第15話 憤怒5

「でも姫様が話のわかる人で良かったよね〜 国王様不在で姫様が代わりに、って言われた時、アタシの色仕掛けが効かないじゃん!って焦っちゃってさ〜」

「いや、それ、やめてって僕言ったよね!?」


 姫様…… そういえば、あの姫様、初めて謁見したのに、どこかで声を聞いたことがある気がしたのよね。


 エリナも姫様のことを考えだした時、ガイがぽつりと呟いた。


「師匠が一時的に強くなったのは、いつからなんだろうな……」

「え、そんなの、戦闘直前じゃない? お姉様は世界唯一の精霊士だし、きっと神様が力を貸してくれたんでしょ! それよりさ、アタシと姫様のどっちが可愛いとか、気にならない? あの声から想像するとね、アタシの方が——」

「なんつーか、すごく大事なことな気がしてな……」


 いつから……?

 ガイの言葉に、テディもふと考え出す。


「お師匠様、忘れ物をとりに戻った時、シルフィードを召喚しましたよね? あの時は、強くなった感じ、ありましたか?」


 エリナは直ぐに首を横に振った。


「いいえ、あの時は普通でした。全速力で戻っていたので、もし強くなっていたらもっと速度がでて、その場で違和感を覚えたはずです」

「となると…… その後は?」

「その後は、町の住民と思われる若い男女が『憤怒のライ』に襲われているのを助けて、そして戦闘開始となりました」

「そうですよね。そこまでは夕食の時も聞いたけど…… 若い男女を助けたって、具体的にはどういう状況でした?」


 テディに質問されて、エリナはゆっくりと思い出しながら話し出す。


「私が駆けつけた時、丘が半壊していて、丘の上に女性が取り残され、そして丘が崩れてできた土砂に男性—— いえ、男子と言った方が正しいですね。男子が埋まってました。その男子に向けてライが両手を振り下ろしたところで、私が高速移動で間に入って男子を土砂から引き上げ、そのまま跳躍して丘の上の女性に引き渡しました。2人とも、普通の町の住民のように見えましたよ」

「男子を引き上げた……」


 テディは考える。

 男子を引き上げた、ということは、体に触れたということだ。

 触れただけで対象に影響を与える能力スキルは存在する。

 過去の高位の聖職者の中には、神聖魔法ではなく、触れただけで傷を癒す能力スキルを持つ者がいたと聞いたことがある。

 今まで聞いたことないけど…… 同じ理屈で、触れただけで、神聖魔法の祝福のように、ステータスをアップするような能力スキルがあったりはしないだろうか……


「いちゃついてるカップルを襲ったってわけね。七魔人ってホントにサイアク〜」

「いちゃついてたかどうかわかりません…… それに、カップルというより、姉弟という感じでしたね」


 ふと、テディは疑問を口に出した。


「——あれ? ライは、どうしてその男女を襲ったんだろう?」

「そりゃあ、丘の上でいちゃついてるのを見て腹が立ったからでしょ? アタシだって、そんなの見せつけられたら腹立ってぶん殴りたくなるわよ」

「え、さっきカップルを襲うなんてサイアクって言ってたのに、自分も襲うの……? しかも、そんな理由で丘をぶっ壊すまでしないでしょ……」

「魔人だしな。人間を襲うのに、そんな深い理由はないんじゃないか?」


 テディはちょっと考えた後、発言する。


「ガイの意見ももっともなんだけど…… ライのダンジョンからこの辺りまで、結構距離あるよね。でも、ここに来るまで、人が襲われたみたいな話は聞いてない。きっと、お師匠様を狙ってたから、騒ぎを起こさないよう自重してたんだと思う」

「——ここまで弟分の仇を討つために自重してきたのに、何で最後の最後に騒ぎを起こした、か…… あるいは、わざと騒ぎを起こして、師匠を誘き出したって線もあるのか……?」

「そんなのさ〜、丘の上のカップルが、愛のプレイをやり出したんだって。ライだって、ここまで来てそんなもん見せつけられたら、憤怒激昂するっしょ〜」

「ライが男女を襲った理由も気になるんだけど、他にもさ——」


 テディは、マリアを完全に無視して、触れただけでステータスがアップする能力スキルの可能性について発言した。


「なるほど、確かに、気になるな…… 師匠、どう思う?」


 確かに、強くなるとしたら、そのタイミングしかありえない……

 それに、思い返してみると、あの男の子からも微かに光を感じた気がする。


「——私も、テディの推測、あり得ると思います。彼らにもう一度会ってみましょう」

「え、でもお姉様、カップルの家わからなくない?」

「いえ、ちょっと当てがあります」


 あの時、彼らは西の方に避難した。

 きっと、彼らの家は西の方にあるのだろう。

 そして、荷物も持っておらず、軽装だった。

 ちょっと近くを散歩しているような…… もしかして、ここから近いんじゃないかしら。


「皆、今日はそろそろ休みましょうか。そして明日、彼らが避難していった西の方を探しましょう。きっと出会える気がします」



 ——————その頃。


「ヒロ君、まだあまり歩かない方がいいよ」


 リビングをふらふら歩いている僕に、セディアが心配そうに声をかけた。


「心配かけてごめん。でも、もう大丈夫みたいだから……」

「ううん、まだ危ないよ。こっちにきて、ソファに座って」


 エリナンデスさんに助けられて『憤怒のライ』から逃れた後、セディアと一緒に全速力で家まで逃げきて、中で少し休んでいたら…… しばらくして、僕は失神してしまった。

 セディアに迷惑かけてばかりで、カッコ悪いね。


 確かに、まだふらついてるし、危ないかな……

 セディアの言う通り、大人しくソファに座ることにした。

 すぐにセディアも隣に座る。


「本当に心配したんだから…… ヒロ君、しばらく外出禁止!」


 外出禁止!? 厳しい…… けど、セディアに心配かけちゃったしな。

 それにしても——


「変だなぁ…… 走ったくらいで、何で倒れちゃったんだろう。いくら体が弱いからって、そこまで弱くはないと思うんだけど」

「もしかして『憤怒のライ』が何かしたのかも…… ヒロ君、魔力を使い切った時みたいだった」

「魔力を使い切る?」


 僕、魔法使えないのに??


「うん。えっとね、魔法使えなくても、魔力は皆もってるんだよ。能力スキルで魔力を消費することもあるの。それで、魔力を使いすぎてなくなると、失神しちゃうの。魔法使う人は、自分の魔力がどれくらい残っているか感覚でわかるけど、慣れないうちは使い過ぎて魔力切れちゃうことがあるわ」


 なるほど…… 前世のゲーム感覚で、魔法使えない職業クラスは魔力ゼロってイメージだったけど、そういうわけじゃないんだ。


「私達がお家に戻った後、まるで世界が白黒になったような時あったでしょう? あの時、私も力を奪われたような感覚があったんだ」


 何せ七魔人だし、どんな技をつかっても不思議じゃない。どこかのタイミングで魔力を奪われたかもしれないってことか。


「もし魔力切れなら、自然と回復するから。今は歩けるようになったみたいだけど、まだ休んでた方がいいから——」


 横に座っていたセディアが突然両手を僕の肩にまわしてきて——

 う、うわ?

 セディアの下半身に、僕の上半身が引き寄せられた。

 ——いわゆる膝枕で、僕は横になっていた。


「この方が楽でしょ?」

「う、うん……」


 もう一生外出禁止でもいっか。

 ああ、でも、一つだけ心残りが……


「セディア、外出禁止の話なんだけど…… そうなる前に、一つだけ行きたいところがあるんだ」

「え、どこ?」

「エリナンデスさんに会って、お礼を言いたいんだ。僕と、セディアの命を助けてもらったし……」


 あの時、僕とセディアは外の様子をうかがっていたが、大変な状況だった。

 エリナと『憤怒のライ』が戦っている方からは、爆発・火柱・水流・地鳴りといった異常現象が絶え間なくつづき、町の方からは北に向かって逃げ惑う人々の悲鳴と怒号が聞こえた。

 その後、僕は失神してしまったけど…… しばらくして異常現象がなくなり、その後、町中から歓声が聞こえ出したので、エリナが『憤怒のライ』を倒したことが判ったとのことだった。


 僕達が生きているのはエリナンデスさんのおかげ、セディアもそう思ってるはずだから、許してくれると思ってたけど——


「ヒロ君、えらい。あんなに怖い目にあったのに、ちゃんとお礼を言いに行こうなんて、本当にえらいよ。でも—— ごめんね、やっぱりまだ外に出ちゃダメ」


 え、どうして……?

 セディアの膝枕で横を向いていたので、上を見てセディアの顔を見ようとしたところに、セディアの上半身が覆い被さってきた。

 む、胸が…… セディアの胸が、いつかの時みたいに僕の顔にあたり、理性を失いそうになる。


「本当にごめんね…… あんなことがあったから、もしまた何かヒロ君にあったらって思うと、心配でたまらないの。体調だってまだ良くなったわけじゃないし。私のわがままで、ごめんね……」


 セディアが震えているのが胸から僕に伝わる。

 確かに体調もよくないし、何よりこんな綺麗なお姉さんにここまでされたら、我慢するしかないよな、うん。


「僕の方こそ、心配かけてごめんね。お礼を言うのは別に急がなくてもいい気がしてきたし、また今度にするよ」

「——ありがとう」


 セディアが上半身を起こしたので、僕も起き上がることにした。

 そして、セディアの安心した表情を見て、僕も安心した。

 ちょっと心残りだけど……


 その気持ちを察してくれたのか、セディアは提案してくれる。


「ねぇ、ヒロ君。私、明日の朝、町に買い物に行く予定だけど、その時にエリナンデスさんのお家に寄ってくる。それで、私達が無事に帰れたお礼と、ヒロ君がまだちょっと体調悪くて、直接会ってお礼できなくて残念がってましたってこと、伝えようか?」


 あ、そうしてくれるなら、それでいいかな。

 美人のエリナンデスさんにもう一度会いたいって気持ちもあったけど、セディアがいるのに、さすがに欲が過ぎるってもんだよね。


「ありがとう。そうしてくれると、嬉しいな。お願いしていいかな?」

「うん、任せて!」

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