

「ううん、気にしないで。それだけ僕のことを思ってくれてるなんて、僕は幸せ者だよ!」

「ありがとう! あ、見えた……」


 エリナさん達の拠点である家が見えて、セディアは緊張しているみたいだ。

 昨日言ったこと、気にしてるみたいだけど、マリアさんが言ってたように、皆そんなに気にしてないんじゃないかな。


 ————トン、トン、トン、トン


 玄関ドアをノックして名乗ろうとしたところ、すぐに玄関ドアが開いた。

 開けてくれたのは、マリアさんだった。


「はいは〜い! あ、ヒロっち、まだ生きてたんだ? セディアもいらっしゃい! さあ、入って入って〜」


 え、なんで僕、いきなり嫌味を言われてるの??


「「こんにちわ、お邪魔します」」


 家に入ると、直ぐに広いリビングになっていて、テーブルに座っているガイとテディが立ち上がって声をかけてくれた。


「おう、2人とも、良く来てくれたな! マリアから話は聞いてたぜ。改めてよろしくな!」

「やっぱり、持つべきものは友達だね。ヒロ、セディアさん、ようこそ!」


 奥の部屋からエリナも顔を出してくれる。


「ヒロさん、セディアさん、良くきてくださいました。さあ、どうぞ座ってください」


 エリナが僕たちをソファに案内してくれようとしたが、直ぐにセディアがエリナに向かって声をかけた。


「あ、あの、エリナさん、先日は本当に失礼しました。私、どう謝罪すればいいのか……」

 頭を下げるセディアに対して、エリナは直ぐに優しく声をかける。


「いいのよ、セディアさん。私の方こそ、あんな言い方をして本当にごめんなさい…… これからは、お互いの大事なものを守るため、協力しましょう。ヒロさん、セディアさん、私のパーティーに参加して頂けますね?」


 セディアは、少し驚いて返答する。


「は、はい、よろしくお願いします。でも、あの…… 私も、でしょうか? 私は、ヒロ君みたいな力はないし、エリナさんのパーティーのメンバーとして力不足じゃないかしら……」


 そう、セディアも僕も、不安に思ってたことがあった。

 僕がエリナさんのパーティーに参加することになったら、セディアはどうなるんだろう。

 七魔人の討伐が終わるまではお別れになってしまうのか……


 テーブル席に座ったガイが、話に加わってきた。


「確かにお嬢さん—— これからは仲間だし、セディアって呼ばせてもらうぜ—— セディアが自覚している通りだ。ただ、ヒロを守るためなら、参加してくれた方がいいぜ」

「ヒロ君を守るため——」

「そう、それがセディアの目的だろ? で、ヒロが俺らのパーティーに入ったら、直接ヒロに手出しをしてくる奴は、まずいなくなる。そうすると、次に狙うのは——」


 セディアを狙ってくる——!?

 セディアも察したようで、自分の両手を強く握っている……


「そう、大事なものを奪って脅迫してくるのが、悪党の常套手段だ。そういうわけで、セディアもまとめて守らせてもらうぜ。それと、昨日も言ったが……」


 ガイは、セディアに笑いかけながら話を続けた。


「セディアは冒険者としても、かなりいい線行くと思うぜ。昨日話したことに加えて、今回の決断の早さ…… 大したもんだぜ。昨日の今日で、大分気まずかっただろ? 俺達は1週間くらいここにいるって話したし、決断を後回しにもできただろうが……」


 セディアは、ガイの話を真剣に聞いている。


「さすがに1日、2日でヒロの能力スキルが漏れて襲われる可能性はまずない…… が、ゼロじゃない。となると、できるだけ早く俺らと合流するのが正解だ。その決断の早さ、冒険者に向いてるぜ。なあ、師匠?」

「ええ、ガイの言う通りです。セディアさんの素質、本当に素晴らしいと思います」


 セディアも、エリナさん達にここまで言われて、きっと嬉しかったんだろう。

 深々と2人に頭を下げて答えた。


「ガイさん、エリナさん、そこまで言って頂いて、本当にありがとうございます…… 私、皆さんのお役に立てるよう、頑張ります!」


 良かった!

 それにしても、ガイさん、良く観てるな。

 頭が良いとかじゃなくて…… 冒険者としての経験値を感じるな。

 と、思ってたところに、マリアが水をさした。


「ガイったら、な〜に偉そうなこと言ってるのよ。『怠惰のリート』にワンパンでやられた癖に」

「……まだそれを言うか。あれは規格外すぎだ…… だが、次はいけるぜ! ヒロが来てくれるしな」

「そうそう、ヒロの能力スキル、色々と検証しないとね。使うときの魔力を調節できるのか、複数人のステータスをアップできるのか、特定のステータスだけをアップできるのか…… 要は、どれだけヒロが制御できるか、だね」


 そう、色々とやることがあるんだと思う。

 でも、まず最初は、昨日の自己紹介の時に話せなかった情報を皆に言わないと……

 色々と混みいった話だけど、もし僕達を受け入れてくれたら包み隠さず話そうって、セディアとも事前に相談しておいたんだ。


「皆、僕のことで、最初に話しておきたい事があるんだけど…… いいかな?」


 直ぐにエリナが答えた。


「ええ、是非とも聞かせて下さい」

「実は——」


 僕は、3つのことを話した。

 1つ目は、記憶喪失になっていること。

 2つ目は、前世の記憶があること。

 3つ目は、『憤怒のライ』から昔会ったことがあるかのように話しかけられたこと。


 エリナ達は、話を聞いて、当然驚く。

 もしかして、面倒なやつを仲間にしちゃった、なんて思われるかな。

 そんな心配がちょっと頭を掠めたけど——


「——本当に面白くなってきたじゃねーか。いや、悪いな、ヒロ。冒険者の悪い癖でな、良い悪いは関係なしに、変わったことや珍しいことは、なんでも面白く思えちまってな」

「ぜ、前世? この世界とは違う、別の世界があるって?? え、なにそれ、すごい興味あるんだけど!? ヒロと友達になれてよかったよ!」

「記憶喪失! そしたら、何も知らないのをいいことに、セディア、ヒロっちのこと調教し放題じゃない!! うらやましいわ〜」

「『憤怒のライ』の『あんなことがあったのに』という言葉、とても気になりますね。もしかして、ヒロさんの能力スキルと何か関係あるのかしら……」


 皆、色々と発言しだして、収拾がつかない感じになっちゃった……

 でも、少なくとも引かれるようなことはないみたいだし、よかった。


 その後も、皆で色々と話して、いつの間にか窓の外の日も落ちていた。


「あ、もうこんな時間か。楽しく話してると、時間が経つの早いね。よかったら、ヒロとセディアさん、一緒に夕食どう?」


 テディが誘ってくれたが、直ぐにマリアが発言した。


「ホントにアンタ、男女の機微に鈍いわね〜 そろそろヒロっちもセディアも、2人でゆっくりしたい時間でしょ。もう夜だし…… 愛のプレイとか…… 調教とか…… ねえ?」


 仲間が実は敵だった、みたいな展開はあるあるだけど、この人、実は『色欲』だったりしないよね……?

 セディアも返答に困ってうつむいてるし……

 あわててエリナがフォローする。


「そ、そうですね。先にも話しましたけど、ヒロさんもセディアさんも『仮メンバー』とします。七魔人の討伐に向かう時はパーティー行動しますけど、それ以外の時は自由に過ごして頂いて構いませんからね。今日はもうお戻りになられて、また明日、色々とお話ししましょう。私達の方でも、これからのこと、考えておきます」


 そう、僕達は一旦『仮メンバー』という扱いになった。

 もし七魔人を討伐できたら、その時の状況や情勢を見て、『本メンバー』となるか、あるいは、そのまま『仮メンバー』を継続するかを決めることになった。

 七魔人討伐が終わったら、セディアと2人でスローライフを送りたい——

 その思いを汲んでくれたエリナさんからの提案で、『仮メンバー』であれば、パーティーと行動を共にしなくても、エリナさんのパーティーの一員として周りを牽制できるということだった。


 他の皆も賛成してくれたし、セディアも喜んでくれたし、良かった……



 ——————そして、帰り道。


「ヒロ君、本当に良かったね……」

「うん。七魔人と戦うなんてもちろん怖いけど…… でも、僕の能力スキル、きっと、このためにあるんだと思う……」

「——ヒロ君、私さ、皆のこと、好きになれないかもって不安だったの。ヒロ君のこと、とられちゃうって思って……」

「…………」


 丘を登り、前に広がる景色は、満点の星空だった。

 あまり夜に外を出歩かないせいか、夜空がこんなに綺麗だなんて知らなかった。


「でも、皆、本当に素敵で、優しい人達だった。ヒロ君のことだけじゃなくて、私のことも考えてくれてるなんて—— 嬉しくて泣きそうになっちゃった」

「うん……」


 僕は、自然とセディアの手を握った。

 セディアも握り返してくれる。

 そして、僕達の家と、果樹園が見えてきた。


「セディア、僕達、頑張ろう—— そして、絶対ここに帰ってきて、スローライフしよう!」

「——うん!」


 僕は、自分に特別な能力スキルが与えられたことがわかって、物語の主人公になった気分だった。

 だから、これから色々な困難があるけど、最後は皆で七魔人を倒して、そしてここに帰ってきて、セディアとのスローライフが始まる、そう思ってた。



 ————わかったのは大分後だけど……

 僕はこの物語の主人公じゃなかった。

 そして、思った通りには、ならなかった——

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