第1話 勇者様とおっちゃん。
勇者アルテア、魔王を倒した最強の剣士。
子供なら一度は憧れる魔王を倒した男。
そして今、俺たちは目の前でその張本人と共に食事をしている。
「久しぶりだな、アルテア。いや、今は勇者アルテアか?」
「その呼び方はやめてよ。今は勇者じゃないしさ」
「あはは、相変わらず謙虚な奴だなっ」
おっちゃんとアルテア様は楽しそうに談笑し、昔の話を語り合っていた。
正直、おっちゃんは嘘の自慢話を語っていると思っていた。
が、勇者との会話を見る限り、どうやら嘘ではなかったらしい。
「でも、この村で鍛冶屋をしていたとはね。冒険者は卒業したのかい?」
「ああ、そうだな。誰かさんのお陰もあって、今は本業に戻ったんだぜ?」
「あはは、誰だろう?」
さすが勇者様。自分の偉業をジョークにするとは。
アルテア様は優しい表情でおっちゃんと酒を交わす。
いやしかし。勇者様はこんなにも礼儀正しい青年だとは。
最強と呼称されているが、魔王を倒したと思えない慎重さ。
初対面でそんな印象を受けた。
しかし、この世界のたった一人の英雄だ。
彼の伝説は書物にもなっている。
俺らはそれを「他の人もできる」なんて言ってはならない。魔王討伐は勉強よりも難しいクエストなのだから。
「ほら、カルエルも何か話せよ。お前さんの憧れと話すチャンスだぞ?」
「おっちゃん!それは言わないでよ!」
「ははっ、おかしなことか? もっと握手とかサインとか、ほら色々あるだろ?」
おっちゃん、それを話はやめてくれ。今の俺は心拍が上がって、目眩がするんだ。
「え? 君は私のファンなのかい?」
「あっ、ま、少しだけです……けど」
「何言っているんだよっ。昔からアルテアの伝説を日が暮れるまで話してたじゃねえかっ」
勇者が話してくれた! それだけで感動である。
これは来世の子どもに伝えるべきイベント。
空気を読まず素性を説明するおっちゃんがいるが。
「へーそうなのか。失礼だけど彼はキミの何なんだい?」
「カルエルか? まぁ弟子みたいなもんだな」
「なるほど……じゃあ、どんなものか試してもいいかい?」
「え? 試す?」
試すとはどういう意味だ? 俺は何をされるんだ?
少し恐怖で戸惑う俺。しかし、おっちゃんは答える。
「あー、まぁ期待はしない方がいいぞ? コイツはまだ手合わせに慣れていないんだよ」
「なっ、どういう意味⁉」
おっちゃん、それは余計なお世話だよ。
ただ、自分が劣るのは事実。言い返したいところだが、ぐうの音も出ない。
勇者はコップを置いて口を開く。
「そうか。……せっかくだし実戦を教えようか?」
「え? じ、実戦?」
なんだ? いま俺は憧れの人に修行の誘いを受けたのか?
しかもあの最強の剣術を無料で?
「どうだい? 悪い話ではないと思うけど……」
「ぜひお願いします! アルテア様、いやアルテア師匠!」
俺は勇者の剣術を目の前で見れる提案に食い下がるように答えた。
なんせ勇者様は最強の剣士でもある。
憧れの人に教わる機会は、くじ引きで当たらない限りあり得ない話だ。
ここは思い切って決断するべきだと俺は心を決める。
「じゃあ、少し借りるから」
「ああ、いいぜ。カルエル、修行中に弛んだりするなよ?」
「そんなことしないよっ! じゃあ師匠、よろしくお願いします!」
「あはは、よろしくね?」
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