第16話 前夜の評価

ドラフト会議、前日。


 テレビは、つけなかった。

 速報を追う資格は、まだない。


 スマホには、

知らない番号の着信履歴。


 出ない。


 聞かなくても、

分かっていることばかりだからだ。


 「捕手・早乙女は、

 関西レオニダスが一位で狙っている」


 「即戦力。完成度重視。

 レオニダス向きだ」


 誰も、異論を挟まない。


 問題は、俺だった。


 「投手・霧島は――

 東都グリフォンか、

 北辰オーロラズ」


 評価は、割れている。


 「グリフォンは育成前提」

 「オーロラズはデータ評価が高い」


 だが、

必ず付く言葉があった。


 ナックル。博打。


 翌日。


 会場の空気は、

静かに張り詰めていた。


 カメラの数。

 記者の数。


 俺と早乙女は、

隣に座っている。


 「……先に行くかもしれない」


 早乙女が、

いつも通りの声で言う。


 「ああ」


 それでいい。


 バッテリーは、

もう役目を終えた。


 ここからは、

個人の評価だ。


 ドラフト開始。


 コミッショナーの声が、

会場に響く。


 「第一巡選択希望選手――」


 関西レオニダス。


 来た。


 「早乙女 恒一」


 会場が、どよめく。


 単独一位。


 完成品としての評価。


 フラッシュが、

早乙女を包む。


 俺は、立ち上がって拍手した。


 心から。


 次。


 間が、少し空く。


 ――ここだ。


 「第二巡選択希望選手――」


 東都グリフォン・ベースボールクラブ。


 一瞬、

空気が変わる。


 「霧島 恒一郎」


 呼ばれた。


 順位じゃない。


 球団名だ。


 育成を選ぶ球団。

 理論を信じる球団。


 立ち上がる。


 視線の先に、

グリフォンのロゴ。


 壇上で、

ペンを握る。


 そのとき、

ふと思った。


 北辰オーロラズは、

最後まで迷ったはずだ。


だが――

選んだのは、グリフォンだった。


 未完成を、

 未完成のまま引き受ける覚悟。


 サインを終え、

席に戻る。


 早乙女が、

小さく笑った。


 「育てられるな」


 俺も、

わずかに笑う。


 「ああ」


 これで終わりじゃない。


 むしろ、

ここからが始まりだ。


 完成していないから、

指名された。


 それで、いい。


 俺は――

プロで、完成させる。

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