第17話 スローライフvs冒険2

 セディアの放った時空魔法『遅延スロー』は、ヒロを回復していたマリアに直撃した。


「キャー、何? 何が起こったの!? アタシの、体が……遅いんです……けど!?」


 狼狽えるマリアに向かって、セディアが突進する。その右手には、護身用のナイフが握られていた。


「いけない、落ち着いて!」


 エリナは高速でマリアの前に移動して、守りの構えをとる。

 そして、初めにセディアの存在に気付いていたガイが、大剣を構えてセディアの前に立ちはだかった。


「どいて!! ヒロ君から離れて!!!」


 セディアは、躊躇なくナイフをガイの胸元めがけて突き出した。


「なんつー殺気だ……! ——『受流パリィ』!」


 セディアが突き出してきたナイフを、ガイは大剣の背で滑らすように受け流し、更にそのまま下に重心を落とすことで、セディアのバランスを前に崩した。

 セディアは、そのまま前のめりに転倒した。


「きゃあ!?」

「セ、セディア!! 大丈夫!?」


 僕は急いでセディアの元に駆け寄った。

 セディアは驚いて、そして直ぐに僕に抱きついてきた。


「ヒ、ヒロ君!? よかった、無事だったんだ! 私、てっきりヒロ君が強盗に襲われてるのかと思って——」

「アタ……シを治……して……」


 僕達の前にエリナがきて、申し訳なさそうに頭を下げる。


「紛らわしい真似をしてしまって、本当にごめんなさい。セディアさん、ですよね。ヒロさんから話は聞いてます」

「エ、エリナンデスさん!? 私、もしかして大変な勘違いを……」

「『エリナ』と呼んでくださいね。よろしくお願いします」

「は、はや……くアタ……シを……」


 横からテディが話に加わってくる。


「セディアさん、今使ったの、超レアな時空魔法だよね? すごい! 僕、初めて見たよ!」

「え、そ、そんな、大したことは…… でも、国内最高峰の魔法使いって名高いテディ君にそんなこと言われるなんて、嬉しいな」

「治し……て……下さい……」


 ガイも話に加わる。


「お嬢さん、さっきは転ばせて悪かったな。万が一にも刃物で傷つけるわけにはいかないと思ったら、他に方法が思いつかなくてな」

「い、いえ、こちらこそ…… あの、ガイさんですよね。国内最強の戦士相手に、私、ナイフなんかで、とんでもないことを……」

「いやぁ、なかなかのもんだったぜ。俺相手にあれだけの殺気を出せるなんて、大したもんだ。時空魔法といい、お嬢さん、冒険者の素質あるぜ」

「た……す……け……て……」

「……んで、うちの僧侶のマリアにかけた時空魔法、解いてもらえないか? 口うるさいから、このままで丁度いいかもしれねーが……」

「あ、私の魔法、30秒くらいしかもたないから……」


 まるで止まっていた時計が動き出したかのように、マリアは猛然と話し出した。


「ちょっと、口うるさいって何よ!? 大体さ、ガイがちゃんとアタシのこと守らないから直撃したんじゃない! ちゃんとアタシのこと見てなさいよ!! って、アタシ、治ってる!?」

「あ、あの、マリアさん、ごめんなさい。私、勘違いで大変なことを……」

「いいよいいよ〜 ヒロっちは、私の神聖魔法で回復しておいたから安心してね! それよりさ、アタシ的にはヒロっちとセディアが丘の上でしていた愛のプレイが気になってさ〜」

「はい! ……え、あ、あの…… え?」

「後でいいから教えてね!」


 この人、まだ言ってる……

 それに、いつの間にか僕の呼び方、ヒロっちになってる??


 少し場が落ち着いてきたところで、エリナは話し出す。


「ヒロさん、セディアさん、本当にごめんなさい。そして、今までの状況で、分かったことがあります。少し長くなりますが、とても大事な話なので、どうか聞いてもらえますか?」


 僕は、エリナさんが何を話すのか、薄々分かっている……

 セディアも何かを察したようで、緊張した表情になってる。

 ——そして、皆でエリナさんの話を聞くことになった。


 ………………

 …………

 ……


 話の内容は、思った以上に衝撃的で深刻だった。

 町では余裕の勝利とまで噂されていた『怠惰のリート』戦が、全滅寸前の辛勝であったこと。

 その戦いで、切り札である国宝級のアイテム『真紅の秘水』を、4本のうち2本も消費してしまったこと。

 今後討伐していく残りの七魔人もリートと同格と思われるのに、『真紅の秘水』の追加は期待できないこと。


 ここまで聞いて、僕は内心ゾッとしていた。

 それってもう、詰んでる状況じゃないか——


 エリナは、話を続ける。

 そのような状況で、先日『憤怒のライ』の強襲を受けたが、エリナ1人で返り討ちにできたこと。

 地上では人間有利だが、それでも七魔人にソロで勝つなど前代未聞で、ヒロの能力スキルでエリナのステータスが大幅にアップしたことが勝因であることは間違いないとのこと。


「——ヒロさんの能力スキル、とても貴重で、大変強力なものです。私達は今、七魔人の残り5体を討伐するのに『真紅の秘水』が2つしかないという非常に苦しい状況でした…… その中で、ヒロさんと出会えたことは、本当に神様の導きと感じます」


 エリナはここまで話すと、一旦言葉を切って、僕を真っ直ぐに見つめた上で、言葉を続けた。


「ヒロさん、お願いします。どうか私達のパーティーに同行頂けないでしょうか。色々と不安もあると思いますが、私達はヒロさんの安全を最優先に行動すること、約束します——」

「ちょっと待って下さい!!」


 僕が答えるよりも早く、セディアが立ち上がって即座に声を上げた。


「その…… 仰りたいこと、よくわかります。でも…… でも、ヒロ君は、冒険者じゃない、普通の男の子です。いえ、普通の男の子よりも、体が弱いんです。それに、能力スキルがあると言っても、他の人を強くするもので、自分が強くなるわけじゃない…… しかも、同行する場所は七魔人のダンジョンなんて…… いくらエリナさん達が守ってくれるって言っても、危険すぎます!」


 セディアの組んでいる手が震えている……

 色々と言いたいことや感情を抑えているんだと思う。


 エリナは、伏目がちに答えた。


「セディアさんの言う通りだと思います…… 無理なお願いをしていること、重々承知してます。ですが、国王様直々の依頼である七魔人の討伐の重大さ、どうかご理解頂けないでしょうか…… もし七魔人の討伐に失敗すれば、魔王復活の可能性が高まります。もし魔王が復活したら、どれだけの犠牲が——」

「そんな言い方、卑怯よ!!!」


 エリナが話している途中に、セディアが大声で割って入った。

 いつもの穏やかなセディアからは想像できない強い口調に、僕は驚いた。


「もしヒロ君が行かなくて、あなた達が七魔人を倒せずに魔王が復活して犠牲がでたら、ヒロ君のせいだって言いたいの!? 討伐依頼を受けた冒険者が、自分達の力で倒せないからって一般人にそんなこと言うの、おかしいでしょ!! 大体——」

「セ、セディア!? いくらなんでも、そんな言い方って……」


 僕の言葉に、セディアは言葉を飲み込んで固まった。

 エリナも、何も言えずにうつむいている……

 セディアは、自分が何を言ったのか、理解したようだった。


「わ、私、命の恩人のエリナさんに向かってなんて事を…… 私、ヒロ君が危険な目に遭うと思って、おかしくなって…… ご、ごめんなさい!」


 セディアは、エリナ達に一礼すると、後ろを向いて足早に奥の部屋に向かっていった。

 ……セディア、泣いてる??

 僕もつられて立ちあがったところ、マリアに手を掴まれ、小声で囁かれた。


「ヒロっち、まって。セディア、今の姿を見られたくなくて奥に行ったんだから、今はいかない方がいいよ」


 あ、そ、そっか……

 僕は一旦、座ることにした。

 マリアが、僕をみてウィンクをする。

 マリアさん、見た目が可愛いだけかと思ってたけど、案外気の利くところがあるんだな……

 ただの頭の悪いギャルなんて理解して、すいませんでした。


 少しの間、気まずい沈黙があった後、エリナが僕を見てお詫びをしてくる。


「ヒロさん、本当にごめんなさい。私の言葉が足らないばかりに、ヒロさんとセディアさんにとても不快な思いをさせてしまいましたね……」

「いえ、そんなこと——」


 僕が答えている途中で、テディが猛然と横から被せてきた。


「お師匠様は全然悪くありません!! 今回、事情が事情だし、セディアさんもきっとわかってくれます!! ヒロだって、もちろん全然気にしてないよね!?」

「う、うん、全然気にしてない——」

「ありがとう! 僕達、もう友達だね!!」


 僕がテディの勢いに押されている横で、ガイが頭の後ろに両手を組んで、天を仰いで独り言のように発言した。


「まあ、確かにお嬢さんの言う通りだよな…… 痛いところをつかれたっつーか…… 俺らは、自分たちの意思で命張って金もらってる冒険者で、しかも国内最強パーティーときた。それが、敵が強くて勝てないから一般人に助けを求めて連れて行こうってのは、ちと体裁悪いよな」

「体裁なんて気にしてる場合じゃないっしょ! アタシらが勝てないなら、絶対、残りの七魔人がイキリだして魔王復活しちゃうって〜…… もうこうなったらさ、皆で外国に逃げちゃわない? ヒロっち達も一緒にどうよ?」


 ど、どうよ?って言われても…… ダメでしょ、それは。

 皆なんて言うのかなと思ったら、当然のようにスルーした。


「——お師匠様、他に七魔人を倒す方法を考えませんか? 僕、友達になったヒロを危険な目に合わせたく無くて……」

「そうだよなぁ…… まあ、ヒロも気にするなよ。さっき、お嬢さんの言った通りだ。冒険者でもないのに、七魔人のダンジョンなんて潜るもんじゃねーしな。正直、俺らでも確実に守れるなんて断言できない、そういう危険な場所だ」

「アタシとしては、ヒロっちたちが一緒に来てくれたら楽しそうだったんだけど…… そしたらヒロっち、絶対に可愛い私に惚れちゃうと思うわけで〜 そしたらセディアに悪いな〜、なんて——」


 3人から言われて、エリナが話しにくそうに口を開いた。


「……ヒロさんの能力スキルに気づく前、今後の対応として2つ考えていたことがありました。1つは非現実的なので、もう1つの案を実行するつもりでしたが……」

「さすがお師匠様です!! それでいきましょう!!!」

「そうですね…… それでは、これから半年間、『無限の深淵』で修行します!!」

「「「げえ!!!!????」」」


 国内最強パーティーの精鋭3人が同時に言葉にできないような叫び声をあげた。

 『無限の深淵』??


「いやいやいやいや、師匠、ちょっと待ってくれ。いくらなんでも、あそこは無いだろ?? どう考えたって、効率悪すぎるぜ」

「そ、そうですよ、お師匠様。いくら僕らの強さが限界に近くて普通の魔物を倒しても強くなれないからって、あそこで頑張ってもほとんど変わらないですし……」

「ア、アタシ、あそこ嫌だよ〜 暗いし、怖いし、寒いし、苦しいし、強いし、ヤバいし、1日居るだけで地獄だよ!? それを半年って——」


 3人それぞれが異口同音に反対意見を表明したが、エリナは全く意にかえさなかった。


「あのダンジョンは特殊で、どれほど自分のレベルが高くても、深く潜れば一定の力が得られます。私達が強くなるのにどれだけ潜ればいいのかよくわかりませんが…… それでも、半年も修行すれば、多少は強くなるかもしれないはずです!」


 なんか、変なことを言ってる気がするのは僕だけだろうか……


 3人は、少々混乱しているエリナさんの説得を難しいと考えたんだと思う。

 次々と僕に話しかけてきた。


「ヒロ、ここは男の見せ所じゃねーか? 七魔人の討伐に一役買うなんて、男としてこれ以上の晴れ舞台はないぜ? なーに、心配するな。何があっても俺達がきっちり守ってやるさ!」

「ヒロさ、僕達、友達だよね? 友達ならさ、もちろん困っている僕のこと、助けてくれるよね!?」

「ヒロっち、一緒に行くよ! お姉さん、いっぱいサービスしてあげるからさ〜 なんなら、今ちょっと触っておく?? 胸かお尻、どっちにする?」


 3人の豹変ぶりに、エリナの叱責の声が飛ぶ。


「皆、いい加減にしなさい!! ヒロさん、困ってるでしょう。 ——そろそろお昼の時間です。家に帰りますよ!!」

「あ、あの——」


 自然と僕の口から言葉が出てしまった。


「少し、時間を頂けませんか…… 僕、どうするか、考えてみます——」

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