無垢な君へ送る手紙

@pedi722momo

prologue.それでも、心地いい

夜は、思っていたより眠れない。

じめじめとした空気が布団の中に溜まっていく。

目を閉じても、頭だけが冴えてしまう。

考える。

考えなくていいことまで、考えてしまう。


まるで自分が、世界のすべてを知っている裁判官みたいに。


罪人は裁かれる。

英雄は称えられる。


じゃあ、罪って何だ。

倫理から外れたことか。

みんなが望まないことか。


裁かれるべきは誰だ。

被告人は、俺自身だ。


重たい空気の中で、喉が鳴る。

思考は濁っていくのに、耳だけが妙に冴えている。

夜の音が、はっきりと聞こえる。


――被告人は、無罪である。


頭の中の裁判官がそう告げる。

俺は法を破っていない。

誰かを直接傷つけたわけでもない。


ああ、そうか。

悪くない、らしい。


それなのに、胸の奥だけが重い。

悪いことをしていないはずなのに、言葉にならない。


もっといいことをすればよかったのか。

もっと称えられる選択をすれば、英雄になれたのか。


「いいこと」って、なんだ。


みんなの思い通りになることか。

自分の欲を押し殺すことか。

みんなが幸せになることか。

それとも、自分が幸せになることか。


みんなの望む通りにすれば、世界はきっと平和だ。

でも、その先に残るのは後悔だけじゃないのか。


そんなことを考えていると、

溜まりにたまった気持ち悪さの中に少しの心地よさが生まれた。


頭の中の裁判は、そこで止まった。


じめじめとした空気の中で、

気持ち悪さと一緒に、妙な安心感が広がっていく。

良くないと分かっているのに、離れられない。


――いいのか。

――後悔しないのか。


きっと、後悔する。

それは分かっている。


それでも、今は心地いい。

考えることをやめて、ただ身を任せる。


あとから、はっきりと分かる。

この感覚が、罪なのだと。


自分の欲に従った。

自分の中では、英雄的行為だったのかもしれない。

周りから見ても、正しいことだったのかもしれない。


それでも、満たされない。


あぁそうか。これが...罪か。


これは罰だ。

贖罪だ。


この罪を認めて、背負って生きていくしかない。


――たとえ、この子を壊したとしても。


俺は、そう決めてしまった。

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