第16話 スローライフvs冒険1

 昨日は、昼間からずっと寝てたので、夜は寝れないんじゃないかと思ってたけど、そんなこともなく夜もぐっすり眠れた。

 色々あったし、疲れてたのかも……

 朝、目が覚めて横を見ると、セディアはもう起きているみたいで、いなかった。

 カーテンの隙間から、かなり強い光が差し込んでいるのがわかる。

 もしかして、結構寝坊しちゃったのかな。


 部屋を出てリビングに行くと、セディアの姿はなく、テーブルに僕の分の朝食が用意されていた。

 セディア、気を使って起こさないで出掛けたんだ。

 1人で朝食をとった後、洗い物をする。

 セディアは、自分の朝食の洗い物は、自分で済ませていた。

 それくらい、僕に任せてくれてもいいのにな。


 外出禁止の約束だし、本でも読もう。

 僕は、一冊の本を手に取ってソファに座る。

 僕が意外と本を読むのが好きだとわかって、セディアが時々新しい本を買ってくれるようになった。

 前世に比べたら、本当に今は天国みたいだ。

 これ以上ないくらい、幸せだと思う。

 幸せだと思うんだ————


 コン、コン、コン、コン——


 突然、玄関のドアがノックされた。

 え? お客さん??

 そういえば、今まで一度も人が来たことなかったけど、勝手に開けちゃっていいのかな??

 ——と、逡巡していると、外から声が聞こえた。


「おはようございます、誰か居ますか?」


 え、この声は、もしかして…… エリナンデスさん!?

 ソファから立って、急いで玄関を開けると、そこに居たのは美人のエリナンデスさん—— ではなく、ほとんど金色に近い茶色のショートヘアーで、やや褐色の肌の可愛らしい顔立ちの女性だった。


「あ、あれ??」


 戸惑っている僕にお構いなく、彼女は目を輝かせて一方的に話だした。


「おはよ〜 元気してた? 君が噂の色男ね。七魔人相手に、丘の上から愛のプレイを見せつけるなんて、やるじゃない!」

「…………え?」

「隠さなくてもダイジョ〜ブ! アタシ、こう見えて口は硬いんだから〜 で、具体的に、どんなプレイしてたの?」


 …………プレイ??


 状況が理解できずに固まっていたところに、一瞬、風を感じて、彼女が視界から消え去り、いつの間にかシルフィードを従えたエリナが立っていた。


「——いきなり変なお話しちゃってごめんなさい。ここに住んでいらしたのね」

「エリナンデスさん!? え、えっと、昨日は本当にありがとうございました!! あ、あれ? 今、目の前にいた女性は……??」

「……仲間が回収に向かってますので、ご心配なく。それより、今日は、あなたとお話しがしたいと思ってこちらに伺いました」

「え、僕に??」

「はい…… 確認したいことがあって、少し話が長くなるかもしれませんが、よろしいでしょうか?」


 なんだろう、なんか嫌な予感がするけど……

 でも、エリナンデスさんは命の恩人だし、もちろん断れない。

 セディアと外出禁止の約束したけど、僕が外出するわけじゃないし、大丈夫だよね?

 それにしても…… セディアもすごい綺麗だけど、エリナンデスさんはまた別で、大人の女性の美しさ全開だな……


「あ、あの…… ごめんなさい、忙しかったかしら?」


 あぶない、思わず見惚れてボーッとしてしまった。


「あ、ごめんなさい! お話ですよね! どうぞ中へ……」



 ——————エリナンデスさんの仲間も合流し、皆で家の中に移動した後。


「急に朝から押しかけちゃってごめんなさい。改めて、自己紹介しますね。私の名前は『エリナンデス・ホワイト』、精霊士であり、このパーティーのリーダーを務めてます。『エリナ』と呼んで下さいね」


 エリナは深々と頭を下げる。

 エリナさんのことはもちろん知ってます!

 そして、パーティーの人達も順々に挨拶する。


「さすがに師匠の名前を知らない奴は、この国にはいないと思うぜ。それじゃ、俺も自己紹介だ。俺の名前は『ガイ・グランド』、戦士をやってる。年は19だ。よろしくな」


 ガイは軽く手を上げて僕に笑いかけてくれた。

 セディアから聞いていて名前は知ってたけど……

 遠くで見ていた時よりも、随分と柔らかい雰囲気を感じる。

 国内最強の戦士って話だし、なんか、意外だな。


「じゃあ、僕の番だね。僕は『テディ・トルエース』、魔法使いだよ。年は15で、君と同じくらいかな? よろしくね」


 テディはぺこりと頭を下げた。

 僕と同じ年で、国内最強のパーティーの魔法使いなんて、すごい……!

 って、『トルエース』って名前…… あれ、なんか本に載ってたような??


 僕の表情を見て、直ぐにテディも察した。


「あ、もしかして気付いた? そうそう、『トルエース』って——」

「はいは〜い! 次、アタシの番ね〜」

「えぇ、ちょっと!? 僕、まだ話してるんだけど??」

「アンタの話なんてつまんないでしょ。彼はね、美少女のアタシに興味津々なワケ」


 この女性はマリアさんだ。

 遠くで見ていた時は、パーティーを支える敬虔な僧侶って思ってたんだけど。

 今までの言動と、見た目のせいか、もはや頭の悪いギャルにしか見えない……

 でも、仮にも国内最強のパーティーの僧侶だし、そんなはずないか。


「アタシは『マリアージュ・ロールファイン』、呼ぶ時は『マリア』でいいよ! 元は教会所属の聖職者で、今はこのパーティーの僧侶ね。年は18、いるだけで皆を癒す万能美少女よ! 得意なことは、見ての通りの可愛いこと。それとね——」

「マリア、それくらいでいいですよ。急に色々と話されたら、彼も覚えきれませんわ」

「……は〜い」


 まだ話し足りなかったのだろうか、ちょっと不満そうなマリアだったが……


「じゃあ、最後に…… さっきお姉様、自己紹介したでしょ?」

「え、は、はい」


 お姉様って、エリナさんのことだよね。

 何を言うつもりなんだろう?


「お姉様、言い忘れてたみたいだから、代わりに教えてあげる。年は29よ!」

「「「「!!??」」」」


 一瞬、この部屋の空気が凍ったようだった。

 そして強い風を感じて、マリアが視界から消え去る。


「……ガイ、ごめんなさい。大分遠くに飛ばしたので、よろしくお願いします……」

「あいつ、懲りねーな……」

「しょうがないよ、頭は生まれ持ったものだし……」


 僕は理解した。

 彼女は、頭の悪いギャルだと。



 ——————ガイがマリアを回収して戻ってきた後。


 僕は皆に簡単な自己紹介をした。

 ただ、ちょっと話がややっこしくなりそうなので、記憶喪失や前世の記憶のことは一旦黙っておいた。

 そして、従姉弟いとこで同居しているセディアは留守だと伝える。


「へー、ヒロの家も商家だったんだ」


 ヒロの家も? ということは、そうか……


「そうそう、僕の家も商家でね。そこそこ大きいんだよ」


 本で読んだことあるって思った。

 トルエース家って、そこそこどころか、世界三大商家の一つじゃなかったっけ!?

 そんなすごい家の出身なのに、なんで冒険者になったんだろう?


「それにしても、エルメイド家か。僕、実家にいる頃、色々と商家のこと勉強させられてさ。確かに、一般的な商家で、子供が2人いるみたいな情報だったね」

「うん、セディアも、あまり有名じゃない町の小さな商家って言ってたよ」

「ちょっと、テディ、そこでマウントとっちゃう? 俺の実家の方がすごいぞ、みたいな? アタシ、そういうの、カッコ悪いと思いま〜す」

「え、いや、僕は別にそんなつもりは——」


 そういえば、僕、記憶が戻ってから、セディア以外の人と話したことなかったな。

 人と話すのって、こんな楽しかったっけ——


「ごめんなさい、そろそろ本題に入っていいかしら」


 エリナが横から声を上げた。

 そうそう、元々僕に用事があるって話だった。


「ヒロさん、昨日家に戻られた後、体調はいかがでした?」


 あれ、僕の心配をしてくれてるのかな?

 僕は家に戻ってからの顛末を話した。


「魔力切れのような症状ですね……」


 皆が緊張している空気が伝わってくる。

 僕、なんか変なこと言ったかな……?


 テディがちょっと考えた後、発言する。


「ヒロさ、ちょっと僕と握手してくれない? お師匠様はステータスの確認を——」


 え、ステータスの確認?

 エリナさんってそんなこともできるの?

 それって、主人公クラスが持ってる『鑑定』とかの能力スキルじゃない??


 僕が少し混乱している中で、テディが右手を差し出してきた。

 その手を見た時、不意に予感がした。

 ——ここで握手をしたら、後戻りできない。

 それなのに…… なんでだろう、僕は差し出された手を躊躇なく握った。

 そして——


「——すごい、魔力がみなぎってくるのがわかるよ。まるで『真紅の秘水』を飲んだ時みたいだ……! お師匠様!!」

「ええ、テディのステータスが大幅にアップしているのがわかります……!」

「当たりか!」

「え、マ、マジで!? ホントに!? なにそれ!? 触っただけで『真紅の秘水』と同じ効果って、ありえなくない!?」


 あ、そういうこと?

 僕自身は普通以下の身体能力だけど、他の人を強くできるんだ——

 って、あ、頭が、クラクラしてきた……


「——いけない! テディ、手を離して!!」

「え、これ、本人の意思とは関係無しに、無制限に魔力を使ってる!?」

「神聖魔法で回復するから、アタシに任せて!」



 場が混乱する中、ガイは玄関の方から尋常でない殺気を感じて、振り返る。

 それは、青い髪の女性が、こちらに向かって魔法を放つのと同時だった。


「ヒロ君から離れて!! 時空魔法『遅延スロー』!!」

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