第6話 怠惰1

 『怠惰のリート』のダンジョン——

 暗くて深い洞窟を奥に奥にと進んでいくと、突然、人工的に手を加えられたような広間に辿り着いた。

 広間の奥には、かなり大きめの、青色の両開きの扉がある。


「——最深部に着いたみたいだね」


 緑色の癖っ毛のある髪で、利発そうな顔立ちの少年が呟いた。

 右手に短い杖を持ち、少し緊張した面持ちで周りを警戒している。


「ええ、そうですね。ここには魔物の気配は無いようです」


 金色のセミロングヘアーで、非常に美しい顔立ちの大人の女性が答えた。

 腰にロングソードを2本差し、奥の扉に目を配っている。


「奥の様子、見に行ってみるか?」


 赤色のやや短めの髪で、凛々しい顔立ちの男性が皆に呼びかけた。

 背中に大剣を背負っており、腕を組んで奥の扉を見つめている。


「ええ!? ちょ、ちょっと待ってよ。アタシ、結構疲れてるんだけど〜 これから『七魔人』と戦うんだし、少し休憩しようよ」


 ほとんど金色に近い茶色のショートヘアーで、やや褐色の肌の可愛らしい顔立ちの女性が主張した。

 短い杖を腰に差し、不安そうに周りをキョロキョロとうかがっている。


「そうですね。ここは安全のようですし、休憩しましょう。皆知っての通り、これから戦う敵は、今まで私達のパーティーが倒してきた魔物とは格が違います。七魔人の『怠惰のリート』……。万全の状態で挑みましょう」


 金色の髪の大人の女性の言葉に、緑色の髪の少年が即座に反応した。


「はい、お師匠様の言うとおりです! ここまでくるのに結構魔物と戦っているし、休んだ方がいいよ、ガイ」

「そうだな、師匠の言うとおりだ。マリアも休んだ方がいいぞ」

「ええ? それ、アタシが初めに言ったんですけど〜??」


 ガイと呼ばれた赤色の髪の男性の言葉に、マリアと呼ばれた茶色の髪の女性が不服そうに答える。


 各々が休憩に向けてキャンプの準備をしつつ、会話を続けた。


「テディ、どうだ? ここまでのダンジョンの道のりで、『怠惰のリート』に関して予想できそうなことはあるか?」


 ガイの言葉に、テディと呼ばれた緑色の髪の少年は答える。


「うーん…… 特に新しい情報はないね。強いて言えば、本来耐性がありそうなダンジョン内の魔物まで動きがちょっと鈍くなってたみたいだし、『怠惰のリート』の力がどんどん強くなっているのかも……」

「ええ〜? 何で強くなっちゃうのかな〜…… もしかして、ホントにアタシらの時代で魔王復活とかしちゃう? それで戦うことになったら、超サイアク〜」

「元・聖職者とは思えない発言だね……」

「元・聖職者でも、現・聖職者でも、魔王なんかと戦いたくないわよ。ねえ、お姉様?」


 突然話を振られた金色の髪の女性は、苦笑しながら答えた。


「そうですね、私も正直、魔王と戦いたくは無いですよ。ですが、そうなってしまった時には、覚悟を持って戦うつもりです。——ところで、『お姉様』って呼び方、変えられません? 私の名前は『エリナンデス・ホワイト』ですから、『エリナ』とかで……」

「アタシも、ホントは『師匠』って呼びたいんだけど、『神聖魔法』については何も教えられないから師匠じゃ無いって言うし〜 だから、『師匠』の次に偉い『お姉様』でいいかなって!」

「『師匠』の次に偉いのが『お姉様』なんて、僕、聞いたこと無いんだけど……」


 テディが独り言のように呟いた。


 キャンプの準備ができると、各々が座って休息したり、武器の手入れをしたりと、決戦に向けて用意を始めた。


 ——ついにここまできた。


 『エリナンデス・ホワイト』、自称エリナは、落ち着いて仲間の様子を見ていた。

 この日のために、できる準備は全てしてきた。

 普通の人間は、七魔人に対峙することができない。

 精霊士という職業クラス能力スキルなのか、私は他者のステータスを認知することができる。

 七魔人の悪意に抵抗できる精神耐性も、魂の光の強さで知ることができた。

 そして、強い光をもつ『戦士ガイ』『魔法使いテディ』『僧侶マリア』と出会い、パーティーを組むようになった。ガイとテディとは、彼らが子供の時に彼らの町からの討伐依頼を受けたことがあり、面識があった。

 元々彼らは十分な実力者だったが、過去の経緯や冒険の合間に色々と教えるうちに、私のことを師匠と呼び、そして正式にパーティーのリーダーとなった。

 非常に困難な討伐依頼の数々を成功し、今や名実ともに国内最強パーティーとなり、本来はギルドを通す国からの依頼も、今回は国王から直々に討伐依頼を受けるまでになった。


 七魔人の討伐——

 過去、勇者パーティー以外で倒した記録はないけど、私達ならきっとできる。

 勇者顕現を待って魔王と決戦する、というのが今まで世界の歴史だったけど……

 でも、それだと多くの犠牲が避けられない。

 私は、この世界から精霊士という特別な力を授かった。

 きっとこの力は、人々を守るために神様が授けてくれたもの。


 贔屓目に見ても、このパーティは、勇者が率いて魔王と戦った歴代のパーティーにも引けをとらない実力だと思う。

 『怠惰のリート』の詳細な能力はわからないけど、今までの状況から、相手の行動を鈍くするような能力であることは間違いない。

 そういった能力を持つ魔物とは、今までにも戦っている。

 

 もちろん七魔人だし、今までで一番強い能力だろうけど……

 ここまで接近しても影響を受けない仲間達の精神耐性であれば、戦闘でも十分に耐えられるはず。

 七魔人特有の悪意を使った精神攻撃に耐えられれば、あとは今まで戦ってきた凶悪な魔物と同じこと。


 皆もきっと同じ思いなんだろう、それほど緊張はしてないみたい。

 あとは皆、油断して大怪我しなければいいんだけど……


「これはまだ使いたくはないが、念の為、用意しておくか」


 武器の手入れをしていたガイが、緋色の水の入った瓶を荷物袋から取り出してズボンのポケットに入れた。


「『真紅の秘水』ですね。確かに、念のため用意しておきましょう。ですが、七魔人との戦いは始まったばかりです。今後の状況次第では魔王との対峙もあり得ます—— 今回はまだ初戦、使わないで済むことを祈りましょう」


 『真紅の秘水』は国宝級のアイテムで、飲むと体力・魔力等を全回する上に、一時的にステータスが上限を超えてアップするという、まさに切り札というのに相応しい使い切りのアイテムだ。

 今回、七魔人討伐という最難関の依頼であり、かつ国家の一大事でもあるため、1人につき1つ支給されたが、それで国の保有する在庫もなくなってしまったらしい。


「これ、超レアアイテムで、すごい価値があるんだよね〜 売ったら、一生遊んで暮らせるんじゃないかってくらい…… もし『怠惰のリート』に敵わなそうだったら、さっさと外国に逃げて、これを売って皆で楽しく暮らすってのはどうよ?」

「冗談が過ぎますよ、マリア」


 エリナは軽くたしなめながらも思った。

 この子、もしかして本気で言ってるのかしら……??


 『真紅の秘水』は誰にも渡さんとばかりにガッチリ握りしめているマリアに対して、ガイが声をかける。


「俺達の実力からして、敵わないってことはないだろうが…… まあ、それくらい警戒しておいた方が良いかもな。今までで一番の強敵なのは間違いない」

「あれ、ガイがアタシの肩をもつなんて、珍しいわね〜 もしかして、可愛いアタシに惚れちゃった?」

「え? 今の会話の流れで、何がどうするとガイがマリアに惚れることになるの??」

「うるさいわね…… 男女の機微がわからない子供は黙ってなさいよ」


 決戦前なのに、皆元気ね。

 でも、相手は七魔人。

 最後に顕現した七魔人である『怠惰のリート』——まだ悪意の力が弱い方と考えて初戦の相手に選んだけど、絶対に油断は禁物。


「なあに、いざとなれば、俺の必殺技『魔王断罪剣アーク・バスター』がある。『怠惰のリート』の頭をかち割ってやるぜ」

「あれさ、いざっていうか、普段からしょっちゅう使ってるけど、ただ力任せに大剣を振り下ろしてるだけだよね? 普通の剣技と何が違うの?」

「親父は『この世に存在するいかなる生物、例え魔王ですらも防御不能の秘剣』って言ってたぞ」

「……僕が知りたかったのは、技を出す時に何か特別な動きをするとか、魔力を込めるとか、普通の剣技と比べてなにか性質が違うのかなってことなんだ」

「親父がいなくなっちまったからな。親父が使っていた時の、昔の記憶を思い出しながら自力で覚えたんで、そんな小難しいことはわかんねーぞ」

「…………それ、絶対覚えてないよね?」



 そして、小一時間ほど休憩した後、キャンプの片付けをして——


「皆、準備はいいですね。絶対に油断は禁物ですよ」

「おう!」

「はい!!」

「は〜い!」


 エリナが先頭にたって決戦の扉を開いた。

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