第4話 オープニング4
「ヒロ君……? ヒロ君!? 大丈夫!?」
ああ、ここは…… よかった、夢から覚めたんだ。
周りをみると、まだ暗いし、夜は明けてないみたいだ。
横でセディアが起き上がって心配そうに僕のことを見ている。
「ヒロ君、大丈夫? すごいうなされてた。それに、泣いてたみたい。怖い夢、みたの……?」
泣いてた? ああ、本当だ、涙が出てる。
夢で見た前世の最後が、あまりに悲しくて、泣いてたんだ。
って、まずい…… 思い出したら、また涙が……
思わずベッドの毛布の中に潜り込もうとする僕を、セディアが優しく抱きしめてくれた。
「大丈夫だよ。怖いことがあっても、私が守るから。ヒロ君には私がいるから、大丈夫。泣きたかったら、いっぱい泣いていいからね」
こういう時に優しいこと言われると、歯止めが効かなくなる……
僕はもう、恥も外聞もなく、セディアの胸に顔をうずめて思いっきり泣くことにした……
………………
…………
……
気がつくと、朝になっていた。
泣き疲れて、あのまま寝ちゃったのか。
目が、目が重たい…… 昨日泣きすぎたせいか、目が腫れているみたいだ。
ベッドの隣に寝ていたセディアの姿はないけど、朝食を準備してくれてるのかな。
ちょっと不安を感じつつ、ゆっくりと上半身を起こす。
うん、体はそんなに疲れてないみたいだ。
ドアが少し開いて、セディアが遠慮がちに中の様子を伺おして、僕と目が合った。
セディアはちょっと恥ずかしそうに僕に笑いかけた。
「おはよう、ヒロ君」
「おはよう、セディア」
こっちが現実で本当に良かった…… 心の底からホッとする。
セディアは窓のカーテンを開けた後、ベッドの横に座って、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「ヒロ君、大丈夫? 昨日は疲れたでしょう…… まだ横になってた方がいいんじゃない? お腹空いているなら、ご飯、ベッドに持ってくるからね」
「ありがとう…… セディア、少し話したいことがあるんだけど、いいかな? ちょっと変な話で驚くかもしれないけど……」
さすがに、急に前世の話なんてしだしたら、痛い人って思われるかな。
ちょっと不安になって遠慮がちに聞いた。
「ううん、なんでもお話して」
でも、きっと受け入れてもらえる。
そう信じて、僕は全部話すことにした。
さすがに前世の全てを話すには時間がかかりすぎるから色々と端折ったけど、それでも大分長い時間をかけて、僕の前世の話をした。
そして話が終わり……
ちょっとまずいことになった。
昨日の夜と、ほとんど同じ格好、つまり横になってセディアに抱きしめられる形になった。
違うのは、泣いてるのは僕じゃなくてセディアで……
「ヒロ君、可哀想…… 本当に可哀想に。辛かったよね…… いっぱい泣いていいから」
そういって自分が泣きながら、僕を慰めてくれる。
それで、僕はというと、昨日の夜で涙が出尽くしたのか、一向に涙が出る気配は無かった。
悲しいとか辛いとかいう気持ちも薄れていて、今はむしろ嬉しいような。
嬉しい?
そう、昨日の夜とほとんど同じ格好ということは、つまり今はセディアの胸に顔をうずめている格好になっていた。
昨日の夜は僕が冷静じゃなかったからあまり気にならなかったけど、冷静な今だと思う。
これは、すごい状況なんじゃないか。
前世は、あまり女性と縁がなかったし。いや、正直に言えば、女性関係はゼロだったし。
それが、記憶が戻って1日でこんな刺激的な状況になるなんて、なんてラッキーなんだろう。
しかし、ちょっとまずいぞ…… 嬉しいどころか、少し興奮してきたぞ……
さすがにこの状況で興奮するのは、空気を読めないにも程がある。
「セディア、ありがとう。もう大丈夫だよ」
「え、でも……」
ち、近い。
見上げると、すぐそばにセディアの瞳があってドキッとする。
涙で潤んだセディアの瞳を見ていると、吸い込まれそうだ……
まずい、理性が飛びそうになる……
最後の理性を振り絞って、もったいないけどセディアから離れた。
「——色々話せて、落ち着いたよ。変な話きかせちゃってごめんね」
「ううん、話してくれてありがとう。私こそ、ヒロ君がそんなに辛い思いしてたのに、気付けなくてごめんね」
いや、もう終わったことで全然辛く無いし……
むしろ、そのおかげでラッキーな経験ができたから、大丈夫です!
「ヒロ君、朝ごはん食べようか。私、いっぱい泣いたからお腹空いちゃった」
興奮状態から落ち着いてきた僕も、お腹が空いていた。
2人でベッドから起き上がって、リビングに向かった。
遅い朝食をとりながら、今日は何をしようか考えていたが、ちょっとボーッとしていたせいか、無意識に口から言葉が出た。
「今日は何をしたらいいかな…… 昨日と同じで、果樹園のお世話をすればいいかな」
セディアは、すこし驚いた表情を浮かべた後、じっと僕の顔を見た。
なんだか、ちょっと怒っているようにも見える。
「ヒロ君、少し働き過ぎなんじゃないかな?」
は、働き過ぎ!?
今日、起きてから何もしてないんだけど??
「さっきの前世のお話、きっと記憶が無くなった代わりに思い出したのかなって思ったんだけど……」
うん、僕もそう思ってた。
「それで、前世の記憶に引きずられて、働かなきゃって思っちゃってるんじゃ無いのかな? 記憶が無くなる前のヒロ君は、全然そんな感じじゃなかったわ」
——確かに、言われてみるとそうかもしれない。
前世の記憶をみたせいか、今も早く何かしなきゃって、気持ちばかり焦ってる感じがする。
「私、思ったんだ。ヒロ君がここにきたのは、神様の導きなんじゃないかなって」
「神様の導き?」
「うん、前世では、次のため、次のためにって一生懸命頑張ってたのに、あんな悲しい最後だったでしょう。だから、神様がヒロ君の『次』として、ここに導いてくれたんじゃないかなって」
実は、僕も、もしかしたらって思ってたんだ……
前世にあった異世界転生ものの王道パターンは、前世で色々と報われなかった主人公が、転生先でスローライフを満喫したり、特別な能力を与えられて冒険者とかになって無双する話だ。
もしかして、僕もその王道パターンにはまってくれたのか?
「それでね、私、決めたの。私の側に来てくれたからには、絶対に前世のような悲しい思いはさせないって。ちゃんと最後まで面倒を見て、幸せにするんだって」
嬉しいけど、なんか最後、ペットみたいな言い方じゃない??
元々のブラコン気質の上に、神様の導きみたいな考えが加わって、ちょっと気持ちが強くなっているような……
まあ、僕もさっきシリアスな場面で興奮してたし、人のこと言えないか。
若干の不安を感じつつ、それでも思う。
こんな綺麗なお姉さんにここまで思われるなんて、本当に前世の苦労が報われたんじゃ無いかって。
でも、前世の苦労っていっても、冷静に考えると自業自得の部分がある気もする。
世の中、もっと理不尽で、もっと悲惨な話がいっぱいあったし……
それでも、神様が僕を憐れんで、導いてくれたのかな。
なんにせよ、神様、感謝します!
「じゃあヒロ君、朝ごはんが遅かったから、お昼はちょっと遅めにするね。それまで、本でも読んでてね。間違っても、働こうなんて思っちゃダメだよ」
「うん、わかった」
色々と思うこともあるけど、今は大人しく従っていた方が良い気がする。
こんな幸せな状況、前世ではなかったしね。
セディアは、大人しく本を読み始めた僕をみると安心したのか、家事にとりかかる。
セディアが部屋から出ていった後、僕は本を読むのを中断して、もう一つの可能性を考えていた。
これはもう、ずっと黙ってるしか無いのかな……
セディアに前世の話をした時にするつもりだったのに、あんなに泣かれてしまって、話すタイミングを逸してしまった。
もしかしたら、僕がこの世界に転生したのはつい昨日で……
それまでセディアと一緒にいたヒロ君は、今の僕が上書きして、消し去ってしまったのかもしれないという可能性を——
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