ローファーとパジャマ

@lenti_kota

第1話


待ちに待った金曜日。

週末。


今日は、初めて彼の家に泊まる日。




この日の授業はほとんど上の空だった。


でも仕方ないよね?

高校1年生の冬に付き合い始めて10ヶ月余り…。

とうとうこの時が来た!って感じなんだもん!


とにかく私は、かなり舞い上がっていて、そして緊張していた。



学校が終わると、別のクラスの悠人くんが迎えに来てくれた。


「杏奈、もう帰れる?」

悠人くんはいつもよりちょっとはにかんだような笑顔に見えた。


悠人くんも緊張してる、よね…?


「う、うん!帰れるよ!」



学校から駅までの道、私は緊張を隠すように、他愛もない話をした。

そんな中身があるようで無いような話を、悠人くんは優しく聞いてくれた。


駅に着いて、今朝コインロッカーに預けていたお泊りセットの荷物を引き取った時、急に実感が湧いてきた。


今日悠人くんの家に泊まるんだって。


「忘れ物とか大丈夫?」

悠人くんにそう言われて、頷こうとした瞬間フリーズした。


まず一つ目の忘れ物に気づいてしまった。


「杏奈?どうしたの?」

悠人くんが大きなくるんとした目で私の顔を覗き込んでいる。


「…靴、忘れちゃった…」


「靴?」


「うん。明日来ていく服のことばっかり考えてて、ほら。」

私は言いながら自分の足を持ち上げた。


「そっか…学校はローファーだもんな…」

悠人くんも盲点だったという感じで頷いている。


「う〜ん。まあ…コーディネートを無視すれば履けないこともないから…いっか!」

私は暗い気持ちを振り払うように笑って歩き出した。


「え、いいの?どんな服持ってきたの?」

悠人くんは心配そうに私に合わせて歩き出す。


「えっと、この間も履いてたネイビーのスカートと、上はパーカー」


「あぁ、あれね…。あれって結構短めのスカートじゃなかった?」


「まぁ、そうだね…。ロングブーツ履くつもりだったから、靴下も適当なの持ってきちゃったなぁ。明日は生足ローファーかな笑」

明日の自分のコーデ終わった〜と思いながら、諦めの乾いた笑いを悠人くんに向けた。


悠人くんも笑っているかと思ったら、予想とは裏腹にちょっと眉間に皺が寄っていた。


「生足ローファー…」

そう呟いたきり、悠人くんは視線を動かして何かを考えている。


ちょっとの沈黙の後


「じゃあさ、明日水族館行く前に、杏奈の家に寄って靴履き替えよっか」

いいこと思いついた、という顔で悠人くんがにっこり笑った。


「え!?い、いいの…?」

実はちょっと頭を過ぎっていたけど、言えなかったので内心嬉しい私。


「うん。方向的に寄り道できるしね。はい、解決!」


悠人くんはそう言って、私が持っていたお泊まりセットの入ったトートバックをスッと持ってくれて、代わりに私の手は悠人くんの手に包まれていた。


悠人くん、優しい…!


「悠人くん、ありがとう!」


こうして一難を乗り越えて、私たちは駅のロータリーに向かった。



「杏奈ちゃん、学校お疲れ様〜!乗って乗って〜!」

ロータリーには悠人くんのママとパパが車でお出迎えしてくれていた。


その声に挨拶をしながらペコリとお辞儀して、車の後部座席に悠人くんと2人で並んで座った。


「明日は最近リニューアルオープンした水族館行くんでしょ?また感想聞かせてね!」

悠人くんママは助手席からこちらに振り向きつつ、明るい声で車内のムードメーカーを務めてくれている。


「はい!悠人くんママたちも旅行楽しんできてくださいね!」

私は悠人くんママとその横で運転している悠人くんパパに向かって言った。


「いや〜旅行って言っても、近場の温泉宿に泊まりに行くだけなんだけどねぇ。それでも…夫婦だけで温泉旅行とか、何年振りか分からないくらいだよなぁ」

悠人くんパパは恥ずかしげに笑っている。


「本当に!やっぱり悠人ひとりにするのは、なんか気が引けちゃってね〜。だから、悠人に杏奈ちゃんが居てくれてよかったわ〜」


「いや、そんなん気にせず好きに旅行しなよ」


「な〜によ、杏奈ちゃんの前ではカッコつけちゃって〜」


悠人くん家族の平和な団欒に混じりながら、ほっこりモードになっていた、そんな時。


「あ、そうだ!悠人、いつもの寝巻き洗って干してるから!適当に取って着てね〜」


悠人くんママのその一言で、私は二つ目の忘れ物を思い出してしまった。


やばいやばいやばい!


今度はパジャマ忘れた!!


どこまで浮かれポンチなんだ!!私ってやつは!!


「杏奈、聞いてる?」

「え?」


悠人くんの声で我に返る。


「あ、ごめん!聞いてなかったっ!」


「…どうかした?また何か忘れた?」


「え……なんで分かるのぉ?」

私は情けない顔をしながらも、彼をエスパー悠人と名付けたくなった。


「いや、さっきと同じような顔してたから笑 で、何忘れたの?」

悠人くんはちょっと笑いながらそう言った。


「…パジャマ忘れちゃった」

私は悠人くんママとパパに聞こえるかどうかくらいの小声で伝えた。


「なるほど…」


悠人くんはまた少しの間を置いて考えると


「じゃあ俺のやつ着なよ。ちょうど洗ったらしいし」

悠人くんは私に顔を寄せて小声でそう言ってくれた。


「え、いいの?」

エスパー悠人改め、神様、仏様、悠人様…!あなたはなんて優しいの…!

そんな気持ちで見上げる。


「うん。大丈夫だから、そんな泣きそうな顔しないの」

子供に言い聞かせるみたいに言われて、ちょっと恥ずかしくなってコクリと頷いた。


「杏奈ちゃんと居る時の悠人って、なんかしっかりしてるわよね」

悠人くんママから一部始終聞かれていたんだろうなという言葉を受ける。


「あ、いや…私がダメダメなんです…」

悠人くんママとパパの前で失態を晒してしまい、ガクンと肩を落とす。


「杏奈は学校とか部活とかでみんなに頼られてて、きっちりしてるし気遣いとかもすごいんだけど、普段の自分のことになるとどっか抜けてるんだよ」

一方の悠人くんはとうの昔からわかってました知ってましたというテンションで答えている。


「へ〜!そうなんだ〜!だから普段は悠人がしっかりしてあげてるんだ〜」

悠人くんママはなんだか嬉しそうにしている。


「そういうこと。だから杏奈は遠慮せずに俺に頼ったらいいの」

悠人くんはママとパパなんかお構いなしという感じで、私の手をギュッと握ってくれた。


「うぅ…ありがとう…悠人くん」

改めて悠人くんの愛を感じた私。



悠人くんの家に着き、車を降りて悠人くんママとパパを見送った。


「まだ元気ない?」

悠人くんが私の顔を覗き込む。


「ううん、大丈夫!悠人くんのお陰で…ほんとに色々ありがとう…」


「いえいえ」

悠人くんは大丈夫の合図みたいに、繋いでいる手をまたギュッとしてくれた。


「でも、悠人くんに私のへっぽこっぷりがバレてしまっていたなんて…」


「ははっ、へっぽこっぷりって笑 でもさ、俺そういう杏奈も結構好きだよ」


「へ!?」

突然の好きという言葉に変な声が出た。


「学校のみんなはしっかり者の杏奈しか知らないからさ。杏奈の世話焼けるのは俺だけの特権ってことでしょ?」


「そ、そうなのかなぁ…」


「うん。だから杏奈はそのままで大丈夫だよ。大体のことは俺がどうにかしてあげる」

悠人くんはそう言って、私の頭をポンポンと撫でた。


今日の悠人くんはいつにも増して糖度高くない?!

心臓もたないよ…!!


「はい、どうぞ」

悠人くんが気恥ずかしそうに玄関のドアを開けてくれた。


その時に見えた耳が真っ赤で可愛くて、私ばっかり緊張してるのかと思ったけど、きっとそんなことないんだと思えた。


失敗ばかりの私だけど、悠人くんとならきっと大丈夫。


でも一つだけ心配なことがあるとすれば…


ここに来るまでの間で、もうたっぷりの愛を受け取ってしまった私。


メインはこれからなのに…


もうすでにお腹いっぱいなんですけど…!!

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