第18話 スローライフvs冒険3

 もうお昼の時間だから、ということで、エリナ達は拠点に戻ることになった。

 玄関先で、エリナは寂しそうに笑って僕に頭を下げる。

 

「今日は、お騒がせしてごめんなさい。セディアさんにも、よろしくお伝えください」

「……はい」


 ガイ、テディ、マリアが、順番に声をかけてくれる。

 

「色々言っちまって悪かったな。まあ、俺達に任せておけ。これ位の修羅場は何度も経験してるしな。ただ、もしヒロが同行してくれるっていうなら、大歓迎だぜ」

「僕達、これから次の旅の計画とか準備とかで、きっと1週間くらいは家にいると思うんだ。よかったら、僕達が旅立つ前に訪ねてきてほしいな。もちろん、同行できなくてもいいからさ」

「ヒロっちの心は決まってるよね! 七魔人のダンジョンに同行するだけで、美少女の私のサービスを受けられるなんて、こんな美味しい話、もう二度と無いよ? セディアには黙っててあげるからさ!」


 ————こうして、エリナ達は去っていった。


 そして、エリナ達を見送った僕は、リビングに戻ってソファにもたれかかった。


 ——疲れた……


 色々あったけど、結局『エリナさん達に任せてセディアとスローライフをする』か、『セディアとのスローライフを捨ててエリナさん達と冒険する』か、の選択をしなきゃいけない。

 あの時、僕は「少し時間を頂けませんか」と言ってしまった。

 何も言わなければ、僕は同行しなくてもいい流れだったのに……

 僕は、エリナさん達に同行したかったってこと?

 確かに、短い時間だけど、一緒にいてとても素敵なパーティーだった。

 そこで、僕にしかできない能力スキルで役に立てて、この国の人々を救うような働きができたら、本当に最高だと思う。

 

 ——でも、そんなにうまくいくとは限らないんだ。

 初めの七魔人のダンジョンで、いきなり死んでしまうことだってあり得る……

 いや、そっちの可能性の方が高いかもしれない。

 せっかく、前世のご褒美みたいな感じで、セディアとのスローライフが始まったばかりなのに……


 ——でも、僕が同行しないせいで、エリナさん達が七魔人を倒せなかったら、そして魔王が復活してしまったら、それこそスローライフどころじゃ無いんだ……

 …………

 ……


「ヒロ君、ごめんね。急に席を外しちゃって……」


 いつの間にか、ソファの前にセディアが立っていた。

 目が赤く腫れていて、大分泣いたんだと思う。

 それでも、こんなことがあったからだろうか、いつも以上に綺麗に見えた。


「大丈夫だよ。それより、セディアこそ、大丈夫……?」

「うん、大丈夫。いっぱい泣いたけど、今はスッキリしたから。エリナさん達に、本当に失礼なこと言っちゃった……」


 セディアが横に座るのを待って、僕はさっきまで考えていたことを話した。


「……僕、あの時、自分が何を考えて、どうしたかったのか、わからないんだ」


 セディアは最後まで黙って聞いてくれた。そして、


「そう言う時はね、こうよ!」


 突然抱きつかれ、そしてこの間と同じように下半身に引き寄せられ、強制的な膝枕に移行した。


「セ、セディア……?」

「ヒロ君、きっとね、色々な思いで頭がいっぱいになっちゃってると思うの。だから、少し頭を休めてあげた方がいいわ。ただ——」


 セディアは、僕の頭を撫でながら、話を続ける。


「ヒロ君が、その時どうして『時間を下さい』って言ったのか、わかる気がする。きっと、自分が選択しないままで、自分の運命が決まるのが嫌だったんだと思うわ」

「…………」

「ここで私とのんびり暮らすのも、エリナさん達と冒険するのも、ヒロ君に与えられた特別なご褒美で、ヒロ君だけが決めていいことだと思う。ヒロ君は、心の中でそれがわかっていたから、その場の流れで決まっちゃうのが嫌だったんじゃ無いかな」


 ……セディアの話に、すごく納得した。

 そして、セディアが僕のことを理解してくれているのが、とても嬉しかった。

 セディアは前世では会いたくても出会えなかった、自分を理解してくれる運命の人だと思う。

 やっぱり、スローライフ確定だな!


 ふとセディアを見ると、セディアは窓の外を見て考え事をしているようだった。

 そして、言葉を続ける。


「——ヒロ君、この話、また明日しても良いかな? 私、感情的になって、エリナさんにあんなこと言っちゃったけど…… 私も冷静になって、ちゃんと考えたほうが良い気がするの」


 え? セディアのあの時の様子から、僕がエリナさん達のパーティーに同行するなんて絶対許さないと思ったのに??


「私にとって、一番大事なのはヒロ君だから…… ヒロ君が幸せになれるのはどっちなのか、間違いのないように、よく考えたい——」


 セディアの目は、いつになく真剣だった。

 そうだ、僕の大事な、人生の究極の選択になるかもしれないんだ。

 僕自身も、一時的な感情じゃなく、冷静に、悔いのないように考えなきゃ……


「そろそろお昼ご飯にしようか? 私、おなか空いちゃった!」



 ——————一方、その頃。


 昼食が済んだ後、エリナはソファに座って、ぼんやりと窓の外を見ていた。


 ヒロさんは考えるって言ってくれたけど……

 セディアさんのあの様子だと、絶対許してくれないわよね。

 私、もう少しうまく伝えられなかったのかしら……

 ——いえ、もう、済んでしまったことはしかたないわ。

 どんな言い方にせよ、ヒロさんに危険な場所に同行してもらうことは変わらないし、そうなったらセディアさんが許すはずもないし……

 皆にはああ言ったけど、私だって『無限の深淵』なんて行きたくないのよね。

 他にいい方法、ないかしら……

 例えば、ヒロさんの家で強化してもらった後に、時空魔法『転移』で七魔人の目の前に転移するとか??

 でも、『転移』なんて伝説級の魔法だし、使い手なんて聞いたことない……

 …………

 ……


「——俺は、『限界突破リミット・バスター』がいいと思うぜ。『魔王断罪剣アーク・バスター』とお揃いになるしな」

「いや、そこ、お揃いにする必要無くない? それよりも、『限界超過リミット・スパーク』の方がいいと思うな。僕の『百銃火炎烈弾ドレッド・ファイア・スパーク』とお揃いになるしね」

「いやいや、それこそ、お揃いにする必要ねーだろ」

「いやいやいや、あるって。戦闘の流れとしてさ、まず——」


 テーブルの方を見ると、ガイとテディがしきりに何かを話している。

 急に『無限の深淵』に行くことになって、皆ショックだったと思うけど……

 思ったより元気ね、よかった。


「はい、お姉様。食後のデザートもってきたよ〜」

「あら、ありがとう」


 マリアが、果物を盛り付けた皿を運んできた。

 早速エリナはブドウを摘んで食べてみる。

 

「あ!? 美味しい! すごく甘いわ!!」

「でしょでしょ〜 リンゴも凄く甘いよ〜」

「本当ー ここの果物、当たりね! どこのお店で買ってきたの?」

「お姉様に風で吹き飛ばされた時に、ヒロっちの家に果樹園あるの見つけてさ〜 帰り際にもらってきちゃった!」


 ゲフ!!

 エリナは、思わず食べていたリンゴを吹き出しそうになって口を抑えた。


「も、も、もらってきた?? え?? もしかして、黙って勝手に持ってきたの?」

「そうそう。ほら、もうさ、ヒロっちはアタシらの仲間だしさ〜 ちょっと位いいかな〜って」


 エリナは混乱した。

 この子、本当に頭悪いのかしら??


「あ、あの、えーと、マリアね…… ヒロさんは、同行すると決まったわけではありませんよ。むしろ、あの状況からすると、同行することはないと思ってます」

「え、そお〜?? アタシ、ヒロっちたち、一緒にきてくれると思いま〜す」


 ど、どうして、どうしてそう思うのよ??


「ガイとテディもそう思ってるから、一生懸命、ヒロっちのステータスをアップする技の名前、考えてるみたいだし。男って子供よね〜」


 え?

 私以外、皆ヒロさんが来てくれると思ってるの?


「ガイ! テディ! ちょっとこちらに来て頂けますか!?」

「ん…… どうした、師匠?」

「はい、喜んで!!!」


 皆、ソファに座ったので、マリアが盗んできた果物を食べながら話をする。


「——私は、セディアさんの意向もあって、ヒロさんの同行は難しいと思ってました。でも、皆は、ヒロさんが来てくれると思ってるんですよね? どうしてそう思ったのか、教えてもらえますか?」


 まず、ガイが答えた。


「あぁ、それか。悪いが、あんまりちゃんとした理由はなくてな。なんとなく、俺達のパーティーにヒロとセディアが加わって、6人で旅しているイメージが浮かんだだけで……」

「なにそれ〜 ただの勘ってこと?」

「まぁ、そんなとこだ」


 ……今まで一緒に旅してきたからわかるけど、ガイの勘は侮れない。

 後で振り返ってみると実は生死がかかっていた—— そんな場面で、よく当たってる気がする……


 続いて、テディが発言する。


「僕は、自分の過去になぞらえて、です。元々商家の後継だったけど、お師匠様に出会って自分にしかできない才能を見つけて…… ヒロも、自分にしかできない、世の中のためになる才能を見つけたら、絶対にそれを使いたいと思うだろうって考えました」


 そう、テディはそう考えているんじゃないかと思ったわ。

 でも、テディと違うのは、ヒロさんにはセディアさんがいること……


 エリナの懸念を察したかのように、テディは話を続ける。


「お師匠様は、セディアさんのこと、気にされてますよね?」

「……ええ、その通りです。セディアさんの気持ち、とても強いものを感じました。彼女を説得するのは、大変困難だと思います……」

「わかってます、わかってますとも!」


 テディは力強く頷いた。

 さすがテディね。

 ちゃんとセディアさんを説得する方法、考えてくれてるんだわ。


「確かにセディアさんは綺麗な女性だし、ヒロもセディアさんもお互いが好きなのはよくわかります。そう、以前までならね——」


 この口ぶり、なんか嫌な予感がしてきたわ……


「ですが、ヒロはお師匠様に出会ってしまいました! しかも、命を助けられるという運命的な出会い!! セディアさんには申し訳ないが、もうヒロは、お師匠様しか見えていない…… セディアさんなんて眼中にないでしょう!」


 テディが私を賛美してくれるのは正直嬉しいけど、明らかにおかしくなっちゃうのよね……


「——セディアさんの綺麗さは、魔物で例えれば、いわばドラゴン。確かに最強です。そう、魔物ならね。対してお師匠様の美しさは、『七魔人』!——いや、『魔王』です!! 一介の魔物である『ドラゴン』と、『七魔人』を束ねる『魔王』のどちらが強いか? お話にならないさ!」


 私を魔王に例えるの、やめてほしいんだけど…… 誰か、止めてくれないかしら。

 ガイは…… 腕組みして目を瞑って頷いているだけだし…… っていうか、寝てる!?

 マリアは…… 全く話を聞かず、両手を使ってものすごい勢いで果物を食べてる!?

 あぁ、私、もっと食べたかったのに、お皿の果物がどんどん減っていくわ……


「——ですから、お師匠様は、何も心配することはありません。今頃ヒロは、セディアさんの片思いの呪縛から逃れる機会を、虎視眈々と狙っているはずです。近い将来、ヒロからお師匠様のそばで旅をさせて欲しいと懇願してくるでしょう!! おそらく、夜の闇に乗じて——」

「ありがとう、テディの考えはよくわかりました。マリアはどうですか?」


 エリナは、我慢の限界がきたのでテディの話をぶった斬って、マリアに振った。


「アタシ〜?」


 全ての果物を食べ尽くしたマリアが、右手を舐めながら答える。

 ああ、果物、無くなっちゃった……


「まず、ヒロっちはさ、私にサービスされたいから、当然こっちにきたいと思ってるわけで〜」


 聞いた私が馬鹿だったかしら……


「で、セディアもさ、頭良さげで、ヒロっちラブだから、ごめんなさいして私達のパーティーに入ろうって思うんじゃないかな」


 …………え?

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