第4話 魔法に目覚める
ジュンカンは鬼だった。その美貌に似合わず口汚く罵しり、男の股を蹴り上げることもある。女にも容赦はない。泣き言を言う者は殴るし、疲労で地べたに這いつくばれば、その顔を踏みつけたりする。
「黙っていればいいのに。せっかくの顔が台無しだ」
ケイは聞こえないように言ったつもりだったが、ジュンカンの耳に届いていた。次の瞬間、激しく股を蹴り飛ばされ、うずくまってしまった。
「下賤な奴隷の分際で、生意気な口をきくな!」
ジュンカンは、今から二百年以上前、この国が三つに分かれて争っていた時代の、ある名軍師の子孫なのだという。国が滅び、時代が変わっても、その家は代々名家として宰相や軍略家を輩出してきた。
ジュンカンは、そんな家に女子として生まれた。幼い頃から美貌の片鱗を見せていたため、各家からの求婚が絶えなかった。
だが、ジュンカンは自分の人生を自分で決められない生き方に嫌気がさしていた。生活魔法しか使えない女性なら受け入れるしかなかっただろう。しかし十八歳になったある日、交際を求めてきた男の、あまりに慇懃無礼な態度にカッとなり、平手打ちをした。
その瞬間、手の平に石が生じ、男の歯を何本もへし折るほどの衝撃を与えた。
戦闘に役立つ魔法を使えると、軍では女も男も関係なく出世できる。ジュンカンは親を説得し、軍に入隊した。代々軍略家を出してきた家柄でもあり、親も若いうちならと妥協した。
ジュンカンは兵としての鍛錬だけでなく、魔法の訓練にも励んだ。そのうち、石礫を生じさせ敵に飛ばす魔法を習得する。将軍の使う魔法に比べれば低級だが、攻撃にも防御にも使える土系魔法の初歩を会得したことで、伍長に昇進した。
敵を三十歩離れた位置から石礫で打つ。怯んだところを兵で襲いかかり、討ち取る。その戦法を繰り返すうち、石礫の威力も増していった。やがて百人将を五人、六人と討ち、百人将に昇進する。
ある日、タクゲンの目に留まり、副官として誘いを受けた。タクゲンはジュンカンの腕を買っただけでなく、下心もあったのだが――。
ダイとの戦にも従軍した。戦況は危うく、タクゲンの千人隊も崩れかけていた。しかし、突撃してきた敵騎馬小隊を率いる五百人将を討ち取ったことで、何とか崩壊を免れた。これにより、ジュンカンは五百人将に昇格する。
軍に入って二年での出世。悪くない、とジュンカンは思っていた。
来るべき戦争に備え、タクゲンから新兵訓練を任される。訓練で命を落とす者がいても構わない、と言われていた。ただし、ケイという名の奴隷だけは殺すな、と。
集められた兵は奴隷出身の者が多く、兵としての基礎もなっていなかった。魔法の腕も期待できず、ジュンカンはため息をついた。
だが、その中に一人、目つきの違う者がいた。年は自分よりやや下か。そして、じっと人の顔を見てくる。
苛立ち、怒鳴りつけ、蹴り飛ばした。
「こいつがケイか……ただの色ガキじゃないか」
ジュンカンは興味を失った。殺すなと言われてはいるが、訓練に事故は付き物だ。手加減するつもりはなかった。
ジュンカンは兵たちの魔法適性を確認する。
この世界の魔法は五系統ある。火・水・木・土・金。
火系統は単に火を付けるだけでなく、火の形状を様々に変え、敵に打撃を与える。将軍ともなれば、広範囲で敵を爆破することもできる。
水系統は水を作り出す。何かと役に立つ魔法だが、攻撃に使えば水流で敵を押し流すこともできる。
木系統は補助系魔法だ。自身や味方の身体を強化させる。また、縄を作って敵を縛り上げたり、大木を作って梯子のように城壁に掛けることもできる。
土系統は、ジュンカンのように石礫を投げたり、地面を盛り上げて防壁を作ることができる。
金系統は鍛冶の魔法だ。武器に魔法属性や魔法耐性を付与することができる。しかし金系統の魔法の担い手は極めて少なく、貴重であった。
ケイはジュンカンの説明を聞き、頭が混乱した。自分の知る史実とのズレだけではない。弓矢や刀剣などの武器だけでなく、魔法の使用を前提とした戦い。この異世界で、果たして自分は生き残ることができるのか……。
ジュンカンの説明は続く。
魔法は生活魔法程度なら誰でも使える。より強力な魔法を習得するには、訓練するか承継するしかない。訓練では限界があり、承継することでより強力な魔法を手に入れることができる。だが、承継は自身と同格か、一つ上程度の身分の者を倒した時に行われるが、それも運だった。敵から承継した事例はあまり聞かなかった。
また、承継はお互いが同意すれば可能でもある。だが、大きく身分の違う者同士での承継は苦しみを伴う。場合によっては、承継者は耐えきれず死ぬ可能性が極めて高い。そのため、この方法もあまり事例がなかった。
「もっとも、お前らのような下賤な者どもに、倒される気も承継する気もないけどな」
ジュンカンは言い捨て、一人ずつ魔法を使ってみせろと命じた。
ほんのわずかに指先に火が灯るだけの者、いくら踏ん張っても、わずかに水が滲むだけの者。そのたびにジュンカンは容赦なく殴り倒した。
中には踏ん張りすぎ、屁を出した者がいた。照れたように笑った、その瞬間――剣が閃いた。
「まじめにやれ!」
ケイは怯む。ここまでやる必要があるのか。史実では自分は皇帝になるはずだ。こんなところで死ぬはずはない。だが、この異世界でも同じなのか。足が震えた。
やがて、ケイの順番が来る。
「早くやれ!」
指先に意識を集中する。火を灯すだけでは足りない。さらに、さらに集中する。的の案山子を見据えた。
バシュッ。
火は矢の形となり、案山子を燃やした。
ケイは自分の行ったことに目を疑った。
ジュンカンも、目を見開いたまま言葉を失っていた。
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学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ 越後⭐︎ドラゴン @echigo03
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