第10話 怠惰5
す、すごい……
『真紅の秘水』の力を借りたとはいえ、テディがこれ程の魔法を使えるなんて……
今度こそ、本当に、助かったんだ……
そこまで考えたエリナは、そのままゆっくりと地面に倒れ込んだ。
「!? お師匠様!」
すぐにテディはエリナの元に向かう。そして……
よかった、失神しているだけだ。
無理もない、こんなボロボロになるまで追い詰められて戦ってたんだ……
チクショウ、あのクソガキ魔人め。消滅させたのに、また怒りが込み上げてきたぞ……
——心なしか、地面が揺れているようだ。
僕の怒りに呼応して地面が揺れてる?
もしかして、僕の力が覚醒して、苦手だった土魔法が使えるようになった??
ふと周りを見ると、壁や天井も揺れており、そして天井から石や砂がボロボロと落ちてきてる。
テディは、思わず独り言を呟いた。
「馬鹿なこと考えてる場合じゃないぞ…… これ、洞窟が崩落する!」
ここで行われた戦闘の凄まじさを考えれば、この辺り一体の地盤が損傷して洞窟が崩落するのも当然だ。
「お師匠様、失礼します!!」
テディはエリナを抱きかかえると、全速力で部屋の入り口の扉に向かって走り出す。
よし、まだ『真紅の秘水』のステータスアップの効果が残ってるぞ。
お師匠様も軽々と抱いて走れる!
あ、でも、それだと、普段のお師匠様が重いって言ってることになるんじゃ……
ち、ちがうぞ! お師匠様は普段から、重くないぞ!
いつも軽いけど、『真紅の秘水』のおかげで、今日はより一層軽くて美しいだけだ!!
元々頭の回転が早い上に、『真紅の秘水』のステータスアップで知力が倍加し、更に敬愛するエリナを抱き抱えるという幸運な状況で、テディの思考は制御困難になっていた。
だが幸いにも、制御困難な思考とは別に体はしっかりと動いてくれる。
テディは、走っている勢いそのままで、入り口の扉を蹴飛ばして開けた。
「ガイ! マリア! 急いでこのダンジョンから脱出するよ!!」
入り口前の広間では、マリアは神聖魔法でガイの大怪我を治療しており、ガイは寝ているようだった。
「ちょっと、やっとガイが寝たんだから、大声出さないでよ。大怪我してて結構ヤバめなんだから」
「洞窟が崩落しそうなんだ! 急いで脱出しなきゃ!!」
「ほーらくって何よ? そんな言葉、アタシしりませ〜ん。それよりさ、もしかして『怠惰のリート』倒したの? そしたらマジ尊敬なんですけど〜」
「…………頭悪いの!!?? 洞窟が壊れて生き埋めになりそうなの!! 早く逃げるよ!!!」
事の重大さがマリアにも伝わった。
「何それ!? 聞いてないんですけど!!??」
「え、だって、今いったから……」
「ガイ! 何のん気に寝てんのよ! 生き埋めでほーらくするんだって!! 早く起きなさいよ、アンタ!!!」
マリアは、ものすごい勢いでガイにビンタを見舞う。
それも、一度や二度では済まさず、みるみるうちにガイの顔が腫れていく。
「え、ちょっと? 大怪我してるのに、もっと怪我させる気!?」
「ヒヨコじゃないんだし、これ位で死にはしないわよ! 早く起きなさいって!!」
明らかにマリアは混乱していた。
そして、国内最強の戦士ガイは悲鳴をあげた。
「いや、もう起きてる、もう起きてるから叩くのを止めてくれ——」
皆のいる入り口前の広間でも地面が揺れだし、壁にヒビが入り、天井から石が降ってくる。
「ガイ、大丈夫!? 走れる!?」
「おう、正直大分キツいが、生き埋めになるわけにはいかねーしな。テディも、そのまま師匠を連れていけるか?」
「うん。なんかもう、僕、魔法使いなのに、今日どれだけ走ってるんだろう……」
「……色々言いたいことあるだろうが、今は全速力で脱出するぞ!!!」
ダンジョンの崩落が始まる中、全員必死で外へと脱出するのであった——
——————そして、それから数時間後の夜。
『怠惰のリート』のダンジョンから5キロほど離れた川の近くで、エリナ達はキャンプをしていた。
「皆、本当にごめんなさい。あんな危険な目に遭わせてしまって……」
エリナは3人に向かって深々と頭を下げたが、即座にテディが反応した。
「お師匠様は悪くありません! 『怠惰のリート』の強さが桁外れで規格外過ぎたんです……」
続けてガイも発言する。
「そうだな。今まで倒してきた魔物とは格が違うと思ってはいたが、そういう次元じゃなかった。そもそも魔物と比べる相手じゃなかったな…… 生きて帰れたのは、正直運が良かったぜ」
本当に、そう思う。
元々使うつもりはなかったけど、決戦前のガイの言葉で『真紅の秘水』をすぐ飲める所に仕舞っておいて、本当に良かった。
そうしておかなければ、全滅していた……
「それに、テディには取り乱したところを見せてしまって、不安にさせたでしょう。ごめんなさい」
そう、テディには無様な姿を見せてしまった。
戦略的な撤退ではなく、敵に恐怖して恥も外見もなく逃げようとする姿……
リーダーのあんな姿を見て、これから先はついていけない、そんな風に思われたりはしないかしら……
エリナの心配をよそに、テディはにこやかに答えた。
「いえ、全然大丈夫です! むしろ、普段のお師匠様から想像できない可愛らしい一面が見られて、ラッキーだったというか……」
「ちょっと、馬鹿! 何言ってるのよ、馬鹿!!」
「「「えっ?」」」
言ったそばから取り乱したエリナの反応を見て、3人一様に驚く。
い、いけない——
エリナはすぐさま取り繕った。
「ご、ごめんなさい…… 私、リートの攻撃で自分を節制する力…… ステータスが下がってるみたいで…… ちょっと回復するまで変なことを言ってしまうかもしれませんが、許してくださいね」
「あ、そういうことだったんですね。なんかお師匠様、様子がおかしいと思ったんです。そんなダメージを受けてるとは知らず、失礼しました!」
「お姉様、大丈夫? アタシ、神聖魔法かけるよ」
「ありがとう、マリア。自然回復しているみたいだし、大丈夫ですよ。無事、町に帰るまでは、魔力はできるだけ温存しておきましょう」
皆、一様に頷いてくれた。
よかった、ごまかせた……
そのまま、エリナは話を続ける。
「それにしても、テディは素晴らしい活躍でしたね。『真紅の秘水』を使用したとはいえ、伝説級の魔法『
「いやぁ、そんな、全然大したことないです! お師匠様のご指導の賜物です!!」
「そこは謙遜しなくていいんじゃねえか? 伝説級の魔法を大したことないって言われたら、世の中の魔法使いの立場が無いぞ」
皆と話していると落ち着くわ……
さっき、慌てて取り繕ったけど、本当に心が回復しているみたい。
「ホントにテディ、良くやったよね〜 今回の討伐賞金、いつも通り均等に分配するつもりだったけど、今回は特別にちょっと色つけてあげてもいいかも〜」
マリアの言葉に、ガイは衝撃を受ける。
「え、マリア、お前、自分も賞金もらうつもりだったのか? 開始早々、リートの攻撃で白目剥いて最後まで気絶してただけなのに??」
「白目なんて剥いてないわよ!! それに、ちゃんと神聖魔法の祝福かけてたじゃない。ガイこそ、リートの腹パン一発で画面外まで吹き飛んで気絶してただけのくせに、偉そうなこといわないでよ!」
「お、おま、今なんて…………」
ガイは絶句し、テディは可笑しそうに笑いを堪えてる。
マリアは良い子だけど、本当にお金の執着がすごいのよね……
………………
…………
……
「——それで皆、これからどうするか?」
一悶着あったが、一旦場が落ち着いてから、ガイが真面目な口調で話し出した。
まずテディが応じる。
「どうするかって、順当に行けば、次の七魔人の討伐に向かう、だろうけど——」
「えええ〜!? アタシ、嫌だよ!! 残りの七魔人だって、リートと同じような強さなんでしょ?? 絶対勝てないでしょ。今回勝てたの、どう考えてもマグレじゃん。絶対無理だって!!」
マリアは凄まじい勢いで泣き言を喚いた。
そして、最後にはとんでも無いことを言い出した。
「——リートと戦う前に話したけどさ、外国に逃げちゃうってのはどう……? 『真紅の秘水』を売って、そのお金で皆で楽しく暮らそうよ!」
普段ならそれをたしなめるエリナも、この時ばかりは声に詰まった。
怖い…… 本当に、怖かった。
思い出すと、今でも震えがでるくらい。
これからリートと同格の残りの七魔人を討伐するなんて、本当に逃げてしまいたい。
——でも、私には使命がある。
この国の最強パーティーとして、国中の人々からの期待を背負っている。
勇者が顕現すれば七魔人も魔王も倒せるといわれているけど……
でも、勇者が顕現するまでに、どれほどの犠牲がでるの?
私は精霊の寵愛を受けた特別な人間だから、私が頑張らないといけない。
皆にも、勇気が出る言葉をかけないといけない。
かけないといけない、のに……
…………
「俺は、まず今回の一件を、依頼主でもある国王様に報告するのがいいと思うぜ」
エリナが必死に言葉を探していた横から、ガイが先に声を上げた。
「『怠惰のリート』がどれほどの強さだったか、それと同格の残りの七魔人を討伐するのがどれだけ難しいかを報告しようぜ」
直ぐにテディが応じた。
「その考え、僕も賛成だな。正直、このまま次の七魔人を討伐できる自信ないし…… 国王様に、今回の勝因になった『真紅の秘水』を追加で支給してもらえないか、相談したいな」
そして、マリアが不安げに発言する。
「でもさぁ、アタシ達、国王様から怒られたりしないかな……? 七魔人の討伐、サイアク魔王とか出てくることもあり得るってことで、国宝級の『真紅の秘水』くれたんでしょう? それなのに、いきなり七魔人の1体目で、4本のうち2本も使っちゃったじゃん……」
「うちの国王様は、武勇で国内の反乱を平定し、諸外国からも一目置かれる生粋の武人だぜ。国内最強パーティーの俺らの強さは十分に知ってる。その俺らが全滅寸前まで追い詰められた七魔人の桁違いの強さ、話せばわかってくれるさ」
「そっか〜…… まぁ、国王様って言っても男だもんね! 怒られても、最悪、美少女のアタシの色仕掛けでなんとかなるっしょ〜」
「…………いや、本当に、余計なことしないでよね。国王様から見たら、マリアなんて有象無象の下品な女というか、それ以下というか……」
「——ちょっと表に出なさいよ、緑メガネ」
「えぇ!? ここ、もう表だよ!? それに僕、メガネかけてないよ!??」
……皆と話してて、元気が出てきた。
賑やかな仲間達に向かって、私は元気よく言った。
「私も、まずは国王様に詳細を報告するべきだと思います。今日はもう休んで、朝になったら町に戻りましょう」
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