episode1.いつもの朝と少しの恥ずかしさ
朝はまだ少し涼しくて、山の影が村を覆っている時間だった。
玄関を出ると、もう見慣れた背中がそこにある。
「......早くないか?」
声をかけると、その背中が振り向いた。
ショートボブの茶髪が、朝の風で軽く揺れる。
「だって、一緒に行く約束でしょ」
森下茉央は、何でもないことのようにそう言った。
腕時計を見ると、集合時間までまだ十分もある。
「いつからいたんだよ」
「んー大体30分前からかな」
平然な顔でそういう。茉央にとってこれが普通らしい。
「もう少し遅くてもいいんだぜ?茉央だってもっとゆっくりしたいだろうに」
そう言うと茉央は気にしなくていいという表情をする。
「いいの。こうして毎朝兄さんを待っているのが安心するんだから」
それ以上言うこともなく、俺たちは並んで歩き出した。
根木村の朝は静かだ。
古い樹木に囲まれた一本道を、二人分の足音だけが進んでいく。
畑の方から声がした。
「あら、今日も一緒かい」
腰を曲げたおばあちゃんたちが、手を止めてこちらを見ている。
「仲がいいねぇ」
「はい、おはようございます」
茉央は慣れた様子で頭を下げる。
俺も軽く会釈をした。
村では、こういうやり取りは日常だ。
山奥にある村だから村人はみんな仲がいい。
学校は分校で、校舎は小さい。
教室は二つしかなく、俺たちが使うのはB教室だ。
「おはよー」
扉を開けると、すでに何人か集まっていた。
「今日も一緒かよ」
からかうような声が飛ぶ。
「当たり前でしょ」
茉央が即座に返す。
教室に、いつもの笑い声が広がった。
机に鞄を置き、椅子に座る。
窓の外には、変わらない山の景色がある。
この村で、この学校で、
俺たちはずっとこうして過ごしてきた。
特別なことは何もない。
ただ、今日も同じ朝が来ただけだ。
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