最終話 遅延された運命と気まぐれなサービス



​「予約、完了 ♪」


​ ボクは誰にも聞こえない声で呟き、ニヤリと笑いました。

​ 日本の神様は、子供たちの姿が元に戻ったのを見て、安堵あんどの息を漏らしているようです。


『ふん。分をわきまえたようだな、異国の魔神よ。この国の子宝を勝手に持ち出されては困る』


​「ええ、ええ。郷に入っては郷に従え、とも言いますしね」


​ ボクは殊勝しゅしょうな態度を装いました。

 ですが、魔法はキャンセルされたのではありません。「保留」されたのです。

​ 彼らの魂のほんの一部……微細な欠片かけらだけは、先ほどの衝突で戦国時代へと漏れ出してしまいました。まあ、それは「下味」としてちょうど良いでしょう。


 ボクは子供たちの額に、人間には見えない刻印を押しました。彼らが高校生になった瞬間に起動する、転移魔法のタイマーです。


​ ……さて。これで帰ってもいいのですが。


 ボクはふと、泣き腫らした子供たちの寝顔を見下ろしました。

 彼らの願いは「ずっと一緒にいたい」でしたね。

​ せっかくボクが「戦国時代での永遠」を用意してあげたのに、それが数年後にお預けになった。

 その間、彼らが離れ離れになって疎遠になり、友情が冷めてしまっては、ボクの極上の魔法ネタが台無しです。


​「仕方ありませんね。特別サービスですよ」


​ ボクは指先で、彼らの現世での「運命パラメーター」を少しだけいじりました。


 立ち退き、引っ越し、親の転勤。


そういった大人の事情(乱数)を調整し、すべてが彼らの都合の良いように転がるように。


​『二度と来るなよ』


「善処します」


​ 神の不機嫌な声を背に、ボクは次の願い主のもとへ転移を開始しました。


 これは慈悲ではありません。


数年後に最高の状態で絶望してもらうための、熟成期間に過ぎないのですから。



​ ◇



​「……ん、あれ?」


​ 最初に目を覚ましたのは、大地でした。

 続いて、空と海もむくりと起き上がります。


​「うちら、寝ちゃってた?」


「なんか、すごい変な夢見てた気がする……。おばけとか、神様とか」


​ 三人は雪を払いながら、顔を見合わせました。


 不思議なことに、ランプのことや魔神との会話は、霧がかかったように思い出せません。


 ただ、一つだけ変わったことがありました。


​ 家に帰ると、大地の両親が興奮気味に話していたのです。


「大地! すごいぞ! 転居先が決まったんだが、なんと空ちゃんたちの家のすぐ隣なんだ!」


「えっ、ほんと!?」


​ それは奇跡のような偶然でした。


 ダム建設による集団移転の抽選、親の転職先の立地、すべての条件がパズルのように噛み合い、三人の家族は「同じ街の、同じ区画」に引っ越すことになったのです。


​「やったあ! これならずっと一緒だね!」


「うん! 魔神さん……じゃないや、神様ありがとう!」


​ 三人は手を取り合って喜びました。


 それが、気まぐれな魔神による「熟成のための下準備」だとも知らずに。




​ ◇



​ ── そして、時は流れ。


 西暦二〇✕✕年。


​ 大地、空、海の三人は、高校生になっても変わらず一緒でした。


 家が隣同士で、幼稚園から高校までずっと同じクラス。「腐れ縁」という言葉すら生温い、正真正銘の「幼馴染トリオ」として、周囲からも公認の仲になっていました。


​ とある放課後の教室。


 大地は、窓際の席で二人の馬鹿話を聞きながら、ふと窓の外を眺めました。


​(平和だなあ……。こんな毎日が、ずっと続くと思ってた)


​ なぜか最近、妙な胸騒ぎがするのです。


 夜になると、燃え盛るお寺や、知らない着物の女性の夢を見る。


 そして今、視界の隅で、時計の秒針がカチリと頂点を刻みました。


​ その瞬間……大地の耳元で、聞き覚えのある、けれどずっと忘れていた「あの声」が響きました。


​『──お待たせしました。熟成(なかよし)期間は終了です』


​ パチンッ


​ 乾いた指を鳴らす音が、世界を反転させます。


 視界が暗転し、教室の床が抜け落ちるような浮遊感。


 それは、あの雪の日に交わした契約の、真の履行。


​ 神々のバグを修正し、止まっていた時計の針が動き出す。




 大地と、空と海の、時空を超えた「戦国スローライフ(?)」の幕開けだった……



── 本編


『俺が信長で、幼馴染が吉乃と濃姫!? ~転生幼馴染トリオ、本能寺フラグ回避して戦国スローライフ目指します』


に続く ──






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