episode2.いつもの昼休み。毎日弁当、大変じゃないのかな

 「はい、今日はここまで。続きは次回な」


 先生のその一言で、教室の空気が一気に緩んだ。


 「よっしゃー、お昼だお昼!」


 真っ先に声を上げたのは、吉澤彩花先輩だった。


 「今日もみんなで食べよ~!!」


 「動くのめんどくさいんだよ」


 椅子にもたれたまま、桐山健太が面倒そうに言った。

 一つ年上の先輩で、口ではよく文句を言うが、結局いつも流れに乗る人だ。


 「まぁまぁ、いいじゃないですか」


 それをなだめるように声をかけたのは志織だった。

 茉央と同い年で、俺たちより二つ下。

 控えめな口調だが、こういう場面では不思議と場を和ませる。


 「どうせ来るくせに」


 彩花先輩が笑いながら言うと、健太は小さく舌打ちをした。


 「分かってるなら言うなっての」


 誰も本気で断る気はない。それが、いつもの流れだった。


 机を寄せて、B教室の一角に人が集まる。


 俺と茉央。

 健太と彩花先輩。

 そして、茉央の隣には志織が座る。


 「今日のおかず何?」


 「卵焼きと、昨日の煮物」

 

 「また先輩のために作りすぎたでしょ」


 「そんなことないよ」


 二人は顔を寄せて、そんな他愛ない話をしている。

 昼休みの間、茉央と志織はだいたいいつもこんな感じだ。


 そこに——


 「飯食うんだろ!俺も混ぜろよー」


 間延びした声と一緒に、教室の扉が開いた。


 「出た」


 反射的にそう呟く。


 小林翔先輩だ。


 「飯だけ一緒に食いに来るなよ。ってか不法侵入だぜそれ。訴えてやろーか」


 「いいじゃねぇか。俺の母校だぞ?」


 そう言いながら、翔は勝手に机を引き寄せ、弁当を置いた。

 完全に慣れた手つきだ。


 そして、当然のように俺を見る。


 「なあ恒一、それ今日も茉央の?」


 「そうだけど」


 「毎日だよな。いい身分だなほんと。羨ましいわー」


 「へ、羨ましいだろ」


 そう言い返すと、翔は満足そうに笑った。


 「親友として忠告しとくけどさ、もう完全に夫婦だぞそれ」


 「違うって」


 「何が違うんだよ。弁当作ってもらって、毎日一緒に登校して」


 そこまで言ったところで、彩花先輩が軽く手を振る。


 「まあまあ。いいじゃん、仲いいのはいいことだよ」


 「そうそう」


 健太も適当に相槌を打つ。


 茉央は、俺の隣で静かに弁当箱を開いていた。


 「兄さん、今日のおかず、昨日言ってたやつだよ」

 

 「ああ、ありがとう」


 「ちゃんと食べてね」


 それだけ言って、箸を進める。


 志織がそれを横目で見て、小さく笑った。


 「ほんと、毎日律儀だよね」


 「普通でしょ?」


 茉央は首を傾げる。

 本当に、何もおかしいと思っていない顔だ。


 翔がそれを見て、肩をすくめた。


 「はいはい、ごちそうさま」


 「まだ食ってねえだろ」


 「心の方が先に満たされたわ」


 教室に笑い声が広がる。


 昼休みは、こうして過ぎていく。


 狭い教室。

 少ない人数。

 変わらない顔ぶれ。


 この村では、これが当たり前だった。

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無垢な君へ送る手紙 @pedi722momo

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