第3話 歪んだ解釈と神の介入



​(「ずっと、一緒に仲良くして居たい」……か)


​ ボクは子供たちの無垢な瞳を見つめながら、脳内で高速の検索をかけました。

 人間ごときが「永遠」を望むとは、なんと傲慢ごうまんで、滑稽こっけいなことでしょう。

​ ただ物理的に近くにいるだけでは、いつか心は離れます。

 幼馴染が成長して疎遠になるなんて、よくある話です。

 それに、寿命という絶対的な壁がある。死ねばそこで終わりです。

​ ならば、彼らの願いを叶えるには、並大抵の絆では足りません。

 時代を超え、歴史に刻まれ、愛と憎しみと政略が複雑に絡み合い、決して切り離すことのできない「運命の鎖」で縛り付ける必要がある。


​(検索完了。……おやおや、これは面白い)


​ ボクの脳内データベースが、一つの時代、三つの魂を弾き出しました。

 場所は、ここより少し西。時代は、四百年以上も昔。


 戦国乱世と呼ばれる血生臭い時代。


​ 一人は、天下布武を掲げる魔王・織田信長。


 一人は、その最愛の側室であり、精神的支柱であった生駒吉乃。


 一人は、政略結婚で結ばれ、戦友とも称された正室・濃姫(帰蝶)。


​ 史実では悲劇的な別れや、複雑な関係性を含む三人ですが……


 これほど強固に、魂レベルで「セット」として扱われる関係もそうそうありません。


​(ククク……。平和な現代日本に生きるこの子たちを、修羅の戦国へ放り込む。

そこで「仲良く」スローライフでも何でも目指してあがきなさい。

それが、君たちが望んだ「ずっと一緒」の代償ですよ)


​ ボクは口角を吊り上げ、大仰に両手を広げました。


​「素晴らしい願いです! その心意気に免じて、ボクが持てる最高の魔法で叶えて差し上げましょう」


​ ボクが指を鳴らすと、三人の子供たちの身体が、淡い光の粒子に包まれ始めました。

 大地少年たちは、自分たちの身体が透けていくのを見て驚いていますが、恐怖は感じていないようです。


 愚かなことに、ボクを「親切な魔法使い」だと信じ込んでいるのですから。


​「さあ、おきなさい。時空を超えた、終わらない因果の旅へ──!!」


​ 某ドラマの女優案内人のように指を差してから、ボクは魔力を解放し彼らの魂をこの世界から引き抜こうとした、その瞬間です。


​ ゴゴゴゴゴ……ッ!!


​ 地鳴りのような音が響き、周囲の雪が逆巻いて吹き上がりました。


 猛吹雪の向こうに、ボクの魔力とは異なる、清浄で重厚な「気配」が立ち上ります。


​ 雪煙が集まり、巨大な朱色の幻影を形作りました。

 それは……『鳥居』でした。


​『……待て』


​ 頭蓋ずがいに直接響くような、厳かな声。

 鳥居の奥から、白い狩衣かりぎぬのような光をまとった人影……いや、神影が現れました。

 顔は見えませんが、明らかに不機嫌なオーラを放っています。

​『異国の魔神ジンよ。我がシマで、好き勝手な真似は許さぬぞ』


​「おや……。これはこれは、ここの大家おおやさんですか?」


​ ボクはわざとらしく驚いてみせました。


 日本の土着神。八百万やおよろずとかいう、数の多さだけが自慢の神々の一柱でしょう。


 どうやら、ボクが歴史に干渉しようとしたのを感知して、止めに来たようです。


​『その子供たちの魂を放せ。彼らはこの時代の、この土地に必要な命だ。過去へ送るなど、歴史の改竄かいざんも甚だしい』


​「お断りしますね」


​ ボクは即答しました。


 神ごときに命令されて引き下がるなど、魔神のプライドが許しません。


​「契約は成立したのです。彼らは『ずっと一緒』を望んだ。それを叶えるための最適解が、戦国転生だった。それだけのことですよ」


『それが「解釈の暴走」だと言うのだ! 去れ、邪悪なランプよ!』


​ 神が腕を振るうと、目に見えない結界の衝撃波が襲いかかりました。


 ボクは咄嗟とっさに障壁を展開して防ぎます。


​ バチバチバチッ!!


​ ボクの「転生魔法」と、神の「防衛結界」が衝突し、空間がきしんだ音を立てました。


 その余波は、間に挟まれた子供たちを直撃します。


​「うわあああん!」


「だいちくん! こわいよぉ!」


​ 光の粒子になりかけていた三人の魂が、二つの強大な力に引っ張られ、グニャリとゆがみました。


​(チッ……! しつこい神ですね!)


​ ボクは舌打ちをしました。

 ボクの力の方がまさっていますが、ここは敵のホームグラウンド日本


 神の結界が邪魔をして、魂を完全に戦国時代へ送り込むことができません。

回線が詰まったように、転送処理が止まってしまいます。

​ しかし、神の方もボクを完全に弾き返すことはできていません。

 

 このままでは、子供たちの魂が引き裂かれて消滅してしまう。

 そうなれば、「願いを叶える」というボクのノルマも失敗になり、封印解除が遠のきます。それだけは避けなくては。


​「……ええい、鬱陶うっとうしい! 

ならば、こうしてやりますよ!」


​ ボクは転送の術式を強引に書き換えました。

 『即時実行』から、『遅延実行ラグ』へ。

​ その隙間から、ほんのわずかな魂の欠片かけら……全体の数パーセントほどが、神の結界をすり抜けて、戦国時代へと漏れ出していきました。

 

 残った本体の魂は、現代へと弾き返されます。


​ ドサッ、と雪の上に倒れ込む三人。

 光は収まり、鳥居の幻影も薄れていきました。


​『……む? 術を解いたか?』


​ 神が怪訝けげんそうに声を上げます。

 ボクはランプのすすを払うふりをしながら、不敵に笑ってやりました。


​「勘違いしないでくださいよ。ボクは諦めたわけじゃありません」


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