第19話 スローライフvs冒険4

「だから、ヒロっち達はアタシらのパーティーにくると思いま〜す!」

「あの…… ごめんなさい、セディアさんが、ヒロさんの同行を許してくれる理由、詳しく説明してくれますか?」


 普段なら、マリアの話はあまり的を得ないのでスルーすることが多いんだけど……

 今は藁でも掴みたい状況なので、気になってしまった。

 セディアさんが、頭が良くて、ヒロさんを愛しているから、同行を許してくれる??


 マリアは、いつもの調子で話し出す。


「セディアって、頭良さそうなオーラだしてたから、きっと冷静になって考えると思うワケ。そしたら、今のヒロっち、結構やばい状況って気づくんじゃないかなって——」

「……やばいって、何がやばいんですか?」

「だって、『真紅の秘水』って一生遊んで暮らせるくらい高く売れるし、この国でも、アタシらの持ってる2つしか残ってないくらい貴重でしょ? アタシ、よく意味がわからなかったけど、姫様も『万が一の戦争があった時に戦局を左右する可能性もある秘薬のため、諸外国も国レベルで厳重に管理してる』って言ってたし〜 それを能力スキルでポンポン同じような効果が出せるなんて、マジやばくない?」

「…………!!」


 そう、だった……

 私、目の前の七魔人のことばかり考えてたけど、ヒロさんの能力スキルって、国家間のパワーバランスをひっくり返してしまうほどの力を秘めてるじゃない……


「アタシら、偶然気付いたけどさ〜 なんかの拍子に、悪い人とか、悪の組織とか、そんなのにバレたら、ヒロっち、絶対攫われるっしょ?」

「…………」


 マリアは話を続ける。


「そんな悪い連中からヒロっちが狙われだしたら、セディア1人じゃ守れないし〜 そしたらもうさ、国内最強パーティーのアタシ達の仲間になるしかないかなって」

「…………」

「お姉様にあんなこと言っちゃったから、めっちゃ気まずいと思うけど…… でも、ヒロっちラブで、守るためならなんでもするって感じだし、きっとごめんなさいしてくると思いま〜す」


 ……この子、こんなに頭良かったっけ??


「……とても参考になりました。私も、マリアの言っていること、当たるような気がしてきました。——それにしても、マリアにそんな深い洞察ができるなんて、驚きましたよ」

「お姉様、アタシ、盗撮(洞察という言葉を知らないので盗撮と勘違いした)なんてしないし〜 ただ、セディアの気持ちになって考えてみたら、なんとなくそんな感じになるかなって思っただけよ!」


 ふとガイとテディをみると、2人とも驚愕の表情を浮かべていた。

 まるで、飼っていたペットが、自分が解けない学校の宿題を突然スラスラと解き出したのを目撃したような、そんな表情だった……



 ——————翌日。


「ヒロ君、おはよう」


 セディアは、寝ている僕に優しく声をかけると、そのままカーテンを開けた。

 今日の朝日は弱いみたいで、あまり眩しくなかった。


「おはよう、セディア」

「今日はね、ちょっと天気が悪いみたいなんだ」


 本当だ、窓の外でシトシト雨が降ってる。

 もしかしたら、記憶が戻ってから始めての雨かな……


「朝ごはん用意してあるから、待ってるね」


 なんか、セディアの元気がない気がする。

 昨日、あの後、2人とも今後のことは一切話さなかった。

 セディアは、1人で考えたいといって、奥の部屋にこもっていた。

 僕も、リビングのソファに寝っ転がって、ずっと考えた。

 そして、僕の結論は——


「「いただきます」」


 2人で、向かい合ってご飯を食べる。

 そういえば、今日って……


「セディア、今日はお仕事、お休みだっけ?」

「うん……」

「それは良かった。雨の中、町まで行くの、ちょっと大変だよね」

「うん……」


 ……なんか、気まずい。

 明らかに、セディアの元気がないし、あんまり話しかけない方がいいかな……


 セディアは、食事が終わると、黙って立ち上がって食器を洗い始める。

 後ろ姿が、とても寂しそうに見える。

 そして……


「ヒロ君、お待たせ。昨日のお話の続き、しようか」

「うん……」


 2人でソファに座ると、セディアから口を開いた。


「ヒロ君、あのね…… 私、ヒロ君は、エリナさんのパーティーに参加した方がいいと思うの」

「…………」


 僕は、黙って聞いてる。

 セディアは話を続けた。


「私、冷静になって考えたんだけど…… ヒロ君の能力スキル、本当にすごいと思う。エリナさんの話していた『真紅の秘水』と同じような力が出せるなんて…… 世の中に知られたら、大変なことになると思う。でも、きっと隠しきれないと思うの」


 セディアは、窓の外の雨をじっと見ながら、話を続ける。


「エリナさん達が他の人に言ったりすることは無いと思う…… でも、エリナさん達は、国王様直々に七魔人討伐の依頼を受けているでしょ。その行動は、きっと国から監視されてるんじゃないかって思うの…… エリナさんが私達を助けた後、1人で七魔人を返り討ちにして、その後に私達の家を訪ねて大騒ぎがあって…… もし監視されていて、この行動の意味を考えられたりしたら……」


 セディアは、窓の外から目線を外して、下を向いて話を続ける。


「……国だけじゃないの。エリナさんが1人で七魔人を倒したこと、町中の噂になってるし、すぐに国中に広がると思う。そしたら、なんでエリナさんがそんなに強いんだって、調べ出すような人たち、いっぱいでてくると思うの。そしたら——」


 セディアは、手で顔を覆う。


「ヒロ君の能力スキルが知られちゃって、色々な人に狙われ出したら、私1人じゃ守れない…… 七魔人のダンジョンより、もっともっと危険な気がするの。七魔人は倒せば終わるけど、ヒロ君の能力スキルを利用しようとする人達は、きっといなくならない—— でも、国内最強で国王様からも信頼されているエリナさんのパーティーの一員になったら、手を出せる人はいないし、国民の目もあるから、国だって変なことできないと思う」


 セディアの手から涙が溢れる……


「私が一番弱いのに、エリナさんにあんなこと言って、それで今更エリナさん達に守ってもらえだなんて…… ごめんね、ごめんね……」


 セディア、僕のことをこんなに考えてくれたんだ。

 僕は、セディアを横から抱きしめた。


「あ、ヒロ君……?」

「こうしたら、セディア、落ち着くかな? 僕の能力スキルで落ち着いたりしないかな……」

「うん、落ち着く…… でも、これだと、ヒロ君の能力スキルのおかげなのか、ヒロ君の優しさが伝わるからなのか、わからないわ……」


 セディアが少し笑ってくれた…… よかった。


「セディア、僕の考え、聞いてくれるかな?」

「うん……」

「セディアみたいに深く考えられたわけじゃないんだけど…… 僕、『エリナさん達に任せてセディアとスローライフをする』か、『セディアとのスローライフを捨ててエリナさん達と冒険する』かのどちらをしたいのかって、何度も自問自答したんだ」


 セディアは黙って聞いてくれているので、僕はそのまま話を続ける。


「——結局、結論が出せなくて…… それで、両方できないかなって思ったんだ。でも、同時にすることはできないから、だったら順番にできないかなって」

「……順番に?」

「うん…… 馬鹿みたいって思われるかも知れないけど…… 家の果樹園にあるリンゴとブドウ、両方食べたいって思った時に、同時に食べるわけじゃなくて、はじめにリンゴ食べて、食べ終わったらブドウ食べる、みたいな感じで」

「…………」

「あとは、どっちを先にするかを考えたけど…… やっぱり先に七魔人を討伐しなきゃダメだと思う。世の中のためとか、立派な理由はあるかもしれないけど…… 僕はそんな立派な理由じゃなくて、七魔人を倒さないとセディアとのスローライフが脅かされるから、それを守るために先に倒さなきゃって思ったんだ——」

「ヒロ君——」


 セディアが、僕に抱きついてきた。

 元々僕がセディアを抱きしめていたので、抱き合う形となる。

 さっき、勢いでセディアのこと抱きしめちゃったけど、この状況は…… もう完全に恋人みたいな感じで…… すごいドキドキする。


「私、すごく嬉しい—— 私との生活を、そんなに思ってくれてるなんて……」


 僕は、生死をかけた人生の究極の選択を話しているこの場面で、思った。

 今…… すごくいい雰囲気じゃないか。

 もしかして、これはこのままファーストキスできる、千載一遇のチャンスなんじゃないか?


 抱き合っていた体を、少し離して、セディアの表情を見る。

 セディアは、潤んだ瞳で僕のことを見つめている。


「……ヒロ君」

「……セディア」


 苦節30年…… あ、いや、それは前世の推定年齢だった。

 今世だと苦節15年だけど、全く覚えてないし、そんなに長くない??

 いや、前世と合算して、苦節45年!

 ついに女の子と、しかもこんな綺麗なお姉さんとキスできる日が来るなんて……

 神様、感謝します!



 ——————ドン、ドン


 突然玄関が大きくノックされ、僕とセディアは反射的に離れた。


「ヒロっち、セディア、いる〜〜〜? アタシがきたよ〜〜〜!!」


 マ、マリアさん!?


「は、はーい。今開けまーす」


 セディアは、顔を赤らめ、うつむき加減で席を立った。


 く、くそ……

 チクショウ、あのバカ女、なんてタイミング悪いんだ——


 セディアが玄関を開けると、マリアが笑顔で立っていた。


「セディア、おはよ〜 ヒロっちもおはよ〜 朝からごめんね! お姉様に怒られてさ、謝りにきたってワケ!」

「マリアさん、また悪いことしたの?」

「そうそう…… セディア、タメなんだし、マリアでいいよ! って、アタシがいつも悪いことするって思ってない?」

「うん…… 悪気はないけど、悪いことしちゃう、みたいな人かなって思った」

「よくわかるね〜 皆からよく言われるのよ、アタシ」


 相変わらず騒がしいけど……

 セディアも楽しそうにお話してる。

 マリアさんがいると、周りが明るくなる気がするな。

 バカ女、なんて思っちゃってごめんなさい。


「そうそう、昨日さ、アタシ、そこの果樹園のリンゴとブドウ、黙ってちょっと持ってっちゃってさ〜 ごめんね!」

「……え、ええ!? え、えっと、もちろんいいわよ。美味しかったでしょ?」

「うん、めちゃうまかったよ! アタシがほとんど食べちゃってさ、お姉様、全然食べられなくって、すごい悔しがってたの。29なのにウケるでしょ?」

「……じゃあ、昨日失礼なこと言ったお詫びで、果物持っていこうかしら」

「え、そんなのいいって〜 皆気にしてないし、ガイなんかは『お嬢さんの言うとおりだ』なんて言っちゃってさ。てゆ〜か、『お嬢さん』って呼び方なによ?って感じ。ホントおかしくってさ——」

「あ、あのね、マリア——」


 近所のおばちゃんの如く、話が無限に終わらない方向に派生しだしたので、セディアが慌てて声を上げた。

 セディアは緊張しているようで、一呼吸入れてから話し出す。


「私も、ヒロ君も、昨日一日考えて、さっきまで話してたんだけど…… 昨日、あんなこと言っちゃったけど、今は、ヒロ君をエリナさんのパーティーの一員として迎えてほしいって思ってるの」

「あ、やっぱり? マジ大歓迎よ〜」


 ……え?

 やっぱりって、そうなるって思ってたの?

 僕もセディアも驚いていると、マリアはそのまま話を続けた。


「あの後、アタシらも家に帰って話しててさ。皆、色々しゃべってたけど、最後は結局、ヒロっちは来てくれるだろうってことになったのよ〜」


 セディアが、すこし驚いた様子で質問した。


「あ、あの、どうして皆、そう思ったの?」

「え〜、だってさ〜……」


 マリアは僕の方を見て、ニヤリと笑った。

 え、な、なに?


「アタシが『いっぱいサービスしてあげる』って言ったら、ヒロっちったら急に『少し時間を下さい』て言ってきてさ〜 そりゃもう、男なら来るに決まってるっしょ!」


 笑顔のマリアと対照的に、セディアの顔が強張っていくのがわかる……


「……え? ヒロ君、どういうこと?」


 僕は慌てて訂正を試みる。


「マ、マリアさん、その話——」

「あ、そうそう、それでさ〜、ヒロっち、どっちにするか決めた?」

「え、どっち……?」

「『胸かお尻、どっちにする?』って聞いたら、『考えてみます』って言ってたじゃん」


 セディアは絶句している……

 僕は必死に訂正を試みる……


「ち、違います、あれはそういう意味じゃ——」

「あ、そっか、『セディアには黙っててあげる』って2人で約束してたっけ! ごめんね〜 セディアもさ、深い意味ないから気にしないでね。ヒロっち、ご褒美欲しそうだったから、アタシが一肌脱ごうかなんて…… あ、あれ?」


 マリアは、こうみえても最強パーティーの僧侶として、幾度もの修羅場を経験している。

 今この場に、『憤怒のライ』に匹敵するほどの怒気と殺気が満ち満ちていくのを感じた。


「——あ、じゃあさ、アタシそろそろ帰るわ。ま、まったね〜!!」

「あ、待って——」


 なんのフォローもなく、バカ女は嵐のように去っていった。

 そして、僕とセディアが2人きりになる……


 あれ、僕、つい5分くらい前は、セディアとファーストキスができるって、神様に感謝してなかったっけ……?

 僕、なんか悪いことしたっけ??


 セディアは震える声で優しく僕に声をかける。


「——ヒロ君、2人でゆっくり話そうね」

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